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第91話 勇者封印 (主人公トキヒロ視点)


 意識を取り戻すと既に夕方だった。

 日本時間では5時を少し過ぎているのだろうか。藍音さんが既にこちらに来ている。


「そう、空間転移でも魔力が足りなかったのね……

 やっぱり世界を渡るには膨大な魔力が必要と言うことなんでしょうね」

 藍音さんの言葉にカオリが相づちを打ちながら続ける。


「はい、私の転移魔方陣でも魔王級の魔石が必要になります。

 最後の手段はこの魔方陣ですが、確実に元の世界につながるかどうかは確証がありませんし、現状では魔石が足りていません」


「この件は継続審議ね、トキヒロ君」

「了解した。

 他に方法がないか考えながら、その他の検討事項を先に片付けよう」

 香澄さんに答えた俺だが、俺の帰還については、正直カオリの魔方陣が最後の砦かも知れない。

 魔石の収集を進めるしかないだろう。


「後考えないといけないのは、厨二病勇者ご一行をどうするかなのよ。

 説得もそうだけど、上手く帰る気になっても、レベルが少し上がってしまっているから、日本でその力をひけらかしそうで……」

 香澄さんは悩ましげだ。


 確かに、エルハンストの町での傍若無人振りを見れば、香澄さんの懸念が杞憂に終わることはないだろう。

 しかしそのとき俺に一つの考えがひらめく。

「ちょっと待ってくれ。

 今、思いついたことがあるんだが、試して見たい」


 俺はそう告げるとステータス画面を開いて演じている職業を魔法剣士から封印結界師に変更する。

 そして次に自分のステータスの一部に集中した。


「上手く行った。

 俺の職業とスキルで、どうやらこの世界のレベルを封印できる」

 俺の言葉に三人がこちらを見つめる。


 美女、美少女3人に見つめられるのはなかなか貴重な体験だが、その眼差しは甘い感情を伴うものではなく、早く先を話せと催促している。


「あいつらは自分を鍛えることなくレベリングによる補正で強化されてきた。

 この世界のステータスは基礎能力とレベル数値の積算で決まっているが、レベルを封印すれば素のステータスが残るだけになる。

 あいつらは日本に帰ってもこの世界でのような力は発揮できなくなるさ」

「でも、魔法やスキルなんかは使えるんじゃない?」


 香澄さんの心配ももっともだが、おそらくほとんどの魔法やスキルは使えない。

 なぜなら魔力や力が足りないと発動できないものばかりだからだ。


「確かに、スキル自体は封印できないみたいだが、レベル補正がなくなれば発動できるだけの魔力が確保できなくなるはずだ」

「なるほど……

 やってみる価値はありそうね。

 お願いできるかしら」

「もちろんだ」


 俺達は早速エルハンストの町にテレポートする。

 まずはこっそりとエルハンスト伯爵に会い、勇者一行を引き取る許可をお願いする。

「昨日夕食に招待した後、既に兵舎には連絡を出しているよ。

 君たちの誰かが行けば、4人を引き渡してくれるように手配している。

 しかし、あいつらはまだ全身骨折と打撲に、のども潰れていて、しゃべることも動くことも出来ないと思うぞ。

 犯罪者と言うことでポーションによる治療も回復魔法も生命維持に必要な最低限にとどめられているはずだ」

「そうですか……。

 では、引き取った後どうするかちょっと考えてから兵舎に向かいます」

 伯爵の説明に香澄さんは少し考えてから返事をし、俺達は伯爵邸を辞した。


 門をでたところで額を付き合わせて相談する。

「やはりいきなりテレポートはまずいよね……」

「そうね。どこか目立たないところに移動してからになるでしょうね」

 香澄さんの言葉に藍音さんも頷きながら答えている。


「何か、あいつらを運ぶ物が必要だわ」

 カオリの言葉に頷いた香澄さんは腰につけた革袋をひもといて中身を確認している。

「これだけあれば荷車の一つくらい買えるでしょう。

 ベヒモスの売り上げはまだまだ残っているわ」

「それに何かかぶせる布みたいなものを買う必要があるわよ。

 ミイラ男みたいなけが人を4人も乗せた荷車は目立ちすぎるわ」

 藍音さんの指摘に財布の中身を再確認した香澄さんは

「問題ない……、と思う」と最後は少し小声になって答えた。


「足りないときは出しますよ」

 カオリの言葉に、全員で夕暮れの商業地区へ向かう。


 農機具を扱っている比較的大きな店に、目的の荷車があった。

「こんにちは。

 この荷車は何を運ぶためのものですか」

 香澄さんが店番をしていた従業員らしき男性に尋ねる。

「ああ、これは多目的で郊外の道でも安定するように車輪を大きめにしたものだ。

 干し草だろうが果物だろうが相当な量が運べるぞ」

 そう答えた男性に値段を聞いて、幌がわりの布もセットで12万ゼニーだった。


「楽勝ね!」

 少し軽くなった革袋を腰ヒモにもどしながら香澄さんは荷車を受け取る。


「それじゃあ行きましょうか」

 藍音さんと香澄さんが荷車を引き俺達は兵舎を目指した。






「お話は伯爵から伺っております。

 引き渡しの準備は出来ていますので、しばしお待ちください。

 不埒者どもは、その荷台にくくりつければよろしいのでしょうか?」

「ええ、お願いします」

 香澄さんが受け取りのサインを羊皮紙に書き込むと、対応してくれた兵士は留置所へと消え、すぐに戸板に乗せられたミイラ男状態の4人をつれてもどってきた。

 4人ともうんうんうなっているので生きていることは間違いないが、しゃべることもままならないらしく言葉になっていない。

 回復職の女も、無詠唱では魔法を発動できないらしい。

 俺とカオリの絶妙の半殺し加減で、やられて2日が経っているが、未だに会話できるほどには回復できていないのだ。

 視界もまぶたが腫れ上がって極端に悪くなっているのだろう。

 引き取りに来た俺達が誰かも判別できていないようだ。


 兵士達の手によって4人仲良く荷車にくくりつけられた勇者とビッチ娘達は、正直誰が誰か分からない。全員包帯人間で性別不明なのだ。


「それでは、確かにお渡ししました」

「ありがとうございます。

 ご迷惑をおかけしました」

 俺達は礼を言うと、4人で荷車を囲う様に配置し、目立たない路地裏を目指した。

 もちろん、積み荷が分からない様に購入した布を4人の包帯人間にかぶせている。

 目立たない方向へとどんどん進み、薄暗い路地裏に入ったところで藍音さんがテレポーテーションを発動し、計画どおりベヒモス沼の拠点へと引き返した。






「さて、治療と封印とどちらを先にする」

「それはもちろん封印で」

 俺の質問に間髪入れず香澄さんが返答する。


「回復を先にして下手に暴れられると困るからね」

「了解した」

 俺は早速4人を次々に鑑定し、それぞれ14にまで上がっていたレベルを厳重に封印した。







ブックマークしていただいた方ありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。

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