表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/243

番外編…ハカンとカリム

皆様のご期待に応え!

悶える豚と可哀想なお爺ちゃんのその後が…!







「えぇい! 何という愚民共だ!」


でっぷりと肥えた男が怒鳴り散らしながら、苛立たしげに椅子の肘掛の部分を拳で殴った。


真ん中から分けた灰色の髪を振り乱し、赤いローブを着た男は近くに立つ煌びやかな白い鎧を着た男達を睨み据える。


鎧を着た男達が肥えた男の目に怯える中、唐突に部屋の扉を開ける者がいた。


現れたのは赤い鎧の男だった。


「ハカン様! サラーム地方の代官も反乱の準備を進めているようです!」


赤い鎧の男は室内に入ってすぐにそう報告し、ハカンの顔を見て立ち竦んだ。


ハカンは片手で頭を掻き毟ると、真っ赤に充血した目を赤い鎧の男に向けた。


「馬鹿が! サラーム地方は馬で2週間はかかるというのに、敗戦の情報など知る訳がないだろうが! そんな情報はデマカセだ! 皇都と地方の分断を狙った策だと何故分からん!?」


「し、失礼致しました!」


ハカンが怒鳴ると、赤い鎧の男は慌てて部屋から出て行った。


「あんな下らん噂でも、今の皇都には大打撃だ!」


ハカンはそう言うとまた肘掛を殴りつけた。


そして、ハカンは床に散らばった書状の一枚を拾い上げて、目の前で広げた。


「あれだけの大敗を喫した我が国に、かの竜騎士様はなんと仰られたのか知っているか? 何々? 我が国に無断で軍を派遣し、我が国を侵略しようとしたガラン皇国の所業は目に余る? その殆どを壊滅させたんだ! 別に大した被害も無いなら文句なぞ言って来るな!」


ハカンは書状に怒鳴ると肘掛を殴り、目を皿のように丸くして書状の文面を目で追った。


「更には、侵略をしようとしたガラン皇国を加害国とし、侵略されそうになったエインヘリアルを被害国とする。その為、加害国であるガラン皇国は、被害国のエインヘリアルに賠償金を支払うぅ?だ、か、ら! 帰ってきた兵士が言うのが本当なら! 我が軍がまたもや一方的に大損害を被ったのだろうが!? ならば、被害国は我が国だ! 賠償金は我が国こそ貰う権利がある! そうだろうが!?」


ハカンは口の端に泡を溜めてそう吠えた。


もはや、狂人にしか見えないその姿に、白い鎧の男達は蔑むような目すら向けていた。


だが、ハカンはそれには気付かずに床に散らばる書状をまた拾い上げる。


「こっちは何だったか…そうそう、メーアスからか! メーアスからの一時的な国交断絶のことだったな! はっはっは! 笑える話だ! この裏切り者共が奴隷を回収したから我が国は敗北したのだ! あの糞共め!」


ハカンはそう吠えて手に持っていた書状をその場で破り捨てた。


肩で息をしながら、ハカンは背凭れに身体を預けて俯く。


「全員馬鹿ばかりだ。ガラン皇国だぞ? この程度の微々たる損害に揺らぐわけがない! ただ兵士を二十万と1年分程度の予算と物資を失っただけだ! 国土はそのままであるし、カリムが農民の過半数を徴兵しなかったから税金を10倍にすれば解決ではないか! いや、行商人からの入国と出国税を取れるだけ取れば…そうだ、メーアスへの罰としてなら問題は無いではないか!」


ハカンは目を彷徨わせながら唾を飛ばし、そう口にした。


「そういえば、今回の敗戦の原因はカリムではないか! あいつが奴隷を奪われ、その農民の徴兵も邪魔を…そうか! カリムが裏でメーアスと繋がっていたのだ! カリムを呼び出せ! あの裏切り者は…!? おい! 何処にいった! 皇国皇たる私を一人にするなど…っ!」


ハカンが興奮した顔で室内を見回しながら声を荒げたが、いつの間にか白い鎧の男達は姿を消していた。


誰もいない部屋の中で、ハカンの怒鳴り声だけが響き渡っていた。






馬車の御者と一緒に御者台に乗り、街道を進む男がいる。


白髪混じりの髪を後ろに撫でつけた初老の男、ガラン皇国軍務大臣のカリムである。


カリムは年齢の割に筋肉質な身体で御者台に手を置いて身体を固定し、周囲を警戒していた。


「カリムの旦那! 俺たちが警戒してるから安心しなって!」


「そうそう! この速さだと馬車でも危ないよ!」


カリムが馬車の上で中腰になっている事に対し、周囲を走る馬の上からそんな声が発せられた。


二頭立の大型の馬車の周囲には、6頭の茶色の毛色をした馬が走っており、その馬を操る身軽そうな鎧を着た男女が心配そうにカリムを見ていた。


カリムはその男女の視線に気が付き、御者台に静かに座り直した。


「わ、わかった。お前達を信用していない訳では無いのだが、どうも落ち着かんのだ」


カリムがそう告げると、周りの男女は快活に笑った。


「大丈夫だって! ね?」


「ああ、俺らが警戒してたら人っ子一人通さないさ!」


「カリムの旦那はどんと構えてな!」


男女に口々にそう言われ、カリムは頷いて馬車の走る先を見た。


すると、御者をしているローブを着た男がカリムを横目に見て口を開いた。


「旦那、本当にこっちで良いんですかい? 皇都に行かないと家族がいるんじゃ…」


御者がそう聞くと、カリムは難しい表情を浮かべて深い溜め息を吐いた。


「私のいた街に敗戦の噂が流れ、行商人からも情報が来たのは、かろうじて納得がいく。だが、既に皇都で反乱が起きているなんて情報は絶対にありえない。こちらに届く筈が無いのだ」


