すぐに街を拡張!
ビリアーズの苦笑い混じりの了承を得た俺は、早速セレンニアの西側の城壁を一部破壊することにした。
住民に少し退避してもらい、高い城壁を見上げる。
「古いが、厚みもあるし高さもある。材料には申し分ないからな。吹き飛ばさずに綺麗に切り取れよ、サイノス」
俺がそう言うと、サイノスはオリハルコン製の刀を手に笑みを浮かべた。
「拙者にお任せあれ! こんなものすっぱりスパスパ切り裂いて木っ端微塵にしてみせますぞ! 唸れ我が右腕アンド左腕! 龍王百烈斬!」
なんだ、その技は。
サイノスは変な台詞と共に剣を振りかぶり、一瞬で城壁の下まで移動した。
そして、俺の眼でもギリギリ目で追えるかどうかという恐ろしい速さで刀を振るった。
「ぬぅえりゃー!」
最後にサイノスが奇声を発して刀を納刀すると、城壁が真四角に切られ、街の外に向かって倒れていく。
そして、倒れていく城壁の角度が深くなった瞬間、まるでサイコロステーキのように城壁がバラバラになった。
轟音と地面を伝わる地震のような振動と共に、一部始終を見ていたセレンニアの民達から驚きの声が上がる。
そして、俺達の目の前には城壁の失われた景色が誕生した。
その城壁のない空間の幅は50メートルはあるだろう。
「よし、さっさと作るわよ?」
ディグニティは状態を確認してそう声を掛けた。
「まずは城壁を建てる予定の場所の地盤だ。ワシはすることないのぉ」
鍛治士のカムリがそう言ってミラを見ると、ミラは頷いて魔術士を連れて城壁建設予定地を見に行った。
「この辺りから始めるわよー?」
「いいわよー?」
ミラが現在の城壁がある部分に行き、こちらを振り向いて確認をとると、ディグニティが返事をした。
そして、城壁を建てる予定の土地を順番に指示し、後に続く魔術士が土系魔術のサンドウォールで新たな城壁の形を大まかに造っていく。
それを見て、カムリが自分の頬を両手で張って気合いを入れる。
「ぃよっしゃ! やるかの!」
そう言って、カムリは走って行った。
暫くして、城壁はまるで早送りのようにどんどん伸びていく。
「し、信じられない…」
「す、凄い…これが英雄様達の御力なんですね…」
その光景にセレンニアの民達だけでは無く、キーラやリアーナからも驚嘆の声が聞こえてくる。
まあ、俺からしても信じられない光景だからな。こういう建築映像の早回しみたいな動画を見たことがあるな。
このまま行けば、城壁は2時間もあれば終わるだろう。今は夕方だから、2時間で陽が落ちる頃か。
と、そんなことを考えて、俺は気がついた。
連絡をしなくてはならない。
「サニー! エレノアに少し遅れるが、夕食には帰ると伝えておいてくれ」
俺がそう言うと、サニーは頷いた。
「うん。夕食はお肉が良いと伝える」
「言ってねぇよ、そんなこと」
俺はサニーのズレた返事に文句を言ったが、サニーはさっさと飛翔魔術で飛んでいってしまった。
一人伝言ゲームみたいになりそうで不安だが、大丈夫だろうか。
俺が見る見る間に小さくなっていくサニーの後ろ姿を見送っていると、リアーナがそっとこちらへ歩み寄ってきた。
「あの、エレノアという方は…? レン様のお妃様でしょうか」
「ん? 妃では無いが、最も長く俺の傍にいて、最も俺が頼りにしている存在というべきか」
俺がそう言うと、リアーナは小首を傾げた。
「それはつまり、恋人の方という…」
恋人?
俺はリアーナの口にした単語に頭を捻った。
「…なんだろうな。恋人という単語にも違和感があるが」
俺は独り言のようにそう呟くと、頭をまた捻った。
産みの親ではあるが、娘とも何か違う。
やたらと素直な義理の妹が出来た感覚だろうか。出来たことが無いから分からないが。
だが、愛おしくはある。
まあ、もちろん我がギルドのメンバーは全員が俺が丹精込めて造形し、育て上げた存在なのだから相当の愛情を持っている。
親心なのかと言われると、こちらも子供を育てたことが無いから分からない。
しかし、嫁にするという発想は地球にいた俺からすると危険な感覚を覚えて複雑な心境になってしまう。
だって、〇〇は俺の嫁、という冗談はキャラクターに対して言うから笑える話じゃないか。
それで、本当に自分が作ったキャラクターと結婚したら…!
俺が腕を組んで悩みに悩んでいると、リアーナが困ったように眉をハの字にしてこちらを見上げて口を開いた。
「す、すみません。余計なことを口にしてしまいました…私は、その…」
「ん? ああ、別に気にするな。色々気付かされた気分だ。ありがとう」
俺はそう言ってリアーナの頭を軽く手で撫でて城壁に目を移した。
結婚やら何やらはエレノアにも聞いてみよう。
恐ろしいことになりそうだが。
「…もう城壁も出来上がりますね」
と、考え事をしながら城壁を眺めていると、後ろからセディアがそう口にした。
見れば、確かに城壁は外観も既にあらかた出来ており、魔術士達はもう役目を果たしてこちらへ戻ってきている。
「ふむ。2時間掛からなかったか。明日は校舎を作るが、これなら午後には子供達を受け入れられるかもしれんな」
帰ったら、食料の確認か。後は衣類や家具を作る材料を…。
「大将」
「ん? なんだ?」
声を掛けられて振り返ると、セディアが神妙な顔でこちらを見ていた。
そして、躊躇いつつも、セディアは俺の目を見て口を開く。
「自分達は、大将を創造神ともいうべき存在と思っています。おこがましいですが、自分達を大将の部下であり僕であり、そして、子と思っている筈です」
「…そうか」
俺はセディアの言葉に頷き、そう返事をした。
すると、セディアは微笑みながら顔を上げた。
「だから、大将は大将の思うようになさってください。自分達はそれに従います。大将が幸せなら、死んだって構いません」
セディアはそう言うと、曇りの無い笑顔で照れたように笑った。
その異常なまでの献身に、俺は思わず泣きそうになるほど心を動かされたが、そこでサイノスが片手を上げて口を開いた。
「あ、殿! 拙者も拙者も!」
「…ありがとよ」
軽い調子で同意してきたサイノスに、俺は苦笑混じりに返事をしておいた。
ギルドメンバーの皆は、俺がゲーム中に単独大規模ギルドというシステムで作ったキャラクター達だ。
この世界に来て、自我を持ったキャラクター達の勝手な行動に不安を持つこともあったが、常にメンバーの皆は俺への忠誠心を示してきた。
どこかで彼らにも報いたいが、どうしたら良いだろうか。
結婚以外にも、悩みは尽きない。




