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花嫁クエスト  作者: 玉兎
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幕間 イズ・シーディア④


 シルル教団遠征部隊が帰途についたのは、コーラルが空を取り戻した二日後のことであった。

 もちろん、その中には地下要塞を脱出した俺たちも含まれている。

 地下要塞からの脱出について語るべきことはあまりない。魔物との戦いはあったが、苦戦するような相手はあらわれなかったからだ。



 なにしろこちらは前衛に勇者イズ戦士オレ、後衛に僧侶スーシャ魔法使フレアいをとりそろえ、さらに中衛に魔法戦士ウルクを置くという磐石の布陣。

 くわえてイズは聖剣を、俺は魔剣を持っているのだから、それこそ魔人でも出てこないかぎり、大抵の魔物は蹴散らせる。

 そして、戦闘が安定すれば探索がはかどるのは道理であり、俺たちはその日のうちに地下要塞からの生還を果たしていた。この帰還が生き残りの将兵に歓呼をもって迎えられたのは言うまでもない。



 それからおよそ一日をかけて帰還の準備を整えた遠征部隊は、今日、歩武堂々と城門をくぐって廃都を後にした。

 目的を達成した以上、長居は無用というわけだが、この速やかな行軍にはいささか深刻な理由も存在する。兵站を担っていた義勇兵団の壊滅によって物資の大半が失われ、糧食が不足していたのだ。

 多数の死者が出たために、かえって必要な食料が少なく済んだのは皮肉というしかなかった。




 ――で、そんな遠征軍の中にあって、俺が何をしているのかといえば、かろうじて無事だった荷馬車の中で、ひとり手足を伸ばして寝そべっていた。

 ことわっておくが、さぼっているわけでも、だらけているわけでもない。教団から馬車の中でおとなしくしているように、と言われたのである。



 馬車の外には絶えず教会騎士の一隊が張りついているため、俺は魔物の襲撃に注意を払う必要もなく、のんびり過ごすことができる。

 それだけではない。食事は頼まずとも運ばれてくるわ、用足しで外へ出る際も護衛がくっついてくるわ、まるで一夜にして教団の重要人物に成りおおせたような気分であった。



 このVIP待遇は、見事教皇を守り抜いた俺への褒賞――ではもちろんなく、魔剣の持ち手となった俺を警戒してのことである。面と向かってそう言われたわけではないが、他に考えようがない。

 馬車にいるのは俺だけであり、教皇であるスーシャはもちろん、フレアやウルクとも一日以上顔をあわせていなかった。こちらも間違いなく教団の意向が絡んでいるだろう。

 用足しにも人がついてくるといったが、より正確に言うと、用足し以外で外に出ることは許されていないのだ。実質的な軟禁状態といってよかった。




 傍らの赤い剣を見やった俺は、ふんと鼻から息を吐き出す。

「ま、これが普通の対応ってやつだろうな」

 魔人の力を秘めた剣。並の人間が手にすれば狂死しかねず、廃都の地下では魔物の変異種さえ生み出していた呪いのアイテム。

 この神殺しの剣が危険な代物であることは誰の目にも明らかであり、必然的にその剣の持ち手となた俺も危険人物として認識されているわけである。



 ある意味、魔人のようなものだ。監視、隔離も致し方なし、というべきだろう。

 俺から剣を取り上げないのは、単純に他の人間が剣に触れないからだが、この剣が人間にどのような影響を与えるのかを調べる意図もあるのだろう。

 さながら今の俺は実験用のマウスである。ちゅー。




 なお、言うまでもないと思うが、俺をこの境遇に押し込めたのはスーシャではない。聖騎士団長でもない。

 地下要塞からの帰途、ようやく合流できたシルル教団大司教の指図による。スーシャや聖騎士団長ともどもスライムに襲われ、行方不明になっていたあの大司教だ。



 今回の教皇親征の発起人でもある大司教は、名をバルビウスといい、褐色の髪と紺色の瞳を持った壮年の男性だった。三十代の若さで大司教の地位に就いただけあって、その身体には犀利と豪胆が併存しており、声にも態度にも自信が溢れている。聖職者というよりは大国の貴族を思わせる人となりだ。

