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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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魔術撃たれ放題

目の前にいた仲間が、人の胴体ほどはあるデカい岩に吹き飛ばされて地面を転がっていった。


隣に立っていた奴は見えない風の刃を受けて頭と右腕を肩から切り落とされた。


そして、ほんの少し離れた俺の斜め前から一直線に流れてきた鉄砲水のような水に5、6人が纏めて後方へ押し流された。


一体、何が起きているというのか。


いや、そもそも、なんでこんな割に合わない戦場に来てしまったのか。


原因は団長に違いない。


ガラン皇国がやけに高い報酬を弾むという話に飛び付き、敵が今噂の竜騎士を名乗る詐欺師だからと大喜びだった団長が全ての元凶だ。


そりゃ確かに、借金もあったから俺だって喜んださ。


大金が入るんだから当たり前だ。


だが、その話が本当に大丈夫か見極める団長が浮かれてはダメだ。


団長が俺たちを唆してこんな地獄に連れてきやがったんだ。


くそ、ふざけやがって。


そう思って、恨み言を叫んでやろうと団長の姿を探すと、右斜め後ろで、団長は岩に押し潰されて死んでいた。


下半身が岩の下に消えており、もし生きていても間違いなく助からないだろう。


「は、はは! ざまあみろ! お前のせ…」







私は何かを喚きながら風の刃を受けてバラバラになって死んだ男を横目に見て、舌打ちをしながら遠くを見つめる。


「くそ! どういうことだ!? こちらからは見えない穴にでも姿を隠しているのか!?」


敵は少数だった筈だ。


信じられないほどの魔術の使い手が二人いたのは確かに確認している。


だが、他には数十人程度の僅かな兵達だった筈だ。


なのに、今我々に雨のように降り注いでいる魔術の数々はなんだ。


どれも詠唱にそれなりに時間を取られそうな高位の魔術だ。


それをまるで手当たり次第に地面に落ちた石を拾って投げるように放てるわけがない。


ならば、敵は魔術士の集団を隠していたのだ。


それも、かなりの腕前の魔術士を千人以上は配置している筈だ。


「ダイン将軍! 前列は既に崩壊! この辺りにも魔術が降り注いでおります! 軍の最後尾まで下がってください!」


私が少し離れた位置に飛来する岩を見ながら敵の陣形や兵種とその数を考察していると、千人長の若い男がそんなことを言ってきた。


どう考えても、誰が見ても負け戦だが、この軍を預けられた私が一番に逃げてはならんのだ。


せめて軍を逃すならば、私が自ら敵の追撃を食い止めてでも被害を最小限に抑えねばならん。


「千人長! 皇国軍の正規兵を指揮して撤退を…!」


私は千人長を振り返って指示を出そうとした。


だが、振り返った先には頭を失った千人長の身体だけが馬の上で揺れていた。


「くそ! なんなんだ、この戦争は! 魔術士の部隊はどうした!?」


私が辺りを見回しながら叫ぶと、近くにいた兵が顔を上げて叫び返してきた。


「先程から姿が見えません! 恐らく脱走したと思われます!」


「なんだと!」


いつも威張り散らしている頭でっかち共が、こんな事態になるとすぐに尻尾を巻いて逃げる。


なんという恥知らずな奴らだ。


「とにかく! あの異常な魔術士共は無差別に魔術をぶっ放している! 早く正規兵を連れて後退せよ! 私が殿を抑える!」


「しょ、将軍! 前、前をっ!」


私が辺りに聞こえるように命令をしていると、誰かが私に前を向けと叫んだ。


脊髄反射で私は馬上のまま身体を捻ると、盾を構えて前を見た。


岩だ。


1メートルはある岩が、私のもう目と鼻の先まで来ていた。


「ぬぅっ!」


私は奥歯が折れそうな程歯を食いしばり、脇を締めて全身に力を込め、盾を岩に向けて構えた。


目の前で巨大な鐘が鳴ったかのような脳を揺らす轟音と衝撃。


腕が痺れるなどという生易しいものではない。


全身の骨がバラバラになりそうな衝撃を受け、私は体に染み付いた盾による受け流しの要領で身体を大きく捻った。


驚くべきことに、トルガ将軍には負けるが、それでも2メートル近い私の巨躯が岩の衝撃を受け流した弾みで身体が浮いた。


岩の進行を妨げないように身体を回しながら捻ったお陰で致命的な怪我は無い。


しかし、錐揉み回転で弾き飛ばされた私は受け身らしい受け身もとれず、地面に鎧ごと強かに打ちつけられた。


息が出来ない衝撃が背中から腹に向けて突き抜ける。


「…ぬ、ぐぅ…!」


何とか盾と剣は弾かれずに手元にあるが、私の馬は首の骨を折って死んでいた。


笑う膝を拳で叩いて無理やり足に力を入れる。


情けないが、剣を杖代わりにして何とか立ち上がった私の目に、蜘蛛の子を散らすように敗走するガラン皇国軍の姿が映った。


そして、僅かな間に一方的な攻撃によって受けた魔術の痕を見て、私は怒りに我を忘れそうになった。


死屍累々とはまさにこういうことを言うのだろう。


殆どの者が地面に倒れ伏し、動いている者も虫の息か重傷の者ばかりだ。


栄えあるガラン皇国の大軍勢がなんたる有様か。


そんな中、何とか地面に倒れずに済んでいる者達に向けて、奴らが声を発した。


「お、結構元気な奴がいるじゃないか。サイノス! ローレル! 相手をしてこい!」


言葉を発したのはどうやら竜騎士を名乗るレンという青年だ。


先程の岩のせいで耳が正常に働いていない為確かなことは言えないが、遠くに見えるあの青年がこちらを見て何か言っているのは間違いない。


そして、私に向かって妙な服装の上から簡単な鎧を着た獣人の男が歩いてきた。


あの恐ろしいまでの手練れだ。


私は剣と盾を構えて獣人の男を睨んだ。


「むむ。あまり体力が残っていないようだな。拙者は弱い者虐めはあまり好きではないのでな。一思いにやってやろう」


そう言葉を切って、獣人の男は刀を構えた。


受け切れるか。


いや、厳しいだろう。


構えから刃が来る方向を予測して弾くしかあるまい。


私は瞬時に判断を下すと、獣人の持つ刀の向きに合わせて腰だめに盾を構えた。


直後、信じられないことに、先程の岩を受けた時よりも激しい衝撃が私の腕を貫通した。


実際に刀が盾を貫通した訳では無い。


ただ、盾で受けたのに盾と一緒に私の体も吹き飛ばされたのだ。


その衝撃があまりにも一点に集約していた為、私の腕は刀を突き立てられたような衝撃を受けてしまったのだろう。


盾を置いて地面に手をつき、獣人の男を見上げながら立ち上がる。


もはや、剣を振る力も無い。


だがそれでも、私は剣を両手に持ち、地面と平行になるように何とか持ち上げ、獣人の男に向かって歩いた。


首を切り落とされようとも、この手練れに一太刀浴びせねばならん。


ガラン皇国軍の将軍の席を頂いた私が、何一つできずに終わるわけにはいかんのだ。


「来い! この私が切り捨ててくれるわ!」


私はそう叫んで獣人の男の首に剣先が向かうように剣を持ち上げようとした。


その時になって初めて、私は左手の手首が折れていることに気がついた。


獣人の男は剣を構えた私を眺め、満足そうに笑った。


「見事」


男は一言そう言うと、刀を片手で振った。


私は斬られると思った瞬間、意地でもその太刀筋を見逃すものかと目を見開いていたが、どうしても、獣人の男の笑顔から目を離せなかった。




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