第58話 カスミ先生、イカ尽くしで会議する(カスミ視点)
王都に帰り着いたのは日が傾きはじめた夕暮れ時だった。
私はシュリンガーさん達と別れると、一旦町の方へ寄ってから城へ戻ることを伝える。
ベヒモスの肉の売れ行きが気になったのだ。
「ニックさん、こんにちは。
お肉の評判はどうですか?」
私がニクニク亭を訪ねると、ちょうど店じまいしていたニックさんは満面の笑みで迎えてくれた。
「おう、あんたかい。
ベヒモス肉は最高だ!
午前中に買っていった連中があまりの旨さに午後にも買いに来て、今日の予定分は午後の早い時間になくなったよ。
100グラム2000ゼニーで売っているが、この調子ならもう少し高くても売り切れるな。
出来たらまた取ってきて欲しいくらいだ」
どうやらベヒモス肉は好評のようでニックさんのテンションは高い。
「はあ、そう言われましても、あのベヒモスは偶然森の外に出てきていたので何とか狩れたんです。
他の個体がどこにいるのかはもちろん、他にもいるかどうかも分からないんです」
「あはは、冗談だよ。
あんな災厄級の化け物がそんなにうようよしていないことは分かっているさ。
それより、昨日の未払い分を今日の売り上げからいくらか渡しておこう」
ニックさんはそう言うと金貨で10万ゼニー分を渡してきた。
「昨日と言い、お店の資金は大丈夫なんですか」
私が心配して聞くと、何でもないという風に左手を振りながらニックさんは答える。
「今日のベヒモス肉はとりあえず20kg分売り切った。売り上げにして40万ゼニーだ。
その内の10万ゼニーだから、俺の利益も十分出ているよ。
明日からは他の店舗でも販売を始めるが、なんと言っても大物だったからしばらくは売り続けることが出来るはずさ」
そういうことなら遠慮なくもらっておこう。
私が礼を言って暇を告げると、ニックさんは出来れば毎日少しずつでも支払いたいから、明日も寄って欲しいという。
私はできる限り善処すると告げ、王城に向かった。
夕食のあとは日本での作戦会議だ。
今日は北海道の函館に移動し、いかづくしの夕食をいただきながら作戦会議だ。
とれたてのイカ刺しは歯ごたえ十分で、いか独特の甘みが口いっぱいに広がる。
イカ天、イカフライ、イカの煮付け、イカめし。
やはり素材が新しいと旨さが一際だ。
イカ刺し松前漬けを熱々のご飯にのせて食べると思わずにんまりしてしまう。
イカを堪能しながら現在の状況や物色される部屋のこと等を私から相談し、日本でのこの事件の動きを藍音ちゃんがつかんだ範囲で説明してもらう。
「ねえ、香澄ちゃん。
ステータスはどうなってる」
今後の方針を話していて、話題が切れたときに藍音ちゃんが聞いてきた。
「ステータス?
相変わらずレベル1だよ」
私が答えるとあきれたように藍音ちゃんが指摘してきた。
「レベルじゃなくて、ステータスの数値のことよ。
ステータス画面で確認している?」
いや、確認も何も、レベル1のままだからそこから下はあまり頓着していないのだが、と私が思っていると、藍音ちゃんが突っ込んできた。
「香澄ちゃんのことだから、レベルから下を見ていないんじゃない?」
「うっ……
ご指摘の通りです」
私が白状すると藍音ちゃんはすぐにステータスを確認するようにいう。
「ステータス」
私がつぶやくと目の前にもはや見慣れたステータス画面が現れた。
名前 霧野 香澄
適性 空手家
Level 1
体力 916023
力 953015
速度 1127101
魔力 9999999^99999990
魔力適性 無色
スキル 言語理解 空間転移 往年の力
んっ?
何だ!?
何か速度の桁が増えてる。
他の数値も上がっているような気がする。
「どう?
かなり上がっているんじゃない?」
藍音ちゃんの問いかけに無言で頷く。
「どういうこと?藍音ちゃん」
私が聞くと藍音ちゃんが説明してくれる。
「往年の力のおかげで日常生活に支障を来すほど力が上がったのよ。
前の未来世界では、徐々に力を付けていったから制御出来ていたけど、今回はいきなり普通の日本人の能力から、前の時の最盛期の力でしょ。
加減を間違えてちょっと跳ねたら10メートル以上幅跳びしていたりして大変だったから、前みたいにおもりで負荷をかけて、重力制御で自分を更に重くして生活していたのよ。
そして今晩香澄ちゃんと会う前に何気なくステータスを確認していたら、私のステータスがかなり上がっていたというわけ」
状況は分かったが原因が分からない。
何故レベルアップなしでステータスがこうも上がるのか?
私が問うと藍音ちゃんは少し考えてからしゃべり出す。
「これはあくまで私の予想だけど、前の未来世界ではステータスがない代わりに鍛えれば鍛えるほどステータスが上がっていたわよね」
「うん」
「ということは、ステータスの上昇度なんかもスキル往年の力の影響で一番上がりやすかった時にもどっているんじゃないかしら」
なるほど、それなら説明がつく。
私も剣を重くしたりベヒモスと遊んだりしていたから、鍛えられたと言うことだ。
「ということは、強い敵を倒せばもっと強くなれるのかな?」
「そうね。私はそう思うわ」
私のつぶやきに藍音ちゃんが同意する。
「それじゃあ、明日から藍音ちゃんが来てくれたとき、行方不明の関谷香織さんと異世界の戦士君を探すついでにベヒモスみたいなのをたくさん倒せば私たちはもっと強くなれるのかな?」
「そうね。明日から是非試してみましょう」
こうして明日からの行動方針が決まった。
二人とも夢中になると当初の目的を忘れる傾向にあるので、あくまでも第一目的は行方不明の二人を探すことだと念を押してこの日の会議は終了したが、はっきり言うと自分の新たな可能性に気がついてワクワクが止まらない。
おそらく藍音ちゃんも同じだろう。
私は自室のベッドに潜り込むと、明日に備えて眠ろうとしたが、いつもより寝付けなかったのは言うまでもない。
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