 俺たちと合流するまで、たったひとりで地下要塞の脅威に対処していたことからもわかるように、武術や魔法の腕前もかなりのもので、危険な遠征部隊にみずから名を連ねるだけのことはあった。



 地下で起こった一連の経緯(結婚云々はのぞく)を聞いたバルビウスは、即座に俺を危険人物として認定したらしく、地上に戻るやいなや、あっという間に馬車に押し込められてしまった。

 当然、俺としては面白くなかったが、前述したように客観的に今の自分の立場を振り返ってみると、警戒されるのは仕方ないと思える。

 たとえばの話、ここがウィンディア王国で、山岳騎士団の管轄地に魔剣持ちの人間が姿を見せたら、俺も問答無用で拘束する。そういうことである。



 むしろ鎖で縛られていない分、温情のある措置という見方もできた。

 それに、下手に反抗すれば大司教はより直接的な手段に訴えてくるだろう。そうなればスーシャは俺をかばわざるを得なくなり、結果として教皇と大司教との間に隙が生じる。

 地下で言明していたとおり、スーシャは教団内の混乱で信徒に負担をかけることを望んでいない。それを知る俺が混乱の火種になるわけにはいかなかった。



 それに、だ。

 今の俺はたしかに軟禁状態におかれているが、視点をかえると、誰に気兼ねすることもなく休息できる立場、という見方もできる。

 これまで戦い尽くめだったことを考えれば、かえってありがたいくらいだ。おそらくだが、スーシャが大司教の措置(俺を軟禁すること)をよしとした理由の一つはこれだろう、と俺は考えている。



 実際、昨日一日、生き残りの将兵が死者の埋葬や負傷者の治療でてんてこまいになっている最中、俺は馬車の中でぐーすか熟睡していた。

 魔人の呪いが解けたとはいえ、長きに渡って呪いの影響を受けてきたコーラルの大地は、いまだ瘴気を吐き出す毒の土で覆われている。そんなところに同胞たちの亡骸を葬るわけにもいかず、遠征部隊はかなり苦慮しているようだったが、俺はそんな深刻な喧騒の外で、ほぼ一日中惰眠をむさぼっていたわけだ。

 これでは大司教に文句を言っても説得力は皆無であった。



◆◆



「テオ、食事持ってきたよ……って、あれ?」

 馬車の外からそんな声がかけられたのは日が落ちて少し経ってからのこと。

 夜営の準備の音が聞こえてくる中、俺に食事を運んできたのはイズだった。

 食器片手に顔をのぞかせた勇者は、馬車内の俺の姿を見て、不思議そうに目を瞬かせる。



「テオ、針と糸をもって何してるの?」

「ん? こいつの鞘になる布袋を自作しようと思ってな」

 そう言ってかたわらの魔剣の柄を軽く叩く。

 剣の危険性はもうどうしようもないとしても、せめて見た目のまがまがしさだけでも何とかしないと、気軽に持ち運ぶこともできない。眩いばかりの赤光は、見る者に落ち着きをもたらすものではないのだ。



 魔法的な手段で封じ込むことができないなら、物理的な手段で封じ込めてみよう。

 そう思い立った俺は、まず適当なボロ布で魔剣の柄をぐるぐる巻きにしてみた。赤光の源を塞げば、ちょっとは見た目もましになるだろうと考えたわけだが、この試みは思いのほか上手くいった。可能石エネルゲイアの赤い光が遮られるだけで、随分印象が大人しくなる。



