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第94話 勇者救出大作戦 (主人公トキヒロ視点)


「まずい」

 一言叫ぶと藍音さんがその場から消える。

 次の瞬間、沼の上空、勇者君をまる飲みにした大カバの真上に出現した。

 テレポーテーションだ。


 あまりの事態にボーッとしていた俺は緊張感なく「便利だな……」という感想を抱いたところで我に返る。

 確かに急がなければまずい状況だ。


 巨大カバは目の前に現れた藍音さんも美味しくいただこうと大きな口を開けてばくばくとやっているが、ぎりぎりのところでレビテーションを使いかわしている。


「みんな!ベヒモスよ!

 それも特大の奴」

 香澄さんは俺達に注意を喚起すると自らは全力で疾走し、その勢いでジャンプする。

 そのままレビテーションで藍音さんを追う。


「私たちも行きましょう」

 カオリの言葉に俺もレビテーションの魔方陣を無詠唱で展開する。

「了解だ」


 それにしてもテレポーテーションほどではないが香澄さんも速い。

 もう、ベヒモスの目前まで移動している。


 俺とカオリが追いついたときには、作戦は決まっていた。

「香澄ちゃんがサイコキネシスでベヒモスをつり上げて、空中に固定して。

 私がクレヤボヤンスで透視しながら、飲み込まれた勇者君を切らないようにベヒモスをさばくわ」

 藍音さんが端的に指示を出す。

「俺達は何をすればいい」

「勇者君が見えたら引きずり出して確保して」

「「了解」」

 俺とカオリの声が重なる。


「それじゃあ取りあえず、下でぱくぱくしているベヒモスをつり上げるね」

 香澄さんはそう言うとすぐに右手をベヒモスに向けて集中力を高める。


 瞬間、大きな角付きカバ(ベヒモス)がザバッと言う水音ともに空中に浮上する


「ブヒーモーーーーッ」

 急激に中空へ引き出されたカバは何が起こったのか理解できず、手足をバタバタさせて暴れている。


「動かれると手元が狂うわ。

 先にとどめを刺しておきましょう」

 言うが早いか、藍音さんは抜剣し、暴れるベヒモスの眉間に柄まで剣を押し込んだ。


 ベヒモスは一瞬痙攣し、すぐに動かなくなる。

「よし、これでさばきやすくなったわ」


 言うが早いか、ベヒモスに刺さった剣を引き抜き、空中で静かに目をつぶった藍音さんはベヒモスののどから腹にかけて剣を入れていく。

 ベヒモスと言えば俺の転生先の世界でも少し見た目は違うが巨大な魔獣で、討伐の難易度もかなり高かったはずだが、この2人にかかってはそこらのスライムを片付けているような手軽さで処理されていく。


「藍音ちゃん、血抜きも忘れないでね」

 香澄さんは後でカバ(ベヒモス)を食べる気満満のようだ。

 この事態に落ち着いているというか何というか……、言葉が見つからない。


「出るわよ」

 腹の中央くらいをさばいているとき、藍音さんは俺達に向かって声をかけてきた。

 どうやら、胃に到達したようだ。


 ここまで、勇者君がベヒモスに丸呑みされてからおよそ30秒。

 藍音さんの掌底突きを喰らってからおよそ35秒。

 まだ生きているといいが……。


「こう暗いとわかりにくくてやっていられないわ。

 少し明るくするわね。

 ライト」

 カオリが、光の魔法を唱えるとベヒモスの周辺だけライトアップされたように照らし出される。


「見えたわ、あれね」

 カオリがクラスメイトをベヒモスの臓物の中に確認したようだ。

「分かった。引っ張り出すぞ」


 取りあえず接近すると、グロテスクな臓物の中に、具足の金属が光魔法を反射してきらりと光って見える。

 俺はすぐにそれを掴み、勇者君を内蔵の海からサルベージした。


 足を掴んで逆さに宙づりしたまま、沼の岸辺へと運ぶと早速水をぶっかけてベヒモスの血と粘液を洗い流す。


 横たえた勇者にカオリが近寄ってかがむ。

「ちょっと、大塚君、起きなさい!」

 耳元に大きめの声をかけているが反応はない。


 カオリは勇者君の肩をバンバン叩きながら更に声を大きくする。鎖骨が折れなければいいが……

「大塚君、大塚君。

 大丈夫なの!?……

 反応がないわね……」


 そう言うとカオリは勇者君の頸動脈に人差し指と中指を当てた。












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