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第76話 エルハンスト武術大会準決勝第二試合 (主人公トキヒロ視点)


『準決勝、第二試合、

 着ぐるみ冒険者チームとエルハンスト伯爵チームは入場してください。

 繰り返します。

 着ぐるみ冒険者チームとエルハンスト伯爵チームは入場してください』


 場内のアナウンスに続いて入場する両チームを、俺とカオリは観客席から見ている。

 エルハンスト伯爵のチームは蛟の装備で作った盾職2人と剣を中心に戦う剣士8人による構成だ。

 盾職の二人も一応帯剣はしているので、状況によっては攻撃に参加するつもりだろう。


 この構成は、対戦相手が二人組であることから、二人の盾職で動きを封じて、残りの八人で攻撃するという作戦だろう。

 準決勝で火魔法も風魔法も風魔法に見える攻撃で無効化して見せている着ぐるみたちに対して、魔法攻撃は念頭にないということだ。

 全身甲冑ということは、スピードでの勝負を避け、防御力をあげた状態で耐えながらの反撃中心。

 前の試合から導き出された最適解の一つだ。


 対するきぐるみチームは日本刀のような剣だけ装備し、後は素の着ぐるみである。

 ちなみに剣を鑑定して見たところ、『異世界の剣、素材は鉄とその他不明』とでた。

 どうやってかは不明だが、この世界に日本刀を持ち込んでいる可能性が高い。

 そうでなければ、この世界で日本刀を作るスキルを着ぐるみ達が持っていることになる。


 武闘台への道を歩いてゆっくりと進む両チームは歓声に包まれていた。

 先ほどとは違い、ブーイングは一切聞こえない。

 エルハンスト伯爵の人気も相当な物だが、見た目が可愛い着ぐるみチームも確実に観衆の心をとらえていると言うことだろう。


 今回は、このチームの指揮官として、伯爵本人も全身鎧を着込んで出場している。

 流石にこの大会を企画した領主と言うこともあり、自らの戦闘力にも相当な自信をお持ちのようだ。


「カオリ、どっちが勝つと思う」

「そんなの、聞くまでもないでしょ。

 エルハンスト伯爵達も一流の武人だとは思うけど、さっきの試合を見る限り着ぐるみ達が圧倒するわね。

 手を抜かなければだけど」

「そうだな。

 出来ればいくつか手の内をさらしてくれるといいんだが……」

「伯爵達に期待しましょう」

 俺とカオリが試合前の緊張感を楽しんでいると、場内アナウンスが流れる。


『ただ今から準決勝、第二試合、

 着ぐるみ冒険者チームとエルハンスト伯爵チームの試合を開始します。

 繰り返します。

 着ぐるみ冒険者チームとエルハンスト伯爵チームの試合を開始します。

 それでは、試合開始』


 アナウンスが終わると同時に伯爵チームが抜剣し、着ぐるみたちに向かってゆっくりと進んでいく。

 先ほどの彼らの試合から、風魔法と火魔法を遠距離から放つことが無駄だと判断しての行動だろう。


 ゆっくりと接近している10人の兵士は落ち着いており、着ぐるみを包囲するように布陣する。両方の端から二番目に位置している盾職が、他の8人よりやや先行しており、着ぐるみ二人を押さえる役割なのだろう。


 重装であることから、素早い動きには向かないが、防御力を誇示するかのような威圧感のある作戦だ。


 何にしても伯爵達のチームには、数の有利からの油断は感じられない。


「このまま、包囲させると思うか」

「私なら、二手に分かれて端から各個撃破ね」

 カオリの答えは俺の考えと一致する。

 そのとき着ぐるみが動いた。


「どうやら正解のようだぞ」


 半円状に広がった伯爵チームに対して着ぐるみ二体が左右に分かれる。


「伯爵達は予想していなかったようね」

「ああ、一瞬動きが止まったが、すぐ対応も出来ているみたいだな」


 その瞬間、左翼へ動いたクマの着ぐるみが通常の速度から少し加速して伯爵チームの認識をずらす。

 瞬間で一番左端にいた兵士に接近し、正面から鎧の腹部を殴りつけた。


 バコンッ!