 残る問題は灼熱したように輝く刀身部分である。ここについては鞘を用意すればいいのだが、さすがにこれは自作できない。そこで布袋をつくることにした。

 俺のつたない作品では、外観がすさまじく冴えないことになりそうだが、それはそれで隠蔽に役立つに違いない。



 俺の答えを聞いたイズは驚いたように目を丸くする。

「テオって裁縫もできるんだ?」

「自慢じゃないが、俺は子供用の衣服程度ならつくれるぞ。昔、知り合いに仕込まれたからな――まあ、裸よりはましってレベルだけれども」

 この点については昔からシュナの方が断然上だった。きっと兄手製の服を着たくないばかりに努力しまくったに違いない。しくしく。



「そうかな? せめて家事くらいはお兄さんの手をわずらわせたくないって、そう思ったんじゃないかな。ボクはテオの弟さんを知らないから、断言はできないけれど」

「む、それは確かにありえるな。なんて兄思いの弟なんだッ」

 泣き顔から一転、感動に打ち震えていると、イズが何やら名状しがたい表情を浮かべて俺をじっと見つめてくる。

 俺はこほんと咳払いした後、イズに問いかけた。



「何やら言いたげな様子だな、勇者殿?」

「いや、びっくりするくらいいつもどおりだなーって思って」



 今の状況に思うところはないのか、とイズは視線で問い返してくる。

 俺は軽く肩をすくめた。

「この剣と、持ち手である俺が危険なのは額縁付きの事実だからな。俺が大司教でもこの程度のことはする」

 くわえていえば、大司教に対してスーシャが明確に反対を唱えられない理由もわかっている。

 今もいったように俺が危険人物であるのは客観的な事実であるから、その俺をかばおうとすれば「どうして聖下はあの男をかばうのか」と怪しまれてしまうのだ。



 俺とスーシャは地下で結婚について話をしたが、それはあくまで当事者間の誓約であって、現時点で結婚話をおおやけにする気はまったくない。いらぬ混乱を招いた挙句、大反対にあって潰されるのが目に見えている。

 ゆえに現時点で大司教に余計な疑念を与えたくない。それがスーシャの考えだろう。

 直接、言葉にして言われたわけではないが、その程度の推測はできる。婚姻の書を提出するのは、花嫁令の期限である来年三月。それまで口を緘し、聖賢会議に悟られないようにする必要があった。



 以上の理由で、俺はスーシャに対して「話が違うじゃないか」というような不満はまったく抱いていない。

 たぶん目の前の少女イズは、俺が教皇や教団に対して隔意を抱いてしまうのではないかと危惧しているのだと思うが、それは杞憂というやつである。

 付け加えると、軟禁されているとはいっても、監視部隊を指揮しているのはイズなわけだから、深刻な不安やら不満やらを抱きようがないしな! 



 だから気にしないでいいぞーと伝えると、イズは安堵したようににぱっと微笑んだ。





「あの、テオ。少し話があるんだけど、いいかな?」

 イズがそう口にしたのは、二人して夕飯を食べ終えた後のことだった。

 結婚を切り出してきたときのスーシャを彷彿ほうふつとさせる物言いに、少しだけ悪戯心がうごめいたが、イズの顔を見た俺は、喉元まで出かけたからかいの言葉を飲み込む。それくらい真剣な表情だったのである。



「話といっても、ボクのことじゃなくてフレアのことなんだけど」

「ふむ?」

 脳裏に魔法使いの少女の顔を思い浮かべた俺は、話の行き先がわからずに首をかしげる。

 わざわざ当人がいない場所を選んで切り出すあたり、いろいろと訳ありのようだ。

 そんな俺の推測は見事に的中することになる。




「テオはもう知っていることだけど、ボクとフレア、それにミリア姉さんは同じ孤児院で育ったんだ。ボクのシーディアっていう姓は、院長のシーダ先生からいただいたものでね。ポポロさんと結婚する前のミリア姉さんも同じ姓だったの」

 シーディア。シーダ院長の子供たち。

 身寄りのない孤児たちに院長は自分の名を分け与え、家族として遇したのだという。

 イズは続ける。



「フレアの姓はリンク。シーディアじゃないんだ」

「身寄りがいたってことか」

「うん、そう。ボクも詳しい事情は知らないんだけど、フレアには家族がいた。時々……たしか三月に一回くらいだったかな、孤児院に手紙が届いてね。それを読んでいるフレアは、すっごく嬉しそうだったよ」



