第72話 準決勝第一試合後 (主人公トキヒロ視点)
シュリンガーの言葉で他の4人も納剣する。
会場はしばしの静寂に包まれる。
『勝者、仮面冒険者チーム』
『うぉーーー!』『きゃーーー!!』
俺たちの勝利がアナウンスされると会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
ここエルハンストでは王国チームの人気がなかったせいで、俺たちを応援してくれていた観客も多かったようだ。
俺とカオリは自力で歩けるシュリンガー達五人と会場を後にする。
俺はふと疑問に思って、すぐ隣を歩いている隊長のシュリンガーに話しかけた。
「シュリンガーさん。
まだやれたんじゃないんですか?
正直あのタイミングで棄権されるとは思いませんでした」
突然話しかけられたシュリンガーはちょっと驚いたような表情を浮かべる。
「どうして俺の名を?」
どうやら突然見ず知らずの俺たちから名前を呼ばれたことに驚いたようだ。
「前の試合を観戦していたときに、シュリンガーさんとパリスというもう一人の指揮官のことを隣で観戦していた男性に聞いたんです」
俺の説明に、シュリンガーは頷きながら答える。
「なるほど……
それで、あそこで棄権した理由だったかな。
正直、君たちの実力の底が見えなかったからだよ。
さっきの攻撃は俺たちの奥の手の一つだ。
しかし、それをああもあっさり無効化され、それでいてまだ全然本気になっていないのが手に取るように分かる。
こうまで実力が高い相手に会うのは初めてだ。
いや、底が見えないって点では、先日召喚された異世界人の引率者も同じか……」
「えっ」
この言葉にカオリが反応した。
最後に言っていた『引率者』というのは、状況から言って間違いなくカオリ達の先生のことだろう。
「その引率者の方はそんなに強いんですか?」
カオリが聞きたそうなことを先回りして俺が聞く。
「いや、強いとは思うが正直分からない。
彼女は俺たちの前では全然実力を出し切っていなかったし、ステータスそのものはそれほど強くないんだが、今の君たちと同じで、本当に実力の底が見えなかったんだ。
報告では、俺たちとの訓練の翌日に、パリス達とレベリングに行った先で強力な魔物に襲われて行方不明になったということで、死亡したと思われているが、俺はあの先生がそう簡単にやられるとは思えないんだ。
いや、すまん。君たちには関係ない話だったな」
「いえ、聞いたのはこちらですから。
もし本当に強い方なら、一度お手合わせ願いたいですね。
ありがとうございました」
俺たちは闘技場の端まで来たため、それぞれの控え室へ分かれて向かった。
「カオリ、さっき王国チームのシュリンガーが言っていたのって……」
「ええ、たぶん間違いないわ……
ヒロが思っている通り、私たちの担任の香澄先生のことね」
控え室に入るとすぐに、俺たちは先ほどのシュリンガーの言葉を元に相談する。
「お前達の先生って、そんなに強いのか?」
「空手をやっているとは言っていたけど、日本にいたときはそれほどの強さとは思わなかったわ。
日本人の中では強い方でしょうけど、人間離れした体力や力はなかったと思う」
カオリの見立てがそうそう間違うとも思えない。
だとすれば、彼女の先生は、日本では普通の一般人だということになる。
「ということは、召喚されたときのスキルか?」
「ええ、若しくは私たちみたいに実力を隠していたかね」
「どうしてそう思う?」
「突然目覚めた力を使いこなしているにしては自然すぎると感じたからかしら」
俺は召喚によって付与されたスキルで彼女の担任が強化された可能性を疑うが、カオリは隠蔽していた筋の方を予想した。
何にしても、『行方不明の先生』『しかも、実力を隠している』『闘技場に現れた日本製の着ぐるみ』、これらの条件から導かれる答えは……
「そうすると、あのぬいぐるみの中身は……」
「どちらか一方はカスミ先生かも知れないわね」
俺がその可能性を指摘すると、カオリはあっさりと同意した。
「だとすると、決勝に勝ち上がってくれば次に当たることになる。
いいのか?」
「もし、シュリンガーさんが言っていた通り、カスミ先生がとんでもない強さを隠していたとしたら、実際お手合わせ願ってどれくらいのものか確かめるチャンスよね。
それに、もしぬいぐるみの中身が別の誰かでも、その強さは本物だと思うわ。
私は中身が何であれ、あの二人組とは戦ってみたいと思うわ」
「そうか、安心した。
俺も是非戦ってみたいと思っていたところさ」
ここまで話してから俺たちは、決勝で俺たちが当たることになるであろう着ぐるみチームと、螭の装備で武装したエルハンスト伯爵のチームの準決勝を見るため、仮面をはずして観客席へと急いだ。
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