第46話 カスミ先生、尋問される (カスミ視点)
私は城の自室に戻り、宛がわれたベッドで朝を迎えた。
朝食までにはまだだいぶ時間がある。
とりあえず、週末には藍音ちゃんが協力しに来てくれる。
それまでにとりあえず、私がこれからなすべきことを考えておこうと思う。
一つ目は、この世界に残った4人の生徒が死なないように目を光らせること。
二つ目は、城から追い出された関谷香織さんを探し出して日本に連れて帰ること。
三つ目は、私が召喚に巻きこんでしまった異世界の剣士君を探し出して謝り、彼を元の世界に帰すこと。
大まかに言うとこの3つになる。
2番目と3番目は、香織さんと剣士君が一緒に行動していると思われるので、同時に達成できるだろう。
問題は、1番目を実践しつつ二人を探せるかと言うことだけだ。
とりあえず藍音ちゃんが週末には応援に来てくれるから、香織さんたちの捜索は週末になってから考えよう。
この世界に私の予想を超える化け物がいれば別だが、城の兵士を相手にしていた2人の動きを見る限り、簡単にやられることはなさそうだ。
ここまで考えたとき、朝食の呼び出しにメイドらしき女性が来た。
私は素直に与えられた練習着に着替え、朝食会場に行く。
会場では大塚正義君が既に朝食を食べ始めていた。
ビッチーズの三人はまだ来ていなかった。
平素から遅刻の多かった三人組は、そろいもそろって朝に弱い。
さすがに昨日は、緊張もあって時間に遅れなかったのだろうが、今日はまだ寝ているのだろう。
私はビュッフェスタイルの朝食を大きめのプレートに盛りつけていく。
朝食は一日のエネルギーの大本だ。毎日しっかり食べている。
今朝のメニューはパンとサラダとゆで肉のスライス、ゆで卵、それにソーセージみたいな何かである。
飲み物として、果汁や水が用意されており、コンソメスープのように見える何かもある。
テーブルはクラス40人分ほど用意されているが、私を含めて5人しか残って折らず、他は皆、藍音ちゃんのエリアテレポーテーションで日本に帰った。
そんなことは露知らぬ城の人々は、クラス全員分の食事を準備したということだろう。
とりあえず、適当によそった食材はそれなりのお味で、美味しくいただくことができる。
私が朝食を食べ終えた頃、ビッチーズの三人と一緒に、どこかで見たようなえらそうな役人がしょくどうに入ってきた。
「聞きたいことがあるからちょっと来い」
命令口調でいう役人にむかついたが、心当たりのありすぎる私は素直に従うことにした。
案内された部屋は机と椅子だけが置いてある小さな部屋で、そこに座るように言われ、3人の男に対面させられて質問される。
「私は宮廷魔術師長のクルドニウス・マーリニアだ。
単刀直入に聞く。
34人の召喚者が消えた。
お前が隠したのか?」
ああ、どこかであったと思ったら、私たちを召喚した張本人である。
「知らないわ」
私は素っ気なく答える。
「隠し事や嘘は自分のためにならないぞ。
お前のようなお荷物は、温情で城においてもらっていると言うことをもっと自覚した方がいい」
勝手に連れてきてずいぶんな言いぐさである。
別にここから出て行ってもいいのだが、我がクラスの問題児4人をこんな訳の分からない連中のところに置き去りにするのもはばかられるので、一応丁寧に答えることにする。
「本当に分からないわ。
もし私が何かできるならそうしたいとは思うけど、残念ながら私一人では30人を超える人間を一晩で消すようなまねはできないわ」
実際に日本に連れ帰った能力は藍音ちゃんのエリアテレポーテーションだし、私一人ではなし得ない。
真実をおり混ぜて説明することで、会話に真実みと説得力が出る。
「確かに、お前のような年増にそんな大それた能力が宿るはずもないな」
25歳のうら若き乙女を捕まえてずいぶんな言い方である。
むかついたが、ここはぐっと我慢しているとクルドニウス・マーリニア魔術師長は尋問の終わりを告げる。
「今日はここまでにしておく、何か分かったら知らせろよ」
私は尋問室を出ると、昨日と同じ訓練用の中庭に案内された。
4人の生徒は既に集まっており、体をほぐしながら訓練の準備をしている。
「あなたたち、何か聞かれた?」
私の問いに4人がそれぞれ答える。
「俺は、勇者の自分がいれば他のいなくても大丈夫だといってやりましたよ。
特に深くは聞かれていません」
「あたしたちも他のクラスメイトのことは聞かれたけど、突っ込まれなかったよ」
大塚君と龍造寺さんはこの件にあまり興味なさそうで、私の方を振り向くことなく、前屈や屈伸をしながらおざなりに対応する。
そうするうちにすぐ今日の指導者らしい騎士が入ってきた。
「俺は今日の訓練を担当する近衛騎士隊のシュリンガーだ。
お前たちのでき次第では、午後からフィールドに出て実際に魔物狩りをするから気合いを入れろ」
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