 幼いフレアは、親兄弟のいない他の子供たちを気遣ってか、いつも一人になるときを見計らって手紙を読んでいたそうだ。

 一度、何かの拍子にその現場を悪ガキに見つかってしまい、手紙を奪われたことがあったらしいが、そのとき、紅茶色の髪の少女は烈火のごとく怒り、怒髪天をつく有様になったという。



 時折、フレアの鋭い視線に晒される俺にとっては容易に想像できる光景である。

 思わず笑みがこぼれそうになるが、その笑みは沈痛な顔をしたイズの次の言葉で微塵に砕けた。

「その手紙が最後に届けられたのが、八年前」

「…………まさか、大侵攻か?」

 俺が短く問うと、イズはこくりとうなずく。



 大体の事情を察した俺は重いため息を吐いた。

 八年前、ウィンディア王国は大侵攻を撃退したが、激戦の舞台となった大陸北部には多大な被害が出た。特に侵攻初期に魔軍の標的となった北辺はひどい有様で、いくつもの町や村が魔物たちに蹂躙された。

 おそらく、フレアの家族はそういったところに住んでいたのだろう。案外、俺たち兄弟のご近所さんだったのかもしれない。



 いつかも述べたが、当時のメルキト河以北は南方諸国から無法地帯と見なされており、流刑地同然の扱いを受けていた。

 想像の翼を広げてみるに、フレアの家族は何らかの罪を犯して北に流されたのではないか。

 孤児という形でフレアを南に残したのは、家族が離れ離れになろうとも、幼い娘を北に連れて行くよりはましだと考えたから。こう考えれば色々と辻褄が合う。



 イズの言葉はなおも続いた。

「これはずっと後になってフレアが突き止めたことなんだけど、フレアの家族が住んでいた村の人たちは北に連れ去られたんだって」

 北、ガルカムウの向こう側。

 イズのいうことはつまり、フレアの家族が魔物の奴隷として魔人領域に連れ去られたことを意味する。

 であれば、それを知ったフレアが次に何を考えるかは自明だった。



「フレアは魔人領域に行くつもりだったのか」

「あくまでボクの想像だけど、たぶんそう。以前、傭兵としてウィンディアに渡ったのも、そのためだったんじゃないかな。けど、そこでガルカムウがどんな場所だったのかを知って、自分の力不足を痛感した」



 フレアはもともと魔法に対して強い執着を持ち、貪欲に技術や知識を習得していたが、ウィンディアから戻って以来、以前にもましてその傾向が顕著になったという。

 その端的な表れが、ウィンディアで得た金銭で自分の家を買ったことだ、とイズはいう。フレアの家にはその手の書物やアイテムが山をなしているらしい。



「魔人領域に行くことがどれだけ危険なことかは、フレアも十分にわかっていると思う。だから、ボクにも、そしてたぶん他の誰にもそのことを言ってない。目処もまったく立っていないんじゃないかな? そんなフレアだから、テオの話を聞いてすごく驚いたと思うんだ」

「確かに、こんな近くに同じ目的を持った人間がいたと知ったら驚くわな」



 実際、俺もけっこう驚いている。

 ただ、あらためて振り返ってみれば、いくら友人イズのためとはいえ、魔人が関わっているとわかっている案件にためらいなく協力したのは、そういった含みもあってのことだったのかもしれない。

