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第九話:魔法少女

 クロと赤いライダー、獅子と黒いライダーの、1対1同士となった戦闘で、赤いライダー相手に有利に戦いを進めるクロ。


 攻撃力と身体能力に差があるものの、技術に大きく劣る赤いライダーの突飛な行動にカウンターを合わせたつもりだったが、実際は窮地に立たされる。


 黒い竜巻と化した黒騎士の必殺の突撃がクロの目前に迫り……。



 これは死んだ。


 状況を(かえり)みて、素直にそう思う。

 しかし、今際(いまわ)(きわ)の走馬灯でも見ているかのように、全てがスローモーションに感じられて。






 その、視界の端に、海のような蒼い閃光を見た気がした。











 急停止の際にかかる衝撃で、目を覚ます。


 わずかな時間、気絶していたようだった。

 意識が晴れてくれば、すぐに状況が見えてくる。



 ……今は、宙に浮いていて、誰かの小脇に抱えられていた。



 その誰かが、床に降り立ち、宣言した。



「水の魔法少女、マジカル☆トウカ。誰かの涙の雫をこぼさないために、推参」



 丁寧に床に下ろされて、解放される。



「全員、矛を納めろ。すでにこの場にオーブは存在しない。封印され撤収した後だ」



 静かな、しかし、有無を言わせぬ圧が込められた言葉が、その細い体から(ほとばし)るほどの気迫となって放たれた。



「それでもまだ戦うというのなら、私が相手だ!」



 打ち捨てられた廃ビルには似つかわしくない、長く艶やかな黒髪を持ち、純白のドレスを思わせるコスチュームは天使のような印象を与える。

 丈の短いスカートは動きやすさがうかがえて、太股(ふともも)まで覆うロングブーツと、わずかに顔を覗かせる素足との絶対領域が眩しい。

 指先から(ひじ)まで覆うロンググローブには、手の甲に蒼い宝玉が嵌め込まれている。

 背中には騎士のようなマントをなびかせているその姿こそ、世界中に勇気と希望を届ける魔法少女だ。



「レインストーム!」



 右手を天高く掲げる水の魔法少女。


 次の瞬間、周囲から集まった水が竜巻のように渦を巻き、両刃の剣が形成された。



「さあ、どこからでもかかってくるがいい。正々堂々、真向勝負だ!」



 ……いや、さ。助けてくれたことは感謝する。だけどさ、さすがに……。



『ふぅーー…………』


 黒騎士は剣を縮めて盾に納め、


『……んんっ!』


 獅子は爪を収納してわざとらしく咳払いし、


『お、魔法少女ちゃーんっ♪ おひさ~♪』


 赤騎士はのんきに楽しげな声をあげた。




 図らずとも、魔法少女は場の空気を、決戦の様相を納めてみせたのだった。




『こちらO-1 、B-1 、応答願います』


『こちらB-1 、どうした?』


『高速で接近する高エネルギー反応を確認しました。怪人と思われます』


『B-1 了解』


 オペレーターからの無線を、スピーカーモードにしてこの場の全員に聞かせる。


『また、《戦隊》と思われる複数の反応が接近中。速やかに帰還してください』


『B-1 了解』


 一度は緩んだ空気が、また引き締まるのを感じた。


 そして、床の一部が弾け飛び、階下からムカデのような多足の怪人が姿を現す。


『ジジジジジッ! 勢揃い、()り取りみどりだナ! オーブを出せば楽に殺してやるゾ!』


 ゲジ、という虫を知っているだろうか?


 ムカデのような長い体の側面に、無数の足を持つ虫だが、この怪人は、そのゲジに人っぽい太い手足を無理やりくっつけたような姿をしており、側面に無数にある小さな足をワチャワチャとキモく動かしながら、全く状況を把握できていないセリフをキモく吐き散らしてみせた。


 敵対勢力の、《怪人》、《変身ライダー》、《魔法少女》が揃い踏みだ。しかも、一度は弛緩しながらも、遅れてきた空気読まないヤツ(ゲジ)によって再度緊張が高まった段階での登場だ。


 怪人からは、あわや敗北か! と腹を(くく)ってからのストレスを、


 変身ライダーからは、メシの種であるオーブを取り損ねた苛立ちを、


 魔法少女からは、戦闘そのものを止めようとして、上手くいきそうだったのに、話の通じない勢力(ゲジ)の乱入による苛立ちを、


 それぞれ、理不尽なまでにぶつけられた。




 それは、物理的な衝撃を伴う咆哮(ほうこう)だったり、

 カラスの翼を思わせるマントに収納されている投擲用のダガーナイフだったり、

 水の剣による袈裟斬り、横薙ぎ、斜め斬り上げの連撃だったり。



『んじゃ、最後はオレちゃんがキメッ! てことで! フルアクセル! プロミネンスチャージ!!』


『Dead End Burst』



 いつの間にかバイクに(また)がっていたサンルージュが赤く紅く燃え盛る火炎旋風となって突撃し、怪人に標準装備されている自爆装置の爆炎と衝撃すら焼き尽くして、


『アーーーッ!?』



 廃ビルの壁をぶち抜いて落ちていった。



 文句無い白星だってのに、最後まで締まらないヤツだ。



『この勝負、預けたぞ』


 ソル・リオンの首回りにある(たてがみ)から、離脱用の煙幕が吹き出し、


『ステルスモード、起動します』


 オペレーターの声と共に、煙に巻いて撹乱が成功したことが理解できた。しかし、俺とソル・リオンはオペレーターのサポートの元に合流を果たす。

 あとは、ソル・リオンと共に速やかに離脱するだけだ。



 煙に巻かれるのを嫌って魔法少女が飛び立つのと、黒騎士がバイクに跨がるのを確認しながら、ソル・リオンに荷物のように肩に担がれて離脱するのだった。


 その途中で、パトカーのような改造車に乗った《戦隊》の面々とすれ違いつつ。


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