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第88話 迷惑な訪問者 (主人公トキヒロ視点)


 香澄さんが伯爵とお肉について話しているときだった。

 外からどこかで聞いたような声が聞こえてきた。


「おい、あいつらがここにいることは分かっているんだ!

 出せ!」

「あいつらは国王軍が管理する。邪魔するな!」

 間違いない。

 パリスという軍人とマーリニアという魔術師長の声だ。


「嫌な奴の声が聞こえるわね……」

「香澄ちゃん何かあったの?」

「前に言ったでしょ。セクハラ軍人よ」

「ああ……」


 どうやら香澄さんも嫌な思いをしているようだ。


「ここは君たち後ろの小部屋へ隠れていなさい。

 何とか誤魔化してみるから」

 エルハンスト伯爵は奥のつなぎ部屋へと続く扉を開く。


「いざとなれば空間系の能力で瞬間にどうできますからご心配には及びませんよ」

 奥の部屋へ通されながら藍音さんがさらりと興味深いことを言う。


 この世界の空間転移のスキルは自分以外は移動できない。

 俺が試したときは装備はおろか衣服まで持って行けず、結果全裸だった。

 俺のの応力のコピー元となった香澄さんの空間転移も同じだろう。

 藍音さんの表現だと、まるで自分以外のスキルを持っていない人も一緒に移動できるように聞こえる。




 俺達は会談をしていた部屋の続きとなっている小部屋へ移動し、ことの成り行きを見守ることにする。


「どうやら物置用の小部屋みたいね」

「ああ、飾られていない調度品や椅子があるな」

 カオリの言葉に同意していると、藍音さんが小声で注意を促す。


「来るわよ。

 いざというときのためにみんな近くにいて」

 俺達は藍音さんの隣に移動し、息を潜めた。



 バタン ドン


 ドアが乱暴に開けられ、勢い余って壁にぶつかったような音がする。

「ここにいたか、エルハンスト伯。

 決勝に出ていた冒険者はどこだ。

 貴様が両チームを館に招いたことは調べがついているんだ」

 男の怒鳴り声がする。


「パリスの声ね」

 香澄さんが嫌そうに呟く。



「彼らに何のようですかな」

 エルハンスト伯爵はこのような自体にもかかわらず落ち着いた口調だ。


「奴らは王国軍に組み込むことになった。

 隠し立てするとためにならんぞ、伯爵」

 別の男の声ががなり立てる。こちらがマーリニア魔術師長の声だ。


 それにしても、召喚の間以来の声だが、相変わらず人をいらつかせる声だ。


「それは、それは……。

 一足遅かったようですな。残念でした」

 伯爵の返答にマーリニアが色めき立ってまくし立てる。


「何!

 それはどういう意味だ、伯爵」


「どうもこうも、4人とも晩餐が終わると早々に暇を告げて帰りましたな」

「嘘を言うな。

 先刻からこの館の周りは兵に見晴らせているが、誰も出てこなかったぞ」

 パリスは伯爵の言葉を信じていないようだ。


「それはいつ頃からですかな」

 伯爵は慌てることなく、のらりくらりと話をする。


「20分ほど前からだ。

 貴様の門兵が俺達を足止めしている間に逃がそうとしたのだろうが、裏門にも横門にも見張りをつけたからな。

 まだこの館にいるはずだ」

 パリスがまくし立てる。


「刃晩餐が終わりましたのは今から30分ほど前でしたからな。

 おおかた、行き違ったのでしょうな」

「そんなわけがあるか。

 ここに来る道すがら、それらしい冒険者どころか、ほとんど人とすれ違わなかったのだ」

「そうは言われましても、二チームとも仮面や着ぐるみで出場していましたから、普段の出で立ちですれ違われたら分からないかと思いますが」

 伯爵の反論に一瞬黙り込んだ闖入者達だったが、すぐにマーリニアが詰問する。


「それなら4人の容姿を行って見ろ」

「分かりました。

 仮面のチームは褐色の肌の美男美女でしたな。

 これは目元を、隠すマスクだけだったので、お二人もおわかりと思います。

 着ぐるみのチームは厳つい壮年の男性でしたね」

 伯爵は出来る範囲でおれたちの実像とは違う容姿を説明してくれた。


「ならば尚のこと、そのような者とはここに来る間全くすれ違わなかった。

 もういい!勝手に探させてもらうぞ」

「どけ」

 そう言い放つや二人は伯爵と小競り合いに入る。


 それにしてもいくら宮廷魔術師長や国軍の隊長でも、領主である伯爵にたいしてこの態度はいかがなものだろうと考えていると、藍音さんが小声で指示を出す。


「いよいよ切迫してきたみたいだから、移動するわよ。近寄って」

 香澄さんとカオリと俺が藍音さんを囲むようにぴったりと接近した瞬間、景色が変わった。


「ここは?」

 カオリが呟くと香澄さんが答えた。

「私たちが作ったこの世界での拠点よ」


 俺達は日本の応接間のような部屋に立っているのだった。







今回が今年最後の更新です。

一年間お世話になりました。

次回は年明けとなります。

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