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第66話 カスミ先生、報告する   (カスミ視点)


 巨大な荷車に過積載かと言うほどの荷物を載せて帰還した私たちは、予想もしなかった喧騒に包まれる。

「おい、あれってアースドラゴンじゃないか!?」

「それも上位種まで混ざっているぞ…」

「いや、それよりあの大きな魔物だ。

 あれは間違いなくギガホーンボアだぞ」

「魔物に挟まれてよく見えないが、簀巻きにされているのはA級指名手配のグルガン一味じゃないか?」

「ばかな…。

 A級冒険者10人でも返り討ちにされた盗賊団だぞ…」


 道の両脇に集まった民衆から、なにやら不穏な言葉が聞こえてくる。

「ねえ、藍音ちゃん……、

 もしかして、私たちやらかしてない……」

「そうだね、香澄ちゃん。

 悪い予感しかしないよね……」


 私たちはおそるおそる、捕まえた盗賊と、魔物の素材を冒険者ギルドに持ち込んだ。




 私は、藍音ちゃんに荷物番を頼み、受付窓口へと報告しに行く。

 例によって受付は閑散としており、夕方だというのに報告の列はない。


 私は受付嬢に声をかける。

「依頼の報告と終了確認に来ました」

「あ、お帰りなさい。

 それでは、どちらの依頼が完了しましたか?」

「はい?

 どちらと言いますと??」

 受付嬢の言葉に思わず聞き返してしまった。


「香澄様と藍音様は、本日『畑を荒らす魔物の討伐』と『街道の魔物の討伐』を引き受けられています。

 そのうちどちらが終了しましたか?」


 なるほど、二つ引き受けた内の一方しか終わらなかったと判断されたらしい。

 状況を把握した私は、落ち着いて説明する。

「もちろん、両方とも終わりました。

 討伐した魔物とついでに襲ってきた盗賊を荷車に乗せてギルドの前に持ってきていますので、確認と報酬の支払いをお願いします」


「はいっ???

 両方?????」

 今度は受付嬢が聞き返す番だった。


「はい、両方完了しました」

「よく、すんなり討伐出来ましたね。

 警戒してなかなか現れないことも多いのですが……」

 訝しがる受付嬢はカウンターから出てきて私と一緒に荷車に向かう。


 ギルドの扉をくぐると、荷車の周りは見物の野次馬で賑わっており、藍音ちゃんが獲物に悪さをされないか警戒している。


 受付嬢はというと、ギルドの扉を一歩出たところでフリーズしていた。

「あの……、完了確認、お願い出来ますか?」

 私が声をかけると、受付嬢が再起動する。


「アースドラゴンとギガホーンボア……。

 あれが、いたのですか……」

 まだ少し呆然としているようだ。

「イノシシが畑で、トカゲが街道ですね」


「それにあの盗賊は確か領地軍から依頼が出ていたAランク盗賊団のはず……。

 お二人は想像以上に腕が立つのですね……」


 こちらとしてはそれほど苦労していないのだが、なぜかとても感心されてしまった。




 結局、盗賊の引き渡しや素材の鑑定に時間がかかると言うことで、先にギルドお勧めのレストランで食事を取ってきて欲しいと言うことになり、私と藍音ちゃんは教えられてレストランに行くと、そこで思わぬ歓待を受けた。

 ギルドマスターと称する初老の男性が先に来て待っており、個室に通されてものすごいごちそうを振る舞われる。

 支払いが気になり聞いてみると、全部ギルドの驕りだという。

 なぜ?

 疑問は尽きないが、お腹も減っていたので遠慮無くいただく。

 サムソンを名乗ったギルドマスターも私たちと一緒に食事を取ったが、この人が一番たくさん食べていた。


 食後の歓談で、私たちが持ち込んだ魔物の素材がギルドにも大きな利益を落とすことになるので、夕食がギルド持ちになったと言うことが分かった。

 しつこいくらい、この街のギルドへの登録を勧誘されたが、長居するつもりのない私たちは丁重にお断りする。


 サムソンさんは残念そうだったが、香織さん達の情報が手に入る3日後までは討伐に協力することで納得してもらった。

 といっても、藍音ちゃんは仕事があるので明日の月曜日から日本に帰るのだが……。



「申し訳ありません」

 食事を終えてギルドに戻ると、開口一番受付嬢が謝罪してきた。

「何でしょう?」

 謝罪の意味が分からない私が聞き返す。


「実は素材の査定額が大きすぎて、即金で用意出来ていません。

 3日後までには何とかしますので、どうかご容赦下さい」

 そんなに高い素材だったのだろうか。

 それとも、閑散としたギルドだから、それほど現金のストックがないのだろうか。


 そんなことを考えていると、私たちの目の前にずしりとした布袋が積み上げ始められた。

「本日用意出来るのはこの3億ゼニーだけです。

 残りの8億ゼニーは3日後です。

 それと、盗賊団の報奨金5億ゼニーは明日以降軍から支払われるそうです」


 思わぬ大金だった。

 イノシシとトカゲ万歳!!

 盗賊団も15人で5億ということは、1人あたり3333万3333ゼニー……。

 割り切れない。

 受付嬢に聞くとグルガン一味の下っ端が1人1000万で10人、魔法使いや中堅幹部が1人5000万で4人、首領のグルガンが2億で合計5億になるそうだ。

 流石異世界。懸賞金の額も日本とは桁違いだ。




 結局、宿では留守中物騒なので、藍音ちゃんに頼んで今日もらった3億ゼニー分の金貨は日本にお持ち帰りしてもらった。

 残りは水曜日には手に入る予定なので、寄る仕事が終わったら取りに来てもらうことにした。

 それにしても日本で素材の金として売っても大もうけ出来そうだ。


 私たちはこの日の成果に満足して、宿へと向かった。






 翌日からは私一人で出来る討伐を適当にこなしながら、香織さんの情報も聞き込む。

 残念ながら、似たような目撃情報は数件あったが、全て人違いだった。

 そして3日後、日本時間では水曜日の夕方、未払いのお金を受け取りつつ、ギルドの調査結果を聞いたが、香織さんはこの街にいないことが分かっただけだった。


 お金を日本に運ぶために来てくれた藍音ちゃんと今後の方針を話し合う。

 

「とりあえず、明日から、この街から西へ戻る方向に移動しながら情報を集めてみることにするわ」

 私の言葉に藍音ちゃんは頷きながら続ける。

「そうね。私もそれがいいと思うわ。

 情報が出てくる町まで戻って、そこからどっちへ方向転換したか聞き込むのがいいでしょうね。

 週末には私もまた手伝いに来るわね」

「お願い。

 金曜日の夜にベヒモス沼の拠点で合流ってことでいいかしら」

「それで行きましょう」


 翌日、私は国境の町を後にし、西の方向へもどるのだった。







読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク、評価いただいた方、ありがとうございました。

次回更新は未定です。

構想としては徐々にヒロとカオリに近づいていく予定です。

よろしくお願いします。

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