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第61話 カスミ先生、逃げ出す(カスミ視点)


「よーっし、この辺りでいいだろう。

 勇者達はレベルアップの魔物狩りを開始せよ。

 なぁに、危うくなれば俺たちが助けてやるから、こっちに逃げてくればいいからな」

 パリス中隊長は生徒達を狩りに赴かせると、私の方へ向き直る。

「さて、ここからは大人のお楽しみタイムだ。

 お前にはこれからたっぷりご奉仕してもらおうか」

 言ってることもゲスなら、目つきも顔つきもいやらしい。


 手をワキワキさせながら近づいてくる4人のエロ兵士達は、とても気色が悪く、見るに堪えない。

 これはもう、彼らには自分たちが圧倒的弱者であることを理解してもらうしかないかと思っていると、遠くから地響きのような音がして、遙か彼方に土煙が舞い上がっているのを確認した。


 ナイスタイミングだ、藍音ちゃん。

 私は早速パリス中隊長に報告してあげる。組織の運営には、ホウレンソウは欠かせない。

「パリス隊長、盛り上がっているところに悪いのですが、隊長の後方の草原から何かが近づいてきているように見えるのですが……」

 私はゆびしながらそちらを見るように促す。


「何を今更、見え透いた嘘をいいおって。

 すぐに俺様なしではいられないようにしてやるから、ありがたく観念しろ」

 どうやら、私の警告を無視して自らの欲望に全力投球するつもりらしい。


 にじり寄る隊長に対してじりじり後退する私。

 私を逃すまいと部下の一人が私の後ろに回り込んだとき、ようやくその部下が異変に気づく。

 土煙がものすごい勢いで近づいており、地響きもするのだから、むしろ気がつかない方が鈍感すぎるくらいだ。


「たっ、隊長!

 この女の言っていることは本当です。

 巨大な何かが向かって来ています」


 残りの護衛兵が振り向くのとほぼ同時に、魔物を誘導してきた藍音ちゃんが、ものすごい勢いで低空を滑空して私たちを行きすぎる。


 音速は超えていないが、あまりのスピードに、私以外の人間には視認出来ないだろう。


 そして、そのすぐ後ろを、二日ぶりに見かける巨大なカバの魔物『ベヒモス』が、前回の三倍の物量で突撃してきた。といっても、単純に3匹いるだけなのだが。


 藍音ちゃん……。

 いくら何でもベヒモス3匹はやり過ぎでは……。

 こっちの世界の一般人にはオーバーキルな戦力である。

 

 心の中で呟きながら、私は最後の警告を発する。

「あの……、逃げた方がよろしいのではありませんか……」


「総員退避ーーーーー!!!」

 悲痛な絶叫を上げながらパリス中隊は壊滅的逃走を開始する。


 こいつらが踏みつぶされようが食われようが知ったことではないのだが、私が安心して行方不明になるためには証人が必要だ。


 私はベヒモス達の正面をぎりぎりつかまらないくらいのスピードでゆっくりと逃げ、隊長達と距離をあけていく。

 ある程度離れたところでレビテーションを発動して低空を滑空する。

 すぐに藍音ちゃんが合流してきた。

「ヤッホー!香澄ちゃん元気ーーー」

「いや、それは元気だけど、あれはやり過ぎじゃない?」

「えっ、おっきなカバさんが3匹だけよ。

 あれくらい大丈夫じゃないの???」

 藍音ちゃんはことの重大さが分かっていないようなので説明する。


「藍音ちゃん、あれはカバじゃなくてベヒモスっていう昨日話したS級の魔物なのよ。

 それが3匹いれば、この世界の基準で言うと町が滅びかねないくらいの災厄と言うことよ」

「あの程度で…………」

 藍音ちゃんはしばし呆然とする。

「でも、あれのお肉はとても美味しいから、十分人気がないところまで誘導したらさばいてお肉にしましょう」

 私が声をかけると、藍音ちゃんは何か思い出したようで、小声で呟く。


「そうか……、あれが今朝の串焼きのお肉か……。

 香澄ちゃん、あのお肉は最高よ!!

 一匹残らず刈り尽くすわよ」

 俄然やる気を出したようだ。


 私たちはレビテーションでベヒモス達を再び森の方へ誘導し、人が入り込まない森の深部まで来ると3匹の巨大カバを仕留めにかかる。


「これくらい森に入り込めば、誰かに見られることもないでしょう。

 やるわよ、香澄ちゃん」

「了解!」


 私たちは木をなぎ倒しながら私たちを追ってくる3匹に正対し、正面から剣を構えると、一番近い先頭のベヒモスをサイコキネシスで急停止させる。

 如何に巨大な質量でも私たちの魔力量の前には綿毛同然だ。

 わずかに持ち上げられたベヒモスは足をじたばたとしてもがくが、地面から浮いているので全く進まない。

 そのまま180°回頭させて後ろから突っ込んでくる残りの二頭と正面衝突させてみた。


 ドッカーーーーン


 ものすごい音がし、周囲の木々や土を巻き上げて視界が閉ざされる。

 次の瞬間には巻き上げられた木や岩の残骸が降り注ぐ。


 自体が落ち着くと、ひっくり返って足をヒクヒク痙攣させている3体のベヒモスが転がっていた。


 私たちは容赦なく頸動脈を切断し血抜きする。

 そのままでは完全に血抜きしにくいので、サイコキネシスで逆さに宙づりする。

 美味しいお肉のためには、血抜きは必須だ。


 倒すのにかかった時間より血抜きにかかった時間が長くなるのはいつものことだったが、30分もすると無事に血抜きが終わり解体は終了する。


 今回は藍音ちゃんがいるので、テレポートで移動出来る分色々便利だ。

 とりあえず一番美味しそうなところを冷蔵庫に入る程度切り取って、今日のお昼に日本へお持ち帰りしてステーキにすることにした。


 残りはニクニク亭へ持ち込みだ。

 藍音ちゃんと一旦町へテレポートし、空間魔法付き収納袋を購入して、全てをニクニク亭に持ち込んだ。

「これで1ヶ月はベヒモス肉を供給出来る!」

 ニックさんは大喜びだ。

「また取れたら、持ってきてくれ。

 でも、肉貯蔵庫の空きが少なくなってきたから、出来れば2~3週間後にしてくれ」


 いや、そんなに都合よく取れるとは思えないのだが……。

 私たちは、笑ってその場を誤魔化した。


ご愛読ありがとうございます。

ブックマーク、評価いただいた方、ありがとうございました。

勢いで新連載を始めてしまい、ただでさえ遅い執筆速度が更に遅くなり、ご迷惑をおかけします。

今後もよろしくお願いします。

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