表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/243

エルフの国のパニックの間

アリスキテラ。


話には聞いていた世界最高の魔術士と呼ばれる存在か。


見た限りだと、20歳くらいに見えるかどうかという外見だが、実は700歳以上だとか。まったく、信じられない話だな。


俺はそんなことを考え、アリスキテラを観察していた。


どうにも、服の選び方が不思議でならない。白のローブは良く見るような形状だが、それ以外の服装が違うのか。


こちらの世界に来て、鎧の形はともかく、アンダーシャツやパンツ、布の服や皮の服、靴などはデザインに何処か独特なものがあった。


服でいうならば、襟首が少し上まであったり、脇の下の部分が広すぎたり、縫い方がまったくの別物だったりといった具合である。


新しいデザインが出たというのとは違う。例えるならば、普段の服装に近いデザインの古い民族衣装を見たような感覚に似ているかもしれない。


だが、アリスキテラが着ている服はそういった感覚が無かった。


というか、有名なアパレルブランドに置いていそうな無地のシャツとロングスカートに少しヒールのついたサンダルのような靴…。シャツに至っては襟まで付いている。


種族こそハイエルフだが、ファッションセンスは地球に…いや、日本に近い。


まさか、アリスキテラは。


俺がアリスキテラの正体が俺と同じ転移者では無いかと思い、今までに無い緊張感を味わっていると、アリスキテラはサハロセテリとの会話を終えて俺に目を向けてきた。


だが、すぐにサニーに視線を戻す。


「サニーさん、少し近付いてお顔を見ても良いかしら?」


アリスキテラが微笑を浮かべてそう聞くと、サニーは俺を見上げてきた。


「サニー、顔を見るだけだ」


俺はサニーにそう言って、暗に協力するよう口にした。アリスキテラが何をしたいのか分からないが、悪いことにはならないだろう。


もしも転移者ならば、お互いの情報を交換したいはずだ。


「ん」


俺の言葉を受けたサニーは頷いてアリスキテラを見た。アリスキテラはもう一度微笑むと、そっとサニーに近付き、サニーの目の前で両膝をついて頭の位置を同じくらいにした。


少しサニーよりも頭の位置が低くなったアリスキテラが、サニーの顔を下から覗き込む。


サニーはアリスキテラの行動に困惑しているようだが、動かないように真っ直ぐに立っていた。


一秒、二秒も掛からず、アリスキテラはサニーの眼を見て息を呑んだ。


「な、何か分かりましたか?」


アリスキテラの態度にそう尋ねながら、サハロセテリは玉座の上で前のめりになってサニーとアリスキテラの様子を窺った。


アリスキテラはサハロセテリの言葉には何も応えず、サニーからそっと離れると、今度は俺に目を向けた。


「…サニーさんとは、どういう出会いをなさったのかしら? レンさんはヒト族でしょう? 純粋な年齢ならばサニーさんの方が歳上の筈ですが」


アリスキテラは先程までの表情が嘘のように厳しい目を俺に向けてきた。俺はその目に声を詰まらせそうになったが、何とかアリスキテラの目を見返して口を開いた。


「俺はヒト族でもハイヒューマンだ。ヒト族でもそこは違うぞ」


俺がそう告げると、謁見の間内でまた別の騒めきが起きた。


「ハイヒューマン…ヒューマンとは、ヒト族のことか?」


「聞いたことが無いが、新たに生まれた種族か?」


「まさか、ハイエルフとヒト族の間に産まれたということでは…」


様々な推測と疑問が謁見の間内のあちこちから聞こえてきたが、サハロセテリはその声を注意すること無く、ただ俺とアリスキテラから目を離さないように凝視していた。


アリスキテラは俺を暫く見ていたが、そっと目を伏せて頷いた。


「…そうですか。私もお目にかかるのは初めてになりますので、緊張しますが改めてご挨拶を…」


アリスキテラはそう呟き、俺のすぐ前まで歩いてきた。


何をするのか。俺がそう思った直後、アリスキテラは俺の前で両の膝をつき、背中を丸めて頭を床につけそうなほど深く頭を下げた。


土下座?


俺はアリスキテラのその行動に思わず思考が停止してしまった。


だが、謁見の間のエルフ達はそれどころではない。


「あ、アリスキテラ様!?」


「どうされたのですか!?」


「まさか、体調を崩されたのでは…!」


一瞬で大騒ぎになり、跪いていた足も解いてエルフ達は立ち上がる。


だが、サハロセテリは目が丸くなるほど見開くと、直様玉座から降りてアリスキテラの斜め後ろまで歩いてきた。


そして、アリスキテラと同様、その場で土下座をしてしまう。


何だ。何が起きている?


俺が困惑する中、王すら同じ体勢で俺の方を向いているという状況に、他のエルフ達も混乱のピークを迎えた。


もしや、あのヒト族が何か怪しげな術を使ったのではないか。


口にこそしないが、そんな敵意の篭った視線を無数に感じる。


俺はこの状況を打開すべく口を開いた。


「…何故、頭を下げる。説明をしてもらおう」


俺がそう言うとアリスキテラとサハロセテリは背中を一度震わせ、床に向けていた顔を僅かに上げた。


俺もそんなぶっきら棒な言い方をするつもりは無かったのだが、落ち着いて尋ねようと思ったら怒ったような低い声になってしまった。


アリスキテラは静かだが、不思議と広間に響き渡るような声で口を開いた。


「レン様を、神の代行者様と判断し、これまでの無礼へのお詫びも含めて礼を尽くしております。大変な失礼をしてしまい、本当にお詫びの言葉もありません。私の身で良ければ捧げます。何卒、エルフの国をお見捨てにならぬよう…お願い申し上げます」


アリスキテラのその言葉に、謁見の間にいた全てのエルフ達が愕然とした顔になり、1人、また1人とその場で土下座に似たような形に跪いていった。


え、何この状況。


俺は何と無くギルドメンバーに顔を向けた。


困ったように笑うソアラと、不思議そうなラグレイト。


そして、満足そうに頷くサニー。


このサニーの何処を見て、アリスキテラは何を感じたのか。


俺にはアホの子にしか見えないが…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