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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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白き魔女アリスキテラ

700を超える年月を生き、全ての魔術を使うことが出来ると言われる叡智の魔術士、アリスキテラ。


ハイエルフとしても規格外とされる魔力を持ち、その実力は数々の魔術の無詠唱化を可能とするほどである。


腰よりも下までくるほどの長く美しい金髪で、淡い黄緑色の瞳という部分は通常のハイエルフと同様だが、その外見は他のハイエルフよりも若く見えるほど若々しく、美しい。


まだ五大国が今のような大国では無い時代、冒険者ギルドも存在はしていなかったが、アリスキテラは今でいう冒険者のような生業をして世界を放浪したことがある。


100年掛けて世界を巡ったアリスキテラは、魔術だけでなく、世界中の知恵と技術を学んだ賢者でもある。


そんなことを言われ続けている白き魔女は、最早、魔術士としての新しい魔術の開発と無詠唱化、そして魔力を操作する技術の開発にしか興味を示さなくなった。





「アリスキテラ様!」


そんな声とともに荒々しく私の部屋を開ける者がいた。


ここ数十年以上見ない暴挙である。最後にそういった暴挙に出たのも子供の頃のシェラハミラが私を訪ねてきた時くらいだ。


私は机の上に紙を置き、後ろを振り返った。


「何かしら?」


私が一言そう言って扉を開けたエルフの男を見ると、男はやっと自分のしでかした無作法に気がついたのか、顔を青ざめさせた。


確か、200年前くらいに生まれた宮廷魔術士の一人だったはずだが、そういった役職の者が私の部屋に押し入るようなことをするなど、あまり経験に無いことである。


「も、申し訳ありません! 王に至急、アリスキテラ様を呼ぶように命じられまして…!」


男はそう言って背筋を伸ばして私の返答を待った。私は首を傾げながら体の向きを変え、座ったまま体の正面を男の方へ向ける。


「…戦争でも始まったのかしら? 確か、レンブラント王国が勢力を拡大しているといったかしら?」


私が記憶を探りながらそう尋ねると、男は言いづらそうに言葉を詰まらせると、視線を私に向けずに口を開いた。


「い、いえ! レンブラント王国の王はもう代替わりしており、現在はガラン皇国の方が力を持っているとのことですが…」


「あら? ほんの何十年で世間は良く動くわね。さすがは寿命が短い種族達の国というべきかしら。もっとゆったり構えれば良いのに」


私は男から提供された情報にそんな返答をして笑った。領土など、広ければ広いだけ面倒が増えるだろうと思うのだが。


私が土地の奪い合いについての見識に思いを馳せていると、男は焦れたようにそわそわと体を揺すった。


「ああ、サハロの坊やが呼んでるんだったわね…行きましょうか」


私がそう言うと、男はホッとしたように頷き、扉を開け放った形のまま扉の前で立って私を待った。


準備する時間くらい欲しいものだけれど、仕方ない。このくらいの年齢のエルフにそんな作法と女の心情を理解しろと言うのも酷な話に違いない。


私は苦笑混じりに立ち上がり、壁に掛けていた白のローブを手に持って自室から出た。


エルフは基本的に青。もしくは緑や茶色などの自然の色合いを好む。


だが、私は世界を放浪していた時に、若い頃の私よりも強かった男が着ていた白の鎧に憧れを抱き、それからは白のローブを着用するようになった。


男はヒト族だった為早々にこの世を去ったが、まるで太陽のように周囲を照らす人物だった。


この白のローブを見る度に私はそのことを思い出して懐かしい気持ちになるが、それも遥か遠い過去。もう戻ってこない日々だ。


ハイエルフの数も少しずつ減っていき、私が子供の頃からすれば半数近くまでに減少してしまった。


時代は変わるのだ。


