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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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アリスキテラの知る歴史

あの場では失礼にあたるとし、サハロセテリの提案で俺達はエルフの城の中で最も景色の良いバルコニーへと案内された。


半円状に城の壁からせり出したバルコニーは、簡素ながら中々趣のある造りだった。


バルコニーから見える景色はエルフの国が一望出来る絶景だが、塀が少し高い為用意された椅子に座ると見えなくなった。


嫌がらせか?


俺達が全員椅子に座ると、何故かアリスキテラ、サハロセテリの両名は立ったまま話を始めようとする。


「椅子に座ってくれ」


俺がそう言ってやっと2人は椅子に座ることになる始末である。


「さて、話の続きだ。アリスキテラ。サニーと俺に何を見た?」


俺が端的にそう言うと、アリスキテラは眉をハの字にして俯き、視線を彷徨わせた。


押し黙ったのではなく、どう言うべきか考えているといった顔つきだ。


数秒は黙っていただろうか、やがてアリスキテラは静かに口を開く。


「…我が国のハイエルフは、私も含めて本当の意味でのハイエルフではありません」


アリスキテラはそう話を切り出した。その言葉に、サハロセテリは特に大きな反応を見せてはいない。


俺は内心では疑問符だらけだったが、何と無く話の邪魔はすまいと思い、アリスキテラに首肯だけを返した。


アリスキテラは俺の反応を見て、一度目を伏せ、再度口を開く。


「ハイエルフは神の子。ただ、神の子の子はもはや最初の存在とは違う存在になります。当たり前ですが、血が混ざれば徐々にその神の血脈は薄く広がっていきます。そうして、今のエルフ達は生まれました」


アリスキテラの言葉は、何処か抽象的な響きがあり分かりづらかったが、俺の聞きたいことには答えている気がした。


つまり、アリスキテラ達は…。


「つまり、今のエルフの国で一番古いハイエルフである私が、最もサニー様に近い存在でしょう」


「私に?」


アリスキテラの言葉に、サニーが不思議そうに首を傾げた。その顔を見て、アリスキテラは柔和な笑みを浮かべて頷いた。


「はい。サニー様は、もはやエルフの国にも存在しない本当のハイエルフです。つまり、神が創りあげた真実のハイエルフと言うべきでしょうか」


「意味が分からない」


アリスキテラの解説にサニーはバッサリそう切って捨てた。アリスキテラは困ったように笑うと、サニーに対して口を開いた。


「サニー様の瞳は淡い金色をしていらっしゃいます。私達混ざりもののハイエルフは黄緑色に近いでしょう。私は他のハイエルフより、少しだけサニー様に近い目の色をしているのです」


アリスキテラがそう説明すると、サニーは何度か頷いて唸った。その様子を見たアリスキテラは俺に顔を向ける。


「我々に伝わる話をさせていただきます」


あ、サニーへの説明を放棄したな。


「神は自らの代行者様をこの世に遣わし、ハイエルフを2人とエルフを6人、お供として側に仕えさせました。代行者様は人に非ざるエルフ達のことを想い、人の住んでいなかったこの地にエルフの国をお作りになりました」


アリスキテラはそこまで口にすると、一度口籠り、顎を引いた。


「しかし、純粋なハイエルフは最初の1人が誕生したのみで、2人目が御生まれになる前に片方のハイエルフは亡くなってしまいます。その産まれた最後のハイエルフを境に、ハイエルフにはエルフの血が混じるようになりました」


そう言って、アリスキテラは複雑な顔をしながら俺を上目遣いに見た。


まるで幼子が親に怒られるのを恐れているかのような表情だ。


「…アリスキテラの服だが、その服はその昔のハイエルフが着ていた服か?」


俺がそう尋ねると、アリスキテラは首を左右に振った。


「いえ、祖父の物を真似して作っています。製法が分からない為、見様見真似ですが…」


アリスキテラは俺の質問に消え入りそうな声でそう呟いて俯いた。


何かを恥じているような態度だが、お祖父ちゃん大好きっ子だったのだろうか。


「アリスキテラの祖父までが本当のハイエルフだったのか?」


俺がそう聞くと、アリスキテラは頷いてこちらを見た。


「は、はい。2人のハイエルフの第一子が祖父です。祖父はエルフを娶り、300歳の頃に私の母を授かりました。そして母は約400歳の時に第三子であり、末っ子にあたる私を産んでいます」


アリスキテラの話を聞いていると頭が変になりそうだが、要約すると、アリスキテラが700歳と仮定して約1400年前には本当のハイエルフが2人は残っていたということか。


そして、神の代行者は、エルフやハイエルフでは無いならば恐らく亡くなっているのだろう。


ならば、エルフとは俺と同じゲームのプレイヤーがこの世界に来た為に誕生した種族なのか?


