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第99話 過去の俺 (主人公トキヒロ視点)


 翌朝、改めて香澄さんの部屋へ移動した俺達は、カオリとも合流して話を始める。

「取りあえず、現状を再認識して問題点をまとめましょう」

 藍音さんの言葉に一同頷く。


「まず、香澄ちゃんのクラスに関する問題は一応の解決と言うことでいいのかしら」


 藍音さんの言葉に頷きながら香澄さんが答える。

「ええ、日本に帰るという点では解決ね。

 問題点は異世界で得たスキルだけど、自分がモルモットになりたくなければ黙っているでしょうね」


「香澄先生、万一、誰かがうっかり漏らしたらどうします?」

 カオリが質問する。


 今日のカオリは初めて見る私服姿だ。

 デニム生地のシャツに厚手の上着、スカートはセミロングでストッキングは白の分厚いものを着用し、ファッションより実用性を重視している出で立ちといえる。

 冬の最中と言うこともあり、しっかりと着込んでいる。


「そうね、そのときはこちらにもどって来たためスキルが使えなくなっていることにするのがいいと思うわ。

 下手に使える能力があるとわかれば、本当にモルモットよ。

 クラスのみんなには週明けにでも念押ししましょう」

 香澄さんは少し考えてから答える。


「それなら、私がSNSで出来るだけ連絡しておきます。ちょっとでも早い方がいいでしょうから」

「是非お願いするわ」

 カオリの提案に香澄さんも頷く。



「クラスの問題はこれくらいかしらね……

 問題はトキヒロ君ね」

 香澄さんは俺を見て申し訳なさそうな視線を送ってくる。


「それについては、あまり焦ってはいない。

 正直、ゆっくり魔石を集め、カオリの帰還の魔方陣にかけるつもりだ。

 それに久しぶりの日本を少し見てみたいしな」

「と言うことは、トキヒロ君は日本とあの世界を行き来して冒険者をもう少し続けるということでいいかしら。

 それなら私が日本との間の運搬役ね」

「藍音ちゃん、それなら私も一緒に魔石集め手伝うから連れて行って。

 なんと言ってもトキヒロ君を巻き込んだのは私だから」

「藍音さん、当然私も手伝います。

 それに私の魔方陣がどれくらいの魔石で発動するかは私でないとわからないと思いますので」

 藍音さんの言葉に香澄さんとカオリが慌てたように続ける。


「と言うことのようだけど、だいたいこんな感じでいいかしら、トキヒロ君」

「ああ、正直みんなが手伝ってくれると助かる。

 藍音さんにはこの件に無関係だが迷惑をかけてすまない」

「気にしないで。

 刺激があって楽しそうだしね」

 藍音さんはニコニコしながら気軽に答える。


「残る問題と言えば、こちらの世界の周りへの対応と、召喚された世界で関わった人たちへの対応ね」

 香澄さんが俺達と代わる代わるに視線を合わせながら言葉を発する。


「ええ、正直あの世界には極端な悪意があちこちに入り乱れていると思うわ。

 法整備もしっかりしていないし、権力者に問題があるし、まじめにやっている人が損をするような世界は悲しいものがあるわね。

 私にお手伝いできることがあれば、異世界に干渉することもやぶさかではないわ」

 藍音さんはまじめな顔で淡々という。


「いや、藍音ちゃんが本気で干渉したら星ごと滅びかねないからそんな怖い顔で何か企んだような視線を向けないでよ」

「あら、いやだ。香澄ちゃんこそカッとなったら私以上に危ないじゃない。

 ローミラール星が太陽に突っ込みそうになったのを忘れたの?」

「いえいえ、あれは藍音ちゃんが加減を間違えて作ったホワイトホールが原因でしょ。

 藍音ちゃんには負けるわよ」

「そんなことないわよ。あれは香澄ちゃんが勢いに任せていっぱい作ったブラックホールのせいよ」


 なにやら2人の間には、俺達では計り知れない黒歴史があるようだ。

 お互いに相手の寄与が大きいと主張しているが、端から聞いている2人の共同作業でどこかの星系が死にかけたと言うことのように聞こえる。

 俺とカオリは乾いた笑いを浮かべしばらく見守るしかなかった。



「あの、先生。

 不毛な争いはそのくらいにして、取りあえず今からどうするか決めませんか」

 なにやら無言で目から火花を散らして視線をぶつけ合い始めた香澄さんと藍音さんを引き離すようにカオリが声をかける。


「ええ、そうね。

 取りあえずどうしたいかトキヒロ君の意見を聞かせて」

「魔石集めにあの世界に戻るならすぐにテレポートで移動できるわよ」


 香澄さんと藍音さんが俺の方に話題を振る。

 俺は少し考えると答える。

「別に急いで自分の転生後の世界に戻る必要はないんだ。あっちじゃ魔王も倒したしな……

 久しぶりに日本にいるんだから、今日は少し町を歩きたい」

「それなら私もヒロに付き合うわ」

「いいけど、高校生の不純異性交遊はダメよ。今日は私もついて行くわよ」

「それなら私がテレポートで好きなところに連れて行くよ」


 どうやら4人でお出かけに決まったようだ。


「正直関東圏は来たことがないから、案内してもらえるのは助かるな」

「ヒロは転生前にはどこに住んでいたの」

「九州だ。

 修学旅行では日本の反対側の北海道に行って、スキー初体験中に雪に埋もれて死んだはずだ」


 カオリの質問に俺は答える。


「それはお気の毒だったわね」

「いや、もう生まれ変わる前のことだ」

 香澄さんの言葉に俺は気にしていないと伝える。


「それなら、故郷でも見に行く?」

「そうだな……」

 藍音さんの提案にしばし考える。


「それは行ってみたいと思うんだが、今は俺が死んでからどれくらい立っているんだろう。

 今日は西暦何年の何月何日だ」

「20○○年の2月○○日よ」

 俺の質問に香澄さんが答える。 


「んっ?」

 俺はその日付に何かが引っかかる。

 なんだかとても重要な何かが……


 俺はふと思いついてカオリに聞く。

「カオリは今、高校2年生だよな。

 何年生まれだ?」

「えっ?私。

 ○○年の6月生まれだよ。」

「それって、転生前の俺と同級だな……」

「「「えっ」」」

 俺以外の3人の言葉がかぶった。


 俺が死んだのは高校2年生の修学旅行中。

 確か二月だった。

 そして今は、俺と同じ年に生まれたカオリが、かつての俺と同級生。

 これはどうしたことだ……


 俺が考え込んでいると、ぼつりとカオリが呟いた。

「もしかして異世界逆行転生……」


 カオリの言葉に他のメンバーが反応する。


「関谷さん、それどういう意味?」

「私にもわかるように説明して」


 香澄さんと藍音さんがカオリの方をのぞき込む。

 俺もカオリを見つめる。


「ヒロは、時間軸を遡って異世界に転生したんじゃないかと思います。」


 カオリのその言葉を聞いて、俺はさっきの日付が何だったか唐突に理解した。

 今日は前世の俺の命日。

 今日の午前10時半くらいに、北海道最大のスキー場の一つで、スキー体験生まれて二日目にもかかわらず急傾斜の斜面へつれていかれた俺達が、突然発生した雪崩に巻き込まれて死んだ日だ。

「今、何時だ?」

 俺はポツリと聞く。


 他の3人は表情にクエッションマークを浮かべたが、すぐに藍音さんが腕時計を見て答える。

「10時20分ね」


「もうすぐ、前世の俺が死ぬ……」


 俺の言葉に場が凍り付いた。







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