 兵士は全く反応出来ず、盛大な音をたてて剣を握ったまま吹き飛ばされる

 いくら鎧が丈夫でも、中の人間はそうはいかない。

 殴られたときの衝撃と、地面に激突したときの衝撃に加え、重たい全身鎧のせいで一度倒れるとなかなか起き上がれないようだ。


 クマはすぐに次の兵士に正拳突きを放とうとするが、伯爵チームの端から二番目は盾職だ。

 盾を構え、その盾を突き出すことで着ぐるみの拳のインパクトの瞬間をずらして衝撃を緩和する。

「シールドバッシュね」

「ああ。

 正拳突きのもっとも威力が出る距離を潰し、逆に盾で殴りつけた。

 あの盾職、なかなかやるな」

「パンダの方も似たような展開ね」

 カオリの言葉に右翼を見ると、跳び蹴りを繰り出したパンダに対して右の盾職がシールドバッシュで迎撃していた。


 しかし、着ぐるみ達もさすがだ。

 クマの方はシールドバッシュに対して全く後方へ下がることなく次に斬りかかってきた剣士に対して日本刀もどきでその剣戟を受け流す。

 パンダの方は空中にいたため盾によって飛ばされるが、見事なバク宙を決め着地する。

 着ぐるみを着たままよくやると思う。


 後方へ飛んだパンダに対し、盾職が追撃せんとせまり、後ろから剣士が二人続く。


 そのときそれは起こった。


 パンダは右手に持っていた日本刀を両手で持ち、みずち仕様の盾に切りつけたのだ。

 螭の鱗で出来た盾は、本体が死んで魔力のコーティングがなくなっているとはいえ、俺やカオリの持つ伝説級の剣でも切り裂けなかった代物だ。

 その盾がきれいに両断されて地面に転がる。


 クマの方も、剣一本と盾を綺麗に切断していた。


「なんて切れ味なの……

 私が別世界で勇者をしていたときに手に入れた伝説の剣でも切れなかった螭の鱗を真っ二つにするなんて……」


「いや、切れ味だけじゃないと思うぞ。

 切り方がすごいんだ」


「どういうこと?」


「俺やカオリの剣は確かにそれぞれの世界の伝説級の武器で、硬度も鋭利さも最上級だ。

 しかし西洋型の諸刃剣であるが故に、その扱いはたたき切るというような振り方になる」


「そうね。

 確かに、重量を乗せて一気に切るような振りになるわね」


「ところが、あの二人の剣は日本刀の形状だ。

 刀のそりも理想的で、二人はまるで和包丁を使うときのように引き切る動作をしたんだ」


「そうか……

 確かに和包丁は引きながら切ると、スパッと綺麗に切れるわね」


「ああ、仮に硬度が同じだとしても、あの二人の振り抜き方の方が物を両断するのに最適化されているということだろうな」


 カオリと話しているうちにも刻々と状況は変わる。



「一旦距離を取れ!」


 エルハンスト伯爵が指示を出し、伯爵チームは一斉に下がる。


「戦術を変更する。

 あの着ぐるみ達の刀に重装は無意味だ。

 できる限りパーツを外して、動きと連携で対応する」

 伯爵の指示がかろうじて聞こえた。伯爵チームはがしゃがしゃと鎧を脱ぎ捨てていく。


 対する着ぐるみ二人は、着替え中の対戦相手を攻撃することなくじっと待っている。

 なかなか紳士的だ。


「カオリ、あの着ぐるみ二人はどっちが強いと思う?」


「正直二人とも本気を出していないみたいだから根拠のない予想にすぎないけど、同じくらいの強さじゃないかしら。

 時折見せる急激なスピードアップとか戦法も似ているしね。

 ヒロはどう見たの?」


「ああ、俺も同じ意見だ。

 ただ、二人の使う剣以外の技は少し違うように見えるな。

 クマの方は蹴りや打撃などがほとんどだが、パンダの方は流し方や投げ技なんかも混ざっている感じがする。

 どっちがカオリの先生かな?」


「そうね、ヒロの見方が正しいなら、クマの方がカスミ先生で、パンダの方が先生のお友達でしょうね」


「どうして?」


「カスミ先生は空手の有段者よ。

 打撃や蹴りがほとんどなら、そっちが空手使いでしょ」


「もし決勝で当たったら、どっちとやりたい」


「もちろん、先生とやってみたいわ。

 日本では全く感じなかった先生の本気を肌で感じてみたい」


「わかった。それじゃあ俺はパンダとやろう」


「ヒロ、試合が動くわ」