「はぁ…?」


カリムの端的な台詞に、御者は首を傾げながら相槌を打った。


カリムはその御者の顔を見ずに話を続ける。


「何故、そんな速度で噂と情報が広がったか…エインヘリアルとメーアスの内通は当たり前だが、噂で聞いた飛翔魔術を行使する集団だ。その集団がガラン皇国の失墜の為に情報を操作している」


カリムがそう言うと、御者は唸りながら顎を引いた。


「大恩ある旦那がそう言うんだ。間違い無いことなんでしょうが…俄かには信じられないっすねぇ…」


御者がそう言うと、カリムは苦笑して頷く。


「私とて信じられん。だが、それ以外に方法が無い。なにせ、情報の正確さと内容が物語っている。敗戦が切っ掛けではあるが、まさか情報を伝達することで大国であるガラン皇国がこれほどの事態に陥るとはな…恐ろしい敵と相対してしまったものだ」


カリムがそう呟くと、御者はへぇ、と声を漏らして頭を捻った。


「情報が大事なのは当たり前だと思ってたんですがね。そんなに凄いことだったんで?」


「情報が大事なのは勿論だが、普通は情報は守る為にある。攻める為の情報は相手の経済状況や兵の流れ、第三者との裏での取引などだ。だが、今回のエインヘリアルがとった手は、情報自体を武器にしてガラン皇国の衰退を目論んでいる。そして、それを助けているのがメーアスだろう。元から皇国と取引のある商人を使うことで、情報の信憑性を格段に高めている」


カリムがそう説明すると、御者は肩を竦めつつも頷いた。


「はあ…中々難しいっすね。そんで、何故エインヘリアルの国土になったランブラスに向かうんで? もしかして、これを見越して家族をランブラスに?」


御者がそう言うと、カリムは疲れたように笑った。


「そんなわけがあるか。こんな事態を見越していたなら、私は馬車で走っていないだろう。軍勢の程は分からないが、まだランブラスにはエインヘリアルの軍がいるはずだ。ガラン皇国軍の敗走兵が野盗や山賊になる可能性が高いからな。だから、エインヘリアル軍に投降する」


「え? 投降?」


カリムの台詞に御者の男がギョッとした顔になってカリムの顔を見た。


「うむ。一種の賭けだが、エインヘリアルは出来たばかりの国だ。ならば、人材はいくらいても足りないだろう。特に、国の管理をしていた者などは中々いない」


「ああ、そりゃ旦那は打ってつけだ。俺らも旦那の有能さを一緒に伝えますぜ」


御者はカリムの言葉を受けて笑いながら同意した。カリムはそれに溜め息混じりに頷くと、顔を上げる。


「家族の方は、息子が何とかするだろう。どちらにせよ、国民に顔が知られている私が皇都に入ることは出来ん…こんなに早く情報が回らなければ、難なく家族を連れて逃げられたのだがな…」


カリムがそう言って深い溜め息を吐くと、御者は何も言えずにただ頷いた。





後日、ヴァル・ヴァルハラ城に来たレンレンに、ヴァル・ヴァルハラ城で仕事の為に一泊したリアーナ姫が報告をする。


「カリムというガラン皇国の元軍務大臣だった方が投降致しました」


「カリム? 知らないが、どんな奴だ?」


「そうですね…ガラン皇国の大臣の中でもかなり優秀な方のようです。ガラン皇国皇の無茶な軍の運用もカリムが何とか財政を支えて実現したようですね」


「ふむ、人柄は? 敵国への亡命なら我が国を恨んでるんじゃないか?」


「それが、皇都に家族がいるらしく、その情報を求めるばかりで…どちらかと言えば皇国への不満ばかりですね」


「採用」


「えっ? 良いんですか? 自国のことを悪し様に言う国の幹部ですが…」


「いや、社畜の匂いがするから」


「しゃちく?」


「まあ、家族を皇都から連れてきてヴァル・ヴァルハラ城で働かせれば良いだろう。逆らう気も起きないさ」


「…な、なるほど。人質ですね。それなら大丈夫かと…あ、それと、皇国のことですが」


「ん?」


「地方の反乱を待たずして皇国皇が処刑されました」


「早いな、おい。城に立て籠もってたんじゃなかったか?」


「はい。ただ、最後は近衛兵まで門を開けて反乱に加わったようで…」


「えー…」


こうして、ガラン皇国は混乱する皇都と各地方による内乱が勃発した。


後日、ガラン皇国の地方四つが独立。事実上の崩壊となった。





。。

…あれ?

悶えるというよりも、狂える豚に…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