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第56話 カスミ先生の夜遊び2夜目(カスミ視点)


 私はシュリンガーさんと合流する前に、ベヒモスを倒した湿地と森の境界へ寄り道し、サイコキネシスを使って森のふちにある大きめの木を5、6本なぎ倒す。

 ベヒモスが頭をぶつけて伸びた原因の木をねつ造しておくためだ。


 もっともらしく木の幹に衝突痕を付け、サイコキネシスで湿地の泥を造形して、ベヒモスの足跡と倒れたあとも付けておく。

 最後に、解体後に捨て置いたベヒモスの骨を拾ってきて、衝突痕のあとにばらまく。

 これで、ちょっとやそっと調べられても大丈夫だろう。


 その後シュリンガーさん達と合流する。

 時刻は午後4時過ぎくらいだろう。

 そろそろ町への帰路につく時間であるが、生徒達はまだ狩りを続けているらしかった。

「おお、もどってきたか。

 肉は売れたか?」

「はい」

 私はシュリンガーさんに返事をすると、100万ゼニー分の金貨を見せる。


「この通りです。これはお礼とお借りしたお金の返金です」

 金貨の中から5万ゼニー分取りだし、シュリンガーさんに渡す。

「これは少しもらいすぎだろ」


 驚くシュリンガーさんに私は説明する。


「口止め料込みの金額です。

 私がベヒモスを倒したことはとりあえず内緒にしてください」


 私のお願いに納得したのか、シュリンガーさんは、

「そういうことなら、ありがたくいただいておくよ」と金貨を納めてくれた。


 それからしばらくすると、合流予定地点にようやく生徒達が現れる。

 みんな疲れ切った様子で、さしものビッチーズも憎まれ口をきく元気はないようだ。


「どうだったんだ。レベルは上がったか?」

 シュリンガーさんが聞くと、残念そうに大塚正義が答える。


「あと少しだと思うんだが、午前中の最後の方にレベル10へ上がってから、変わっていない」

「この辺りの魔物では、そのくらいが限界だろうな。

 明日からはもう少し遠出してレベル上げをしてみるか」


 シュリンガーさんが提案すると、ビッチーズのリーダー龍造寺りゅうぞうじ綺羅々(きらら)が忌々(いまいま)しげに口を開く。

「少しなんて言わずに、うんと遠くに行って強い魔物と戦わせてよ。

 私たち、この辺りの魔物じゃ相手にならないくらい強いんだから、もっと強い奴と戦ってレベルを一気に上げたいわ」


「そいつはお勧めしないな。

 お前達の様子を見るに、角ウサギにはまだまだ苦戦しているようじゃないか。

 あちこち角で突かれたような傷がある。

 この状態で高レベルの魔物や強力な個体に遭遇したら、確実にご臨終だぞ」

 シュリンガーさんの正論に、生徒達は黙り込む。


「ちっ、分かったわよ。

 その代わりもっと強くなったら、それにふさわしい相手と戦わせてよね」

「ああ、約束しよう」


 シュリンガーさんから言質が取れたため、溜飲を下げるビッチーズの三人に、勇者の称号を持つ大塚正義だけはまだ少し不満そうだったが、特に何か言い出すことはなかった。


 私たちはそれから一時間ほどかけて城に戻り、ビュッフェ形式の夕食のあと解散となった。

 私は敢えて夕食をほとんど取らず、早めに自室へ引き上げる。

 目的はもちろん、藍音ちゃんに付き合わせて飲み歩くためだ。


 城に宛がわれた部屋に戻るとすぐに空間転移を発動し、私は日本の自宅へと移動した。



 部屋に戻ると、早速藍音ちゃんにメールして呼び出す。

 時刻は午後7時。

 これから飲み歩くにはいい時間だ。


「お待たせー、香澄ちゃん。

 連日のお誘いってことは何かわけあり?」

 藍音ちゃんは私の部屋のリビングに直接テレポートアウトしてきた。


「ええ、話すと気分がめいるから、ちょっとお酒が入ってから説明するわ。

 それより今日はどこに行く。

 もう一度札幌で、今後はカニとかでもいいよ。

 とりあえず向こうで儲かったから、今日はおごるよ」


「いいこともあったみたいね。

 それじゃあ遠慮なくおごられるとして、今日は南の方に行ってみない」

 藍音ちゃんに何か当てがあるみたいなので、今日はお任せしてみることにした。



 藍音ちゃんにつれられて来たのは沖縄本島の恩納村だった。

 昼間ならさぞかし海がきれいだろうが、日もとっぷりと暮れて夜風は少し肌寒い。


 しかし、さすが沖縄。関東より3、4℃は暖かいのではなかろうか。

 藍音ちゃんに連れられてきたのは、地元資本の大型居酒屋だった。


「前に来たときとっても安くて美味しかったのよ。

 今日誘われてすぐに予約しておいたの」

 藍音ちゃんは以前来たことがあるようだ。


「それで、どんなものが食べられるの?」

「沖縄料理のセットメニューよ。

 グルクンの唐揚げとかてびちの煮付けとか、沖縄そばなんかが大きな重箱に入った懐石風のセットよ」


 藍音ちゃんの説明に知らない単語が出てくる。


「藍音ちゃん、グルクンとかてびちって何?」

「あ、ごめんごめん。私も最初に行ったときは分からなかったのよね。

 地元の名物のお魚と豚足のことなの。

 こっちじゃ食べられないお味よ」


 そんなことを話しながら歩いていると目的のお店に到着した。

「ここよ。入りましょ」


 藍音ちゃんに促されて店内に入ると、田舎にしては席数も多く明るい雰囲気のお店だった。

 私たちは泡盛をちびちびやりながら、沖縄料理に舌鼓を打つ。

 私が特に気に入ったのは海ぶどうという海藻だ。

 プチプチした食感で少し塩辛く、いくらに似ているが元が海藻なのでとてもヘルシーだ。

 ちょっとお持ち帰りしたいくらいだ。


 私は飲み食いしながら、今日の出来事を報告する。

 話を聞き終わった藍音ちゃんは、私の部屋に夜這いを駆けようとしている国軍の中隊長にとてもご立腹である。


「そいつは許せないわね。

 酔った勢いでやっちゃいましょう」

「いや、仮にもある程度の地位にいる人間だから、急に消えたり死体になったりしたら、徹底的に調べられてまずいことになると思うわ」

「そうね。

 けど、何も対策しないのは香澄ちゃんが危険だし、私個人としてもそんな人類の敵には相応の報いが必要だと思うの」


 かなり泡盛がまわってきたのか、藍音ちゃんの目が据わってきた。

「私のために怒ってくれてありがとう。

 けど、生徒達のこともあるし、ここは出来るだけ穏便に行きたいわね」

「わかった、とりあえず我慢するけど、あなたはくれぐれも用心してね」


 私たちは夜10時まで飲み、その後自室に引き上げた。

 藍音ちゃんは酔っても正確にテレポートしてくれた。







ご愛読ありがとうございます。

おかげさまでブックマークも少しずつ増えています。

今後もよろしくお願いします。

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