エルフの国への案内人
「助けていただき、ありがとうございます! 私はラハムツヴィ。このエルフの森の守護者をやっております!」
「同じく守護者をしています。エルゼスカーです。お口添えしていただき本当にありがとうございます…まさか、100にもならずに死ぬかと…」
2人の20歳前半に見えるエルフの男がそう言って俺に頭を下げた。
ってか、お前らまさか…俺の3倍以上生きてるのか? 良いんじゃないか、死んでも。
「まあ、気にするな。俺はエルフと仲良くしたいからな」
俺は内心は全く外に出さずに建前を口にした。だが、2人のエルフは尊敬の眼差しすら向けてくる。
ちなみに、サニーにはもう氷の牢獄内から散々謝罪していた。
「うむ。やはり良い人物であったか。私の目も確かだな」
と、俺達のやりとりを見ていたイツハルリアが意味の分からないことを口走ったので、俺は厳しい視線を送った。
「お前の目はともかく、頭は信用しないからな」
「頭を!?」
イツハルリアは俺の宣告に愕然としてこちらを見てきた。
「とりあえず、エルフの国まで案内してくれ。サニーを連れて行く」
俺がそう言ってイツハルリアを放置してサニーを2人のエルフの前に出すと、2人は大きく頷いて口を開いた。
「勿論です! よほど大変な理由があったのでしょう! 外界でハイエルフであるサニー様がお育ちになるとは…ですが、大丈夫です! サニー様は恐らく30から40歳ほどでしょう。ハイエルフは800年以上もの間現役でおられます。サニー様のご両親もきっとサニー様がお生まれになった時と同じお姿でラ・フィアーシュにお住いの筈です」
ラハムツヴィとやらが何やら熱の入った様子でそんなことをサニーに言っていたが、実際に両親がいるわけが無いと知っているサニーには全く響かない。
だが、サニーの冷めた様子を見て、ラハムツヴィは息を呑んだ。
「か、完全に心を閉ざしておられる…なんとおいたわしい!」
「さ、サニー様…ラ・フィアーシュで無事に過ごされていれば、明るく活発に育っていたでしょうに…!」
ラハムツヴィがサニーを見て嘆き、エルゼスカーも涙すら滲ませて同調する。感情が高ぶりすぎて若干失礼なことを口走っているが。
「いいから早く案内」
サニーがそう言うと、ラハムツヴィが泣き笑いのような顔を浮かべて何度も頷いた。
「ええ、すぐに! 国へ着きましたらすぐに王家に連絡を致しますので、もう少しの辛抱ですよ!」
「良かったですね、サニー様! お母上様についに、ついに…くぅっ!」
ラハムツヴィが涙声でそう言って前を歩き出すと、エルゼスカーは嗚咽を漏らしながら目を両手で押さえた。
「おい、イツハルリア…お前の故郷の戦士は皆こんな…」
俺が2人の泣き虫エルフから視線を外してイツハルリアを振り返ると、イツハルリアは膝を折り、両手を地面につけて四つん這いになりながら号泣していた。
もはや言葉にならない声を上げて泣くイツハルリアを見て、サニーが眉間に小さなシワを作って口を開いた。
「プルーラルフライ」
集団飛翔魔術を行使したサニーは、俺達だけじゃなくラハムツヴィとエルゼスカー、そして四つん這いのイツハルリアも一緒に空中に浮かべた。
エルフの2人は突然身体が浮き上がり驚愕に目を見開く。
「そ、そんな!? そのお歳で集団飛翔魔術をむ、無詠唱で!?」
「ま、まさか、あ、アリスキテラ様に匹敵する魔術士なのですか!?」
2人がそんなことを言いながらサニーを褒め称える中、俺はアリスキテラという魔術士がサニーと同じことが出来るということに意識を向けた。
集団飛翔魔術を無詠唱?
もしそれが本当ならば、この世界にきて初めて俺達と互角以上の存在がいるということかもしれない。
俄然、やる気が出てきた。
「よし、さっさと案内してくれ。急いでラ・フィアーシュに行こうじゃないか」
俺がそう言うと、ラハムツヴィは勢い良く頷いた。
「はい! それではサニー様、申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。そちらへ…ああ、木々が邪魔でしょうが、その方向へずっと行ってもらえたら…」
ラハムツヴィがそう言うと、サニーは短く息を吐いて口を開いた。
「いい。上から案内して」
サニーがそう言うと、俺達は強制的に上空へと浮上させられた。
本来ならば多少こちらも魔力を操作して術者の近くならば身体を自由に動かせるのだが、今回はサニーの魔力で強制的に俺達は上空へと引っ張られている。
木々の枝を皆がバラバラの動きで見事に避け、高い樹木の上まで僅かな間で上りきった。
広大な森林と、随分と近くなった山脈を見て、ラハムツヴィは驚きながらも周囲を見回して一点を指差した。
「お、おぉ。流石はサニー様…飛翔魔術を使える方ならではの解決方法ですね! ラ・フィアーシュの場所はあちらになります。勿論、正規のルートではありませんので、私達を前面においてゆっくり近付いてください」
ラハムツヴィは入国に対する注意点を教えてくれていたが、俺達はそれどころではなかった。
「…一番高い山の麓?」
ラグレイトが疲労感の籠った声でそう呟き、ソアラが無言で頷く。
俺も脱力感を全身で感じていた。
そう。レンブラント王国の情報にあったエルフの国の場所、正にそのままだったからだ。
なんだったんだ、あの川を延々と上った時間は…。
俺がそう思ってサニーを見ると、サニーが感情の抜け落ちたような顔付きでエルフの国があるだろう地点を見下ろした。
「やっぱり、焼き尽くす」
サニーの過激な発言を聞いて、俺は深い溜め息を吐いた。
「仕方ないな」
「えぇっ!?」
空の上で、エルフ達の悲鳴が響き渡った。