いや、ならば獣人は…?


「神の代行者の種族は分かるか? 俺と同じハイヒューマンか?」


俺がそう聞くと、アリスキテラは力無く首を左右に振った。


「分かりません。代行者様は早々にこの地を去ってしまわれたと言い伝えられています。代行者様が行われたのは、この地から魔物を追い払い、山を切り開き、エルフの里を作りあげるという偉業のみです。その後は、エルフ達が自らの力で国を盛り立てるようにする為に、代行者様はこの地を去ってしまわれたと…」


アリスキテラはそう語ると、顔を上げた。


「レン様が新たなる代行者様なのは間違いありません。そして、サニー様達をお創りになられたのもまた事実なのでしょう…どうかレン様の手で、またエルフの民に道を指し示してください。 神の子としての血を絶やさぬよう努力はしてきたつもりですが、我々ハイエルフはいずれ消えゆく存在となってしまいました。我々の代わりのようで心苦しいばかりですが…エルフ達が、安心して暮らして行ける、そんな国をどうかお願いします」


アリスキテラがそう言って頭を下げると、それまで呆然と話を聞いていたサハロセテリも慌てて頭を下げた。


2人の頭頂部を見比べて、エルフは禿げないんだろうか。などと一瞬考えて、俺は頭を切り替えた。


「…エルフは他の種と共存出来ると思うか?」


俺が端的にそう尋ねると、アリスキテラとサハロセテリは顔を見合わせて頷いた。


そして、2人は俺を見る。


「できます。代行者様のお導きならばどんなことでもやってみせます」


「私も、出来る限りのことはさせて頂きます」


2人の返事を聞き、2人の決意の篭った目を見て、俺は深く頷き返した。


「俺が国を作った話は聞いたな」


俺がそう聞くと、2人は頷いて俺を見る。その目に疑問などは無く、ただ信頼の光があるのみに見えた。


「俺の国はエインヘリアルという名だが、レンブラント王国の西部を領地としている。まだ五大国ほどの大きさはないが、それなり以上の水準の国力と国民の生活の質を持てていると自負している。まだまだ改革中だから、更に良くなるのは間違いない」


俺がそう言うと、2人は吃驚して口を開いた。


「レン様の国はレンブラント王国を切り取って作られたのですか? そんな大事件、今の今まで知りませんでした…」


俺の言葉を聞き、サハロセテリが国王としての責任感からか、肩を落として気落ちする。


アリスキテラは首を傾げながら眉根を寄せた。


「私は俗世から離れていましたので存じ上げませんでしたが、レン様はいつ御国を? 少し前までレンブラント王国は他国へ侵攻する荒々しい王が治めていたと思いますが…」


「まだ国が出来て何ヶ月も経っていないからな。知らないのも無理は無いぞ」


俺がそう言うと、2人は絶句して固まった。


暫くして、サハロセテリが恐る恐るといった様子で口を開く。


「そ、そんな短時間で、よくレンブラント王国が領地を…他の国からも何か言われたのでは…?」


サハロセテリにそう言われ、俺は腕を組んで唸った。


「ああ、ガラン皇国が攻めてきたな。最初が8万くらいの兵だったか? 次が2箇所同時に攻めてきたぞ」


俺がそう言うとサハロセテリはその場で立ち上がって俺に顔を近付けた。


「は、は、八万!? それも何ヶ月かの間に3回分もそれだけの兵を集めたのですか!?」


サハロセテリがそう叫ぶと、アリスキテラは苦虫を噛み潰したような顔で顎を引いた。


「…それだけの兵で攻められたら、エルフの国は間違いなく蹂躙されてしまうでしょう。なんと恐ろしい国に成長して…」


「が、ガラン皇国のその軍は、し、退けられたのですか?」


アリスキテラの台詞にハッとした顔になったサハロセテリは、俺を問い詰める勢いでそう聞いてきた。


俺は体を仰け反らせてサハロセテリから距離をとり、答える。


「一回目は一人残らず皆殺しにした。二回目は手加減したから2箇所とも半数近くは生かした筈だ…そういえば、奴隷兵の中にエルフがいたようだったな。申し訳ないことをした」


俺がそう言って謝罪の言葉を口にしたが、2人は目を丸くしたまま動かなかった。



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