第89話 能力の検証 (主人公トキヒロ視点)
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
エルンスト伯爵の邸宅から空間移動した俺達は、今、香澄さん達が作ったというベヒモス生息地横の拠点にいるらしい。
夕闇に閉ざされた窓越しの景色は漆黒の闇に包まれており、折からの天候故か星は確認できない。
「今、藍音さんが使った能力は、俺が香澄さんからコピーした空間転移と明らかに違うと思うが、説明願えるだろうか。
実は、俺の複製能力でも、今の瞬間移動はコピーできていない」
俺は自分のスキルボードを確認しながら質問する。
「私が使ったのは、以前召喚された世界で使えるようになったテレポーテーションよ。
超能力、ESPに分類される能力で、この世界のスキルボードには表示されないわ」
藍音さんの答えは俺の想像を超えていた。
ファンタジーの世界にSF世界の能力を持って召喚されて来たということなのか。
俺が聞くと藍音さんは苦笑いしながら
「そういういことになるわね」と答えてくれた。
「私と香澄ちゃんが召喚されていた世界では、この超能力を魔法と認識していたみたいだけど、魔法にしてはおかしいところも多かったのよ。
火魔法は何もないところに火球を発生させたり出来ないし、むしろパイロキネシスと考えた方がしっくりくるような能力だったの。
風魔法はサイコキネシスで空気に働きかけているイメージね」
「それじゃあ、香澄先生や藍音さんが使っていたブラックホールは何なのですか」
カオリが我慢しきれず質問すると香澄さんが答える。
「あれはサイコキネシスで空間そのものを歪めて作る感じね」
なるほど、俺達の魔法とは根本的に異なる性質の能力だ。
「だから魔方陣がなかったのね」
カオリにつぶやきに同意しながら、俺も続ける。
「複写能力でコピーできなかったこともそれが原因だろう」
俺達は取りあえず客間の椅子に腰を落ち着け、今後のことについて相談しようとしたところで、香澄さんが突然立ち上がり、角度90°の最敬礼を俺に向かってしてきた。
「まずは謝らせてください。ごめんなさい!」
「どういうことだ?」
全く理由が分からず俺は尋ねる。
「トキヒロ君を私たちのクラス召喚に巻き込んでしまったのは私の能力です。
ごめんなさい」
それは衝撃の告白だった。
「詳しく聞いてもいいかな。まあ、取りあえず頭を上げてくれ」
俺の言葉に、姿勢をもどして椅子にかけ直した香澄さんが話す。
「私たちのクラスに突然魔方陣が現れて召喚されたとき、何とか召喚を防ごうと思って、ありったけの力を込めて、サイコキネシスで魔方陣を吹き飛ばそうとしたのよ。
結果、魔方陣は吹き飛ぶと言うより分裂して、私たちの召喚はそのまま行われ、分裂した魔方陣が別世界でちょうど戦いの決着がついたトキヒロ君の背中に張り付いて、トキヒロ君も召喚されてしまったの。
でも、私と藍音ちゃんで何とか元の世界に帰る方法を見つけるから」
なるほど、ちょうど魔王を倒したタイミングで俺が召喚されたのは、香澄さんの超能力と偶然の産物だったというわけだ。
「事情は分かった。
基本的には不可抗力だったことも分かったし、諸悪の根源は元の召喚術を起動したこの国の王家にあることは変わらない。
それよりも、今後の方針について聞きたい。
さきほど伯爵邸で日本に帰る方法があると言うことだったが、それはどういうことだ」
俺の質問に香澄さんが答える。
「まず、あなた一人なら自分の世界に帰ることが出来ると言ったのは、私の空間転移能力を使えば可能だからよ。
あなたも複写すれば、自分の世界に帰ることが出来ると思うわ。
ただし、そのときは、装備など全て、衣服も含めてこっちに置いておくことになるでしょうけどね。
もう一つは、藍音ちゃんのスキルの位相操作を使う方法ね。
こちらが上手く行けば荷物も移動可能よ。
今から藍音ちゃんにスキルを使ってもらうから、複写して使ってみるといいわ」
なんと、空間転移は世界を跨いだ転移も可能と言うことのようだ。
その際、剣や空間魔法の付与されたバックなどは持って行けないのが痛い。
まずは藍音さんの能力をコピーできるかだが、ここで疑問が生じる。
ESP同様に、俺にはコピーできないのではないだろうか。
俺が質問すると、香澄さんが即答した。
「藍音ちゃんの位相操作はこの世界に召喚されたときに獲得した能力よ。
私の空間転移が複写できたのなら、位相操作も複写できる可能性が高いわね」
なるほど、納得した。
位相操作は超能力枠ではないらしい。
俺は早速、藍音さんにその能力を使ってもらうことにした。
「いい、今から私が地球に帰る方法を見つけたときのやり方を再現するわね。
まずは、位相操作のスキルを意識して、この空間と別世界の空間をつなぐの。
このとき、現時空の宇宙定数と近い数値を持つ宇宙空間を意識することが大切ね」
そう言うと、藍音さんの前に黒い平面が出現し、やがてその黒い部分が草原の景観に変わる。
「召喚されたときの状況から、この世界と地球世界はかなり近いところに存在する世界だと思われるのよ。
当然その途中で巻き込まれたトキヒロ君のいた世界も、近い世界だと思うわ」
そう言っている間にも、草原の景色は海洋、山脈、農村と切り替わり、最後に東京スカイツリーの見える景色に変わった。
「後はこの空間に飛び込めば別の世界に移動できるわ。
もっとも、私はなれちゃったから、テレポーテーションと同時に発動して移動しているけどね。
さあ、やってみて」
俺は藍音さんに促されて、早速今見た位相操作をコピーし、使用枠へセットすると使ってみる。
結果は……、ダメだった。
藍音さんが作った空間に浮かぶ黒いゲートを出現させようとした段階で、頭がくらくらしてきて、立っていられなくなった。
魔力不足である。
「私がトキヒロ君の世界をイメージできれば、私の位相操作で世界をつなげられると思うんだけど……
行ったことがない世界につなぐのははっきり言って危険だわね。
よく似た別世界につながる可能性の方が高いと思うわ」
藍音さんが申し訳なさそうに言う。
続いて空間転移を試そうとしたが、既に魔力が残り少なく、一晩寝て次の日に試すことになった。
後で鑑定させてもらって分かったが、藍音さんや香澄さんは力や速さなどの能力が俺やカオリの15~25倍と恐ろしく高い。
しかしその中でも群を抜いて高いのが魔力であり、その数値は指数表示になっており、俺達の何万倍高いのか、いや何兆倍、それ以上だろうか。想像もつかない。
藍音さんは翌日仕事があると言うことで、詳しい相談は次の日の夜にでもしようと決めその日は香澄さん達の拠点の客間を借りて就寝した。
客間には日本から持ち込んだと思われる布団が用意されており、久しぶりの快適さにぐっすりと眠ることが出来た。
それにしても、ベヒモスのような危険な魔獣が隣に巣くっているこの拠点に、しっかりと二部屋以上の客間を整備しているとは、一体誰が泊まりに来ると想定していたのだろう。
甚だ疑問である。
次回更新は未定です。
すいませんがしばらくお待ちください。




