第71話 エルハンスト武術大会準決勝第一試合 (主人公トキヒロ視点)
『準決勝、第一試合。
仮面冒険者チーム、王都騎士団チームは入場してください。
繰り返します。
準決勝、第一試合。
仮面冒険者チーム、王都騎士団チームは入場してください』
会場に俺たちの試合の呼び出しがアナウンスされる。
俺とカオリは偽装で肌や髪の色を変え、仮面を装着すると、選手控え室から武闘台へと向かう。
武闘台への通路は満員の観客からの歓声や応援の声に溢れている。
俺たちの入場が終わると、続いて王都騎士団チームが入場するが、俺たちの入場のときと違い、歓声に混じってブーイングの声も聞こえる。
というか、応援の声がほとんど聞こえない。
王都の騎士団チームは、日頃の悪政がたたってか、ここエルハンストの町では人気がないようだ。
『それでは……、
準決勝第一試合始め!』
開始のアナウンスが流れると同時に、敵チームは5人ずつに分かれた。
どうやら先ほどの試合での連携のまずさから、パリス引きいる5人とシュリンガー率いる5人に分かれて戦うようだ。
俺の方にはシュリンガー達が、カオリの方にはパリス達が囲むように陣形を敷くが、俺たち二人が左右にぴったりと並んでいるので、結局騎士団チームは10人で俺たちを円形に取り囲んでいるようになる。
俺が構える右側には、シュリンガー達5人が半円を描いて抜剣し、カオリの方の左側にはパリスたちが半円を描いている。
「へっへっへ、姉ちゃん、おとなしくしていれば俺たちが直ぐに気持ちよくしてやるからな」
「ぐへっぐへっ」「いいおっぱいしているな姉ちゃん」
パリス達5人は先ほどの俺たちの試合を見ていなかったのだろうか。
明らかに格上のはずのカオリに対して醜い欲望をむき出しにしている。
ゲスなにやけた表情で剣も抜かずにカオリを欲望の対象にしている様は見ているだけでむかつく。
「正直心外だわ。
はっきり言って触るのも視界にいれるのも嫌な連中ね」
カオリが吐き捨てるようにいう。
「それじゃあ、とりあえず俺がかたづけようか」
「お願いするわ」
俺の提案にカオリはすぐ同意する。
「残りのマシな方だが、この国の剣技になれておきたいから、瞬殺しないようにしてくれないか」
「分かった。
適当に足止めするわ」
簡単な打ち合わせを終え、俺はカオリの側に並んでいるパリス達5人へ向けてダッシュする。
ステータス差から、奴らは俺の動きに全くついて来れていない。
「なっ、こいつらも瞬間移動だと……!?」
「転移魔法なら本体だけのはずだ。何で服ごと瞬間移動出来る?」
パリスは先ほどの着ぐるみ達の試合も見ていたのだろう。
俺の動きを空間魔法の転移と勘違いしているが、着衣のまま移動した俺たちを訝しむくらいの冷静さは持っているらしい。
「バカ野郎!
パリス、そいつはただ単に目にもとまらぬ素早さで移動しただけだ。
気をつけろ!」
シュリンガーがパリスへ警告するが、わざわざ敵の準備が整うのを待ってやるほど、俺は親切ではない。
口をあんぐりと開けて惚けているパリスの顎に一撃を入れると、パリスは50cmほど宙に浮き、そのまま白目をむいて仰向けに倒れ込んだ。
きっと後頭部を強打していることだろう。
隊長がやられたことで、残りのパリス組4人も硬直する。
もちろん正気に返るのを待つ俺ではない。
まずは、カオリを見てよだれを垂らしていた奴の鳩尾に掌底をたたき込み、場外へと吹き飛ばす。
顔を狙わなかったのは奴のよだれに触りたくなかったからだ。
吹き飛ばされた男は空中で意識が無かったのあろう。受け身も取らずに背中から地面へ落ちた。
後、三人。
後ろへ回り込み首筋へ手刀をたたき込んでまず一人。
仲間が突然前へと崩れるのを理解出来ずに見つめている残りの二人にも後ろからの一撃で意識を刈り取る。
騎士団チームの半数は、開始1分を待たずに全滅した。
最も、かかった時間の大半は、奴らが俺たちを包囲するのに使った時間であり、俺が攻撃した時間は10秒にも満たない。
「奴ら、予想以上に出来るぞ!
油断するな」
残り5人の隊長であるシュリンガーが、大声で部下に注意喚起する。
シュリンガー達は二人と三人に別れる。
隊長であるシュリンガーがもう一人の部下と一緒に俺へあたり、残り三人の部下がカオリへと剣戟を加える。
シュリンガーの剣筋は洗練されたものだった。
流れるように舞うかと思えば力強い一撃を上段から見舞う。
部下との連携も素晴らしく、技量の落ちる(といってもパリス達より遙かに格上な)部下の攻撃も上手く使いながら、間断なくせめてくる。
正直、ステータスが同じくらいであれば負けていただろう。
しかし、彼我の戦力差は桁が違うのだ。
じっくりと剣筋を確かめながらぎりぎりで躱し続け、王国騎士団の剣術をこの目に焼き付ける。
シュリンガーの影から死角を狙って放たれるもう一人の兵の突きも非常に合理的で勉強になる。連携は俺たち以上に洗練されている。
正直召喚前の勇者パーティーと言われた仲間達とでも、これだけ息のあった連携は出来なかっただろう。
カオリの方を見ると、そちらの連携も素晴らしく、将に三位一体と言えるほどの攻撃を見せている。
もっとも、カオリも俺と一緒で、しっかりと見ながら紙一重できれいに躱しているのでかすり傷一つ追っていないのだが……。
「こいつら、いったいどれだけなんだ。
こうなったら仕方ない。あれをやるぞ」
シュリンガーの号令で5人の騎士は一斉に俺たち二人の間に入り、一人の兵士を囲む形で守りながら、残り4人で俺たちに攻撃を加え続ける。
中央で守られている兵士は静かに目をつぶって、ぶつぶつとなにやら唱えている。
「これは……
魔法が来るぞ!」
俺がカオリに聞こえるように警告するとその直後に、王国チームの周りに竜巻が発生するのが見えた。
竜巻は徐々に半径を広げながら俺たちに迫る。
反対向きに風魔法を打てば相殺出来るが、この世界では複数属性持ちはいないことになっており、俺もカオリも一試合目で雷魔法を披露してしまっている。
「チッ、仕方ない。
剣技でしのぐぞ」
俺はカオリに向かって叫ぶ。
「分かったわ。
タイミングを合わせて竜巻の外周部に反対方向の剣技を飛ばすわよ」
竜巻の風きり音に邪魔されながらも、何とかカオリの返事が聞き取れる。
「了解!
カウントするぞ!!
3、2、1……
今だ!!」
「飛空斬!」
「エアースラッシュ!!」
俺とカオリの剣閃が、竜巻の両側から竜巻側部を切断する。
右端と左端の渦巻きを切断された竜巻は、三つに分かれると同時に空気中へ霧散した。
「なっ、バカな!
剣戟で竜巻を切断するとは……」
竜巻のベールを剥がされた5人の王国兵は呆然としている。
もういいだろう。
そろそろ決着をつけようと思っていると、隊長のシュリンガーが納剣した。
「参った。降参だ」
まさかの途中棄権だった。
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