エルフの民の中にも、外に出て他種族と交わり、ハーフエルフという何とも複雑な境遇の子を増やしている者もいるらしい。


そういった子らが、果たしてどうなるのか。やはり、数が最も多いヒト族に虐げられるのだろうか。


願わくば、私が死しても尚エルフの国が健在し、エルフ達が安心して暮らせる地が残れば良いが。


「それでは、アリスキテラ様。よろしいでしょうか?」


先を歩くエルフの男は立ち止まってこちらを振り返り、謁見の間へ続く扉に手を掛けた。


「ええ、良いわよ。なぜ謁見の間なのか気にはなるけれど…」


私がそう言って微笑むと、男は難しい顔で私に会釈すると、謁見の間の扉に片手を当てて開門の詠唱をし、扉を開けた。


扉が開かれ、謁見の間の風景が私の目に飛び込んでくる。


玉座にはサハロが座っているのだろう。


絨毯を挟むようにして、外の客人が来た時の為のエルフの魔術士達が並んで跪いている。


これが親交のある国の大使が来国したならば、周りに立つのは王族たるハイエルフに変わる。


つまり、今、あの奥に立つ四人の人物は敵国か、もしくは味方か分からない不明瞭な立ち位置の存在なのだろう。


冒険者のようにも見える格好だが、私を脅しの道具にでも使う気だろうか?


いや、サハロはそういう子ではない。


ならば、冒険者が私の噂を聞いて会いたいと言ってきた?


それも違うだろう。サハロは基本的に私が誰にも会わないようにしていることを知っているからだ。


さて、いったいどんな用事なのか。


「アリスキテラ、参上致しました」


私はそう言って、客人らしき四人の後方でお辞儀をした。


私の声を聞いた四人の男女は、こちらに顔だけ向けて視線を送ってくる。


今や伝説になってしまった妖精族を含む様々な種族を見てきた私だったが、明確に断言出来るのは狐獣人らしき女と、ハイエルフらしき少女の二人だけだった。


いや、あの見たことの無い顔のハイエルフの少女も、何処かが違う。その姿を見た時に違和感を覚えたのだ。


そして、更に異質なのが、黒い魔物の鱗と皮の鎧を着込んだ黒髪の青年だ。ハイエルフも魅入ってしまいそうな美しい顔立ちの青年だが、この青年も何処か違和感がある。


それにまさか、あの鎧の材料はドラゴンだろうか。


私が黙って四人を観察していると、サハロが咳払いを一つして口を開けた。


「よく来てくれました。今は宮廷魔術士を引退した白き魔女にここまで来てもらうのは恐縮ですが、どうしても一緒に聞いて頂きたい事柄があるのです」


サハロはそう言うと真剣な表情で私を見た。


「いいえ、構いませんよ。それで、どういったお話かしら?」


私がそう尋ねると、サハロは客人に視線を贈りながら口を開いた。


「そちらの方が、エルフの国の外から来られたサニーさんです。そして、サニーさんと深い仲にある、新しき国の王、レン殿。そちらのお二人はソアラさんとラグレイト君です」


「そうですか。私はアリスキテラ、魔術士です。外の世界にハイエルフの住む国がある、というお話かしら?」


私は客人に自己紹介をすると、サハロを見ずにそう質問をした。


長い歴史の中、ハイエルフが外に出た話なんていくらでもある。何処かにもう一つエルフの国があったとしても変な話では無いと思うが。


しかし、サハロは否定の言葉を口にした。


「…いいえ。私も最初にサニーさんを見た時にその可能性を考えたのですが、事態はそんな簡単な話ではありませんでした」


サハロはそう言うと、黒い鎧の男に視線を向けて口を開いた。


「レン殿は、サニーさんをお創りになったそうです」


サハロはそう呟いて、私の返答を待つように口を噤んだ。


私もサハロのセリフを受けて、レンという青年をマジマジと見る。


「…創った? ハイエルフとの間に子を、という意味かしら?」


私がそう聞いても、サハロは何も答えなかった。


「…どういうことかしら?」



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