 カオリと話していると、伯爵チームの着替えが終わったようで、全員が鎧のインナーに胸部装甲のみという軽装になり、帯剣している。

 剣をおられた兵や盾職の兵も予備の剣に持ち替えたのだろう。10人の剣士対二体の着ぐるみという構図になっている。




「それでは、行くぞ!」

 エルハンスト伯爵の指示で、インナー姿の兵士10人が三人一組となって着ぐるみ達に駆け寄る。

 中央のパーティーの後ろに伯爵自らが位置し、指揮しやすい隊形取っている。


「2チームは茶色いクマへ、1チームは白黒のクマへ当たれ。

 相手は想像絶する武器とスピードを持っている。

 まずは一方を制圧せよ」


 どうやら、狙いをカオリの先生の方に定めているようだ。

 先ほどの5人ずつから、7人と3人に分かれ、パンダを3人で押さえている間にクマをかたづけるつもりのようだ。

 いい作戦だ。


 パンダを囲んだ兵三人は、巧みに連携しながらクマの方へパンダが近寄れないように攻撃と防御を繰り返す。


 クマに向かた7人はまず三人が正面から一斉に斬りかかり、残りの三人が背後を突こうと移動する。

 伯爵は正面の三人の右後方から隙を狙っている。


 正面の三人の上段からの、袈裟切り、逆袈裟、唐竹割りを回避と受け流しで接近しながらさばききり、右手をあけてまずは左端の兵士の脇腹に掌底しょうてい打ちをクマが放った。


 兵士一人が膝をついてその場に崩れた。


 後ろに回り込んだ三人は、クマが前方に移動したため攻撃のタイミングを完全に失っている。

 現状、クマの後方に3人、左斜め後ろに2人、そして正面にエルハンスト伯爵の一人。


 伯爵は、一人の兵士が崩れると同時に間髪入れず突きを放つが、クマは素早い動きで左斜め前方へ移動して回避する。

 振り向いたクマに対して、最初に攻撃してきた3人パーティーの残り2人が突撃した。

 クマは剣の腹で相手の小手を叩く。

 ベキッという嫌な音とともに兵士は剣を取り落としうずくまる。


 クマは続いてローキックで敵兵のすねを蹴る。

 喰らった兵士は倒れたまますねを押さえて起き上がらない。


 続いて後ろに回り込んでいた三人のうちの一人が詠唱を完成したらしく火炎のたまを放った。その火魔法と同時に二人がクマへ突撃する。


 するとクマは風魔法を発動して突風を起こし、敵兵の突撃を止めると同時に火炎球を上方にそらす。

 風の風圧か少しだけ二人の兵士が浮き上がり、自由が奪われたところでクマの剣の腹による一撃と掌底が決まった。

「まただわ。

 ヒロ、魔方陣は見えた?」

「いや、全く魔法は感知出来なかった」


 ここで、パンダの方も動きが出る。

 三位一体の攻撃を繰り返す兵士に対し、大きく側面に飛んで突風を叩きつけ、2人がバランスを崩したところに急接近し、バランスを崩さなかった1人と他の2人との間に攻撃のタイムラグを発生させることに成功する。


「どうやらこっちも同じ系統の魔法だな」

「ええ、魔方陣のない無詠唱魔法。

 やっかいね」


 果たしてこの会場の何人が、あの着ぐるみ達の魔法の異常性に気づいているのだろうかと考えていると決着がついた。

 クマが6人を倒しきったところで、パンダが3人を昏倒させ、伯爵の首元に刃を当てたのだ。


「まさかこれほどとは……。

 降参だ」


 ついにエルハンスト伯爵チームは自らの負けを受け入れた。

 最強と信じていた伯爵チームの敗北に観衆は静まりかえる。


 会場にアナウンスが流れる。

『準決勝、第二試合は着ぐるみ冒険者チームの勝利です。

 着ぐるみ冒険者チームと仮面冒険者チームの決勝戦は30分後におこなわれます。

 繰り返します。

 着ぐるみ冒険者チームと仮面冒険者チームの決勝戦は30分後におこなわれます』


 その瞬間、静寂に包まれていた会場に歓声を拍手が鳴り響く。

 伯爵達と着ぐるみたちとの健闘をたたえた歓声だ。


「行こうか、カオリ」

「ええ、いよいよ戦えるのね」


 俺とカオリは選手控え室へ向けて移動を始めた。







次回はプロットが固まっていませんので更新目標は二週後の週末です。

早く出来れば早めに投稿します。

お気づきの点があれば連絡お願いします。

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