第十話:帰宅
間一髪。介入してきた水の魔法少女によって救助されたクロ。
別の秘密結社に所属する怪人の乱入により、有耶無耶になりそれぞれ帰還する。
「お疲れさまでした。よく、帰還してくれました」
無表情ながら、心配げな様子のオペレーターが、ヘルメット越しに頭を撫でてくる。
このオペレーター、ソル・リオンと同期の古参のホムンクルスだという。
どう見ても二十代くらいの女性にしか見えないのだが、表情や感情に乏しく、感情の揺れ幅が少ない分、うろたえたりせずいつでも十全に性能を発揮できるという。
……ほんとかね? 俺からしてみれば、ちょっと感情を表に出すのが苦手な普通の範疇の人って感じだけど。
「はっはっは。このオレに感謝するといいぞ。クロをここまで運んだのはオレだからな!」
変身を解き人間の姿に戻った獅子王は、腰に手を当ててことさら明るく笑った。
……笑ってごまかしたともいう。
「……素顔を見せない規則になっているだろうに。怪人自らその規則を破られると、下に付く俺たちはやりづらいんだが」
「なに、細かいことは気にするな! 今日は痛み分けだったが、次に勝てばよいのだ!」
「……獅子王、そういうことではないのです」
オペレーターが獅子王の耳を引っ張って個室へ消えていった。
つまり、けっこう心をえぐるお説教の時間ってことだ。
よく分からんものから造り出された器に、よく分からんエネルギーを込めて造り出されたという怪人と、人間の細胞をよく分からん技術で急速に培養させたというホムンクルス。
俺には、どちらも普通の人間にしか見えなかった。
秘密基地を出て、変身を解いた帰り道。
ふと、誰かの声が聞きたくなった。
死にかけた影響だろうか? 普段は静かな時間を過ごす方が好きなのに、なぜか今は、どうしようもなく、声が聞きたくなった。
綺麗な姪っ子の、刀華の声が。
スマホを取り出して、電話をかける。
『もしもし、にいさま? まだ、帰れませんか?』
『うん、今日は遅くなってて、これから帰るから』
『もう少しで夕食の準備ができますから、寄り道せずに帰ってきてくださいね』
『うん、義姉さんの作る食事も美味しいけど、刀華の作る食事は好きだから、早く帰るよ』
『……っ、え、ええ、早く帰ってきてください』
記憶の中の母と同年代の女性を義姉と呼ぶのも、なんだか気恥ずかしいものがあるが、同い年の姪っ子からにいさまと呼ばれるのも、なんだかな。もう慣れたけど。
帰ろう。家に。
家族が待っている。
帰ろう。家に。
帰れる場所がある。
それより幸せなことを、俺は知らないから。




