第五話:オーブ
《賢人会》の秘密基地にて《戦闘員》に変身したクロ。
今度の任務は《オーブ》採取の実働部隊。
随行する《怪人》は、古参にして最長稼働時間を誇る、太陽のごとき不敗の獅子 《ソル・リオン》。
頼もしいのは確かだが、やかましくて真夏の太陽のようにウザい。
秘密結社に格納されてある《オーブリアクター》によって、電子機器に映らず熱や電波にも反応しない『認識阻害』をかけられてから出動する。
こうすることで、制限時間内であればすぐ隣をバイクで通り抜けても気付かれない。
他の班はすでに配置について、撹乱作戦……という名の奉仕活動……を実行している。
あとは、《オーブ》出現の予想地点に発生予想時間までに到着すればよいだけだ。
バイクで移動する俺の隣を走る《ソル・リオン》は、ニヤリと笑いグッとサムズアップした後さらに加速して、
『こちらオペレーターO-1。ソル・リオン。そちらは方向が違います。ひとつ手前の交差点を右折してください』
オペレーターに注意されていた。
……なんとも締まらないネコ科の怪人だが、少なくとも俺は知っている。
《賢人会》発足から30年の間に、5年以上稼働している怪人は、このソル・リオンただ一体だけということを。
11年連続稼働。常勝無敗。単体で別の秘密結社を滅ぼした経験あり。
目の前にいるのは、生きる伝説。
多少ウザくても、やかましくても、彼がいれば敗けはないのだ。
『B-1 現着。指示を』
『O-1 了解。予想時間まで待機を』
『B-1 了解。各員、時間まで待機』
『『『了解』』』
今回の《オーブ》発生予想地点は、街外れの廃ビルの一角。珍しく、人気がない。
面倒なことに、《オーブ》は時間・場所を問わずに発生する。
発生した際は、何らかの事象も同時に発生し、《変身ライダー》や《魔法少女》はその事象を感知して現地へ向かう。
……まあその、《戦隊》は、警察の特殊部隊という性質上、事象を感知した後、担当の部署に書類を申請、担当する責任者の決裁が下りてから出動するらしく、いつも手遅れになっているが。
『予想時間まで100秒。カウント開始』
オペレーターの声に、ソル・リオンを含め全員が気を引き締める。
『了解。円陣。全方位警戒』
『『『了解』』』
発生予想箇所を中心に円陣を組み、周囲への警戒を密にする。
各種観測機器をもって、戦闘員以上の情報を処理するオペレーターであっても、現場の雰囲気に潜む違和感などは感知できないため、怪人と戦闘員が、目視や勘頼りで周囲を警戒することに意味がちゃんとある。
いつ、どこかの誰かが、こちらと同じように『認識阻害』を使ってくるかは分からないから。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ。《オーブ》の発生を観測』
『こちらB-1 。現地で確認。色は赤』
『O-1 了解。封印処理を』
『了解。封印処理開始』
『『『了解』』』
オペレーターのカウントダウンに合わせて、目の前で無音の光が一瞬だけ炸裂。
その後に現れたのは、ソフトボールくらいの大きさの、赤く発光する球体。
大きさは、平均より大きめ。《賢人会》としても、ぜひ確保したい品だ。
しかし、発生と同時に放たれた光となんらかの事象を感知して、おそらくは《変身ライダー》が先にやってくる。
《変身ライダー》は、主に《賢人会》によって改造された人間だが、最低でも《オーブ》4個分のエネルギーによって、怪人以上に強力な存在だ。
しかも、《賢人会》によって命を救われたにも関わらず、《オーブ》を《賢人会》とは別の存在に売却することもある。そしてそれを、《賢人会》は黙認している。
上の意向など知ったことではないが、現場が命がけなのは変わらない。
俺たち《戦闘員》と《怪人》にとって、《変身ライダー》は間違いなく敵だった。
『こちらO-1、リアクター反応確認。移動ルートから《変身ライダー》と推測。警戒されたし』
『B-1 了解。封印処理は?』
『あと300秒』
『……だ、そうです。ソル・リオン。ここは廃ビルですし、存分に暴れてください』
『……ふうぅぅ……。腕が鳴るわぁ……』
……腕が鳴るって、拳をコキコキ鳴らすことじゃないと思うけど、今は黙っておこう。
・変身ライダー
:全身を覆う《変身スーツ》と《専用バイク》で構成される、組織に属していないフリーランス。
ベルトとバイク、2基の《オーブリアクター》により戦闘力がもっとも高いとされる。
現場到達が早いことでも有名。
個人主義のため、ライダー同士で戦う場合もある。
・・変身ベルト:青オーブの器に赤オーブを込めて出来上がった《オーブリアクター》を搭載した、《変身ライダー》が《変身》するためのベルト。変身方法は様々。
機能に、身体能力向上、装着者の保護機能、必殺技などがある。
・・専用バイク:《オーブリアクター》が搭載された、ベルトとセットになったバイク。
バリアフィールド、エネルギー砲、飛行能力、変型など、個体によって様々な機能がある。




