第六話:変身ライダー
オペレーターの指示に従って移動した先は、街外れの廃ビル。
そこで《オーブ》発生を確認したクロとソル・リオンたちは、他勢力が関知する原因となる、オーブが発し続ける事象を絶つべく封印処理を施す。
しかし、封印が完了していないうちに別勢力の接近を確認。《変身ライダー》と予測された。
『総員退避!!』
オペレーターの叫びに反応して、ソル・リオンは封印処理中の《オーブ》を抱えて廃ビルから飛び降りた。
戦闘員たちはその速度についていくことができず、その場に伏せるにとどまった。
次の瞬間。
廃ビルの外壁を吹き飛ばし、バイクごと変身ライダーが突入してきてドリフトしながらブレーキング。何事もなかったかのように周囲を見渡した。
……ここが、廃ビルの三階であるにもかかわらず、外壁を吹き飛ばして突入してきた。
『……ふむ? おかしい。怪人もオーブもないな?』
おかしいのはお前だと言いたくなるのをこらえて、ヘルメットのバイザー越しに《変身ライダー》を睨み付ける。
黒を基調としたラバースーツ状の装甲服の上から、ダークブルーの騎士甲冑のような部分鎧を体、肩、腰、前腕、下脚部に装備。頭には兜状のフルフェイスヘルメットを装備。
烏の黒羽を思わせるマントを翻し、左手にはカラスを模した盾。
その嘴を思わせる尖端を引き抜けば、長さが変化する両刃の剣。
収納状態でも、夜闇色に光る矢を放つ。
その姿、その名は、
『《変身ライダー》、『ダークムーン』を確認。《オーブ》は諦めてくれ』
『O-1 了解。一人でも多い生還を祈ります。御武運を』
ソル・リオンが最強の怪人なら、目の前の変身ライダー・ダークムーンは、
『……オーブを置いて消えろ。抵抗するなら、皆殺しだ』
最悪の、敵だった。
『ぶるわあぁぁぁーーーーっ!!』
吠え猛りながら鉄筋コンクリートの床を貫き不意打ちを……吠えてるから不意打ちにならない……繰り出すソル・リオン。しかし、軽い動作で躱されてしまう。
『闘争が望みか。……ならば、死ね』
望みは逃走なのだが。
しかし、このダークムーンは容赦ない武闘派で知られていて、逃げるなら追わないが、オーブがあれば別だ。
邪魔すれば、容赦なく斬り捨てられる。
『オレが相手だ無頼の黒騎士よ! 我が名はソル・リオン!! この名この誇りにかけて、貴様に泥をなめさせてくれようぞ!!』
ソル・リオンが声を張り上げ、オーブを戦闘員たちに向けて放り投げつつ、両手を振り上げ、手の甲に収納されている刀のように鋭い4本のクローを展開し威嚇する。
しかし、ダークムーンは意に介さず、
『……敗北という名の屈辱を味あわせてやろう』
左手の盾から両刃の剣を引き抜く。
短剣サイズのそれは、ダークムーンの意思ひとつで長剣サイズまで伸びる。
羽ばたくカラスを思わせる小盾もまた、変則的な形ながら大型化し、指先から肘までを保護する盾となった。
その様子だけ見れば、怪物に挑む騎士さながらで実に絵になるのだが、この騎士は略奪者だ。
俺も左手の追加装甲に収納されている小刀を引き抜いて日本刀サイズに伸ばす。
他の戦闘員たちに封印作業を続行させつつ、中段の構えで獅子の巨躯に寄り添う。
睨み合いは数秒。三人同時に突撃した。
初撃はソル・リオン。両手のクローを振り下ろし、薙ぎ払う。蹴りや回転しての尾撃も交えた連続攻撃。
しかし、ダークムーンはひらりひらりと舞うように回避しながら斬撃を繰り出す。
それは通さないとばかりに、俺は刀で斬撃を弾き、そらし、わずかでも隙を作るべく動き続ける。
斜めに振り下ろす獅子の爪を、黒騎士は身をそらして躱す。
続けた大振りの横薙ぎを、黒騎士は頭を腰よりも低くして躱しつつ獅子の脚へ斬りつける。
その斬撃は俺が刀で止め、黒騎士の顔を狙った獅子の蹴り上げはバック転して回避しつつ距離を取られた。
獅子が逃がさんとばかりに踏み込んでクローを振り下ろす、と見せかけた回転尾撃も、さらにバック転して回避しながら一瞬だけ黒剣を伸ばし攻撃後の獅子を狙うが、俺が刀でそらす。
距離が開いたことで、仕切り直しとばかりに改めて構えをとる。……が、
『総員退避!!』
オペレーターの悲鳴の直後、今度は別の変身ライダーが、廃ビルの外壁をわざわざ吹き飛ばして突入してきた。
すぐ近くに、すでに外壁に穴が空いているにもかかわらず。
『日輪を背に、オレ……参上!』




