第三話:守の事情
岸 守の日常には、御剣 刀華の幼馴染みである名繰 ほのかと朝倉 優樹 の姿もある。
三人の美少女に囲まれて、順風満帆な学校生活を送っている。
……よく、同情されたりしているが。
ブー、ブー、
マナーモードにしていたスマホが振動する。
メールを受け取った合図なのだが、その内容にちょっとクラっと来た。あんまり急すぎて。
「検査の準備ができた。至急来られたし」
コールドスリープとその後の治療、リハビリまで世話になった病院の担当医は、今でも俺を貴重なサンプルとして目を付けていて、経過観察のための定期診断の他に、こうして突然「検査をするぞ」と呼びつけてくる。
学校側も、これについては仕方ないと判断してくれているようで、出席日数がまずいことになっても補習を受けたら何とかしてくれている。実にありがたい。
ただ、この呼び出しは違う意味があって、その違う意味の方が本命だったりする。
学校から許可を取り、三人に軽く説明してから病院へ。
すでに顔パスとなっている受付に声だけかけて、地下にある特殊治療棟と書かれたゲートを通る。この先は、病院ではなく研究所だ。
「来たぞ」
リーダーに認証カードを読み込ませてドアを開け、中に居る人物に声をかけた。
「ああ、今忙しいから準備しておきたまえ。他のメンツはすでに準備を終えている」
呼びつけておきながら、こちらを見もせずにすぐさま追い出すような口ぶりの女性に顔をしかめる。
普段は《博士》とだけ呼ばれ、外見は白衣を着た三十代くらいの妙齢の美女だが、その中身は古希、つまり七十歳に近いといわれるマッドな科学者だ。
年齢によって脳と肉体性能が衰えてきたから、若返らせてみた。
そして、どうせなら自分好みの巨乳で腰の括れた美女がいい。
このアホな天才は、そんなことをほざいて自分を改造したらしい。
最初に会ったときから女性の姿だったので疑ってはいなかったが、本当についてなかった。ナニがとはいわないが。
そして、理論上はちゃんとデキるのだそうだ。ナニがとはいわないが。
……それはそれで、新たな悩みが出てきたらしい。心底どうでもいいが。
これでも《賢人会》では期待の若手というのだから、よく分からん組織だなと首をかしげる。
博士の指示どおりに集合場所へ向かう前に、呼ばれた時の、いつものルーティーンを。
目を閉じ、右手を左胸に添えて心を落ち着かせて、自身の鼓動を感じながら、呟く。
「変身」
足元から触手めいた闇が渦巻き、身を包む。一瞬の後には闇は消え去り、ラバースーツ状の全身スーツと通信機能が内蔵されたフルフェイスヘルメット姿へと変貌を遂げた。
胸と背中、両前腕、脛前面に、ダークシルバーの装甲板。
右の腰には伸縮性の警棒。
左の腰には光弾を放つ拳銃。
左腕には、前腕の手甲より少し大きい小型の盾が装甲板に重ねて取り付けられている。
その盾には、伸縮性の小刀が内蔵されている。伸ばせば日本刀のように長くすることも可能だ。
これが、特異個体《不死身のクロ》と呼ばれる、《賢人会》の戦闘員としての俺の姿だ。
・戦闘員
:《戦隊》用スーツを、より大量生産することで手数を補うことを目的とした廉価版《戦隊》用全身スーツを、それぞれの理由により《賢人会》に協力している元一般人が装着した姿。色は黒が基本。
基本装備は、ラバースーツ状の全身スーツと通信機能が内蔵されたフルフェイスヘルメット。
胸、背中、両前腕、脛前面に、ダークシルバーの装甲板。
右の腰に光弾を放つ拳銃。
左の腰に伸縮性の警棒。
左腕に手甲型の小型の盾。
戦闘員の隊長は、装備をある程度変更することができる。
装着者の死後、自爆することで機密を保持している。
戦闘員5~6人ほどで戦隊1人分程度。
現在は、主に細胞を培養された疑似人間 《ホムンクルス》が利用されているものの、一部では現在も元一般人が利用されている。
戦闘技術は個体によって様々だが、中には、戦隊どころか変身ライダーや魔法少女と互角の戦いをする個体も報告されている。