 いずれ戦う相手と思い定めていたのなら、迷う必要もないわけだ。



 まあ、正確なところは本人に訊かないとわからないから、ここであれこれ考えてもしかたない。

 今、気にするべきはフレアが何を考えているかではなく、親友の事情を俺に話したイズの思惑である。

 これについて、イズは次のように語った。



「その、フレアとテオってあまり話をしない、よね?」

「まあ、そうだな。仲良しとはいえないな」

 事実だから否定しようがない。

 最初の頃にくらべれば、最近はずいぶん話をするようになったとは思うが、それでも俺とフレアが言葉を交わす頻度は、イズやウルクのそれとは比べるべくもない。



 俺がそういうと、イズは小さくうなずいた。

「たぶんテオから見たら、フレアはそっけないというか、冷たく感じると思うんだけど、それは期待の裏返しみたいなものでね。ガルカムウの最前線で戦ってきたテオのこと、フレアは素直に尊敬していると思う。ただ、そのテオが王位目当てに国を出たっていうので、失望みたいなものを感じちゃってるんじゃないかな」



 だから言動に冷えが出る。

 とはいえ、それが自分勝手な考え――勝手に期待して勝手に失望する――だとわかってもいるから、フレアはつとめてそういう感情を表に出さないようにしてきた。結果として、それがそっけない言動につながっている、とイズは分析してみせた。

 小さい頃から一緒にいる親友の言葉だ、説得力がある。



 フレアがそういう目で俺を見ている一方、こちらもこちらで、花嫁令のことで警戒されていると思い、不用意に話しかけないようにしてきた。

 そういったことの積み重ねが、今、俺とフレアの間にできている距離にあらわれている。

 当然のようにイズはそのことに気づいていたが、へたに自分が口を挟むよりも、自然に雪解けを待つほうが得策だと考えていたらしい。

 今しがた俺が言ったように、最初の頃に比べればずいぶんましになっている。時間さえかければ、二人はわだかまりなく言葉を交わせるようになるだろう、と。



 そのイズが、こうしてフレアのことを語った理由は――まあ、十中八九、魔人領域に攻め込むという俺の話を聞いたからであろう。

 イズは教会騎士であり、聖剣は教団から貸し与えられた武器。イズ個人の判断で戦場を選ぶことはできず、どれだけフレアが両親の救出を切望していても、自分の判断で協力することはできない。

 その点、魔人領域という一点で目的を重ねる俺はフレアに協力できるし、逆もまた真なり。俺とフレアにとって益こそあれ損はない話だ。



 このことはフレアも当然わかっているだろう。しかし、たとえわかったとしても、これまでの態度を急に翻すなんて器用なまねはフレアには難しい、とイズはいう。

 これには俺もうなずいた。たしかにあの少女はそういった器用さからは遠い。

 それに、たとえ目的が魔人領域の征討にあったとしても、俺が野心のために国の守りを投げ捨てたのは事実。目的のためとはいえ、そういう相手とは協力できない、したくない、という考えは決して間違っていない。



 そのあたりのしこりを解消するためには、言葉を重ね、距離を縮める努力が必要になるが、今の俺とフレアにはその下地がない。

 そう考えたイズは、昨日一日熟考した末、こうして俺に話をもってきたそうだ。



「もちろん、ボクのかわりにフレアに力を貸してあげて、なんて言うつもりはないよ。テオにはテオの、フレアにはフレアの考えがあるんだから。ただ、テオが思っているほどフレアは冷たい子じゃないし、テオのことを嫌っているわけでもないから。そのことは伝えておきたくて」

 イズはそう言ったものの、できれば俺の方から歩みよってあげてほしい、というのが本音だろう。そして、それが勝手な期待だという自覚もあるに違いない。

 いろいろと大変なときにごめんなさい、と頭を下げるイズは実に申し訳なさそうだった。




 そんなイズに対して、俺は答えを返そうと口を開く。

 が、異変は俺の口から言葉が出るまで待ってくれなかった。



「勇者殿!」

 馬車の外からイズを呼ぶ声がする。先の激戦を生き延びた手練の教会騎士たちの押し殺した声。

 その声とほぼ同時に、俺とイズは難敵の出現を感じ取った。

 馬車の中にいても感じ取れるほどの膨大な重圧プレッシャーは、この三月の間に俺たちが何度も体験したもの。



 忘れられるはずもない。

 それは魔人の放つ気配であった。



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