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第45話 武術大会前哨戦? (主人公視点)


「おい、あんたたち、いくら勇者でも無銭飲食は犯罪だぞ!」

 俺は焼き鳥屋に絡んでいる『勇者マサヨシとビッチな仲間たちチーム』4人に、偽装したまま声をかける。


「何だお前たちは?」

「通りすがりの仮面冒険者だ。覚えておけ」

 俺の返答に4人ともむっとした顔つきになり、ビッチ3人組のリーダー格らしい女子が食いついてくる。

「あんたに関係ないでしょ。これは私たちに敬意を払わない焼き鳥屋の親爺の責任よ!」

「「そうよ、そうよ!」」

 あとでカオリに聞いたところに寄ると、リーダー格の一番ケバケバしいのが龍造寺りゅうぞうじ 綺羅々(きらら)らしい。

 相づちを打っている2人もかなりのケバさだ。


 異世界なので露出が多い服装をしている冒険者は多いが、あれだけピアスやその他の装飾品を身につけている女性は見かけない。

 特にリーダー格の龍造寺りゅうぞうじ綺羅々(きらら)は、最初に召喚されたときから、両方の耳にあわせて12個のピアスを付けていたが、こちらに来てからの3週間ほどでそのサイズがグレードアップしたらしく、耳たぶについているピアスは直径が1センチほどもある金属の柱を、顔の大きさほどの円形に加工した巨大ピアスだ。

 両方の耳たぶがピアスの重さに耐えきれず、かなり伸びているのではないかと心配になる。


 他の二人もかなり大きなピアスをしているが、その形が三角形と四角形であり、それぞれ個性を主張している。


 ピアスの重さに耳が悲鳴を上げているように感じるが、本人たちはそれがいかにも普通なのだろうか。気にする様子はない。




「俺には関係なくもない。町のモラルが壊れれば俺たちみんなが暮らしにくい町になる。

 とりあえず勇者を名乗るならきちんと代金くらい払ってやれ」


 俺に箴言に不快感をあらわにしビッチ三人組が抜剣しようと剣に手をかけ抜剣使用とする。

「おい、あんたもこいつらと同類か?」

 俺は少し後ろに控えていた唯一の男子生徒、大塚オオツカ正義マサヨシに話を振ってみる。


「代金は払おうが払うまいがどっちでもいいが、俺たちのパーティーに対して尊敬の念が感じられないお前の態度には我慢がならない。

 文句があるならこの最強勇者マサヨシ様が相手をしてやろう」


 こいつもやはり同類だった。

 ケバケバビッチーズの前に出て、剣を抜く。


 どうやら4人とも喧嘩を買ってくれるようだ。

 俺たちも剣を抜こうかと思ったが、とりあえず斬り殺してしまうとあとから面倒なことになるかも知れないので、素手で相手をすることにする。

 それでも手加減しないと殴り殺す危険性があるのだが……


「ふっ、冒険者風情が勇者に刃向かおうというのか?

 その傲慢、僕の手で叩き潰してあげよう」

 訳の分からない自信に満ちあふれたセルフを叫びながら、勇者マサヨシは斬りかかってくる。


 しかし、あれで全力なのだろうか?

 とても遅く見える。

 あれなら土螭つちみずちの這いずるスピードよりのろいのではなかろうか。


 相手の動きのあまりの遅さに実力が知れてしまい、緊張の必要はほとんどなさそうだ。


 とりあえず鑑定してみる。


 名前 大塚オオツカ 正義マサヨシ 

 適性 勇者

 Level 15

 体力 150×15Level

 力 150×15Level

 速度 150×15Level

 魔力 150×15Level

 魔力適性 赤色

 スキル 言語理解 魔法剣 ヒーリング


 なるほど、レベルは俺たちよりかなり高いが、元のステータスがたいして高くない。

 それでも一般人に比べればかなり高いのだろうが、これでは一番弱いみずちより弱い。


 ちなみに今の俺のステータスはこんな感じだ。


 名前 霞寺カスミジ 時祐トキヒロ ジェフリー・ミスト

 適性 演者(そのとき意識した職業を完全に演じることができる)

    魔法剣士を演技中(魔力、力に補正)

 Level 4

 体力 20741×4Level+10%(スキル補正)

 力  13830×4Level+10%(適性補正)+10%(スキル補正)

 速度 19010×4Level+10%(スキル補正)

 魔力 96769×4Level+10%(適性補正)+10%(スキル補正)


 勇者よりレベルが上がりにくいのは、元々の強さがかなり強いため、よほどの強敵と戦わないとレベルアップしないのだろうか。

 逆に勇者は、基本ステータスが低いので、ちょっとした魔物よりも弱く、簡単にレベルアップしたと思われる。


 特殊なスキルを新たに習得している様子もなく、何にしても俺たちの敵ではない。



「ここは瞬殺するぞ」

「了解」

 カオリと簡単に言葉を交わし、俺たちは動く。


 勇者マサヨシは左上方から袈裟懸けで斬りかかってきたが、剣筋をぎりぎりまで引きつけ、わざと紙一重で躱す。

 同時に脇から左拳をたたき込み肋骨を2、3本折っておく。


 勇者には肋骨の骨折でかなりの激痛が走っていると思うが、肋骨の骨折は折れたばかりより少し立ってから痛みは強くなるので、まだ戦闘を続けることはできるだろう。

 しかし、肺に折れた肋骨が突き刺さった場合は呼吸が苦しくなるはずだ。


 果たして、勇者マサヨシはその場にうずくまり苦しそうに胸を押さえた。


 しかし、この世界には回復魔法がある。

 一瞬で完全回復するような強い回復効果がある魔法はまだ見たことはないが、この程度の骨折だと明日までに完治して試合に出てくるかも知れない。

 実際勇者もヒーリングを持っている。


 気の毒だとは思ったが、座った状態で剣を手放さず反撃の機会をうかがっているようにも見える勇者の利き腕を、ローキックで粉砕骨折させておく。

 のどに手套をたたき込みしばらくの間は何も証言できないようにしたあと、とどめに地面すれすれからのアッパーであごを打ち抜き、勇者の意識も刈り取っておいた。

 これくらいやれば、如何にヒーリングの使える勇者でも、明日までに回復することはできないだろう。


 残りはビッチ三人組だと視線を後ろへ向けると、既にカオリによって意識を刈り取られ、地面にうつぶせに倒れていた。


「うまくいったか?」

「ええ、全員両腕を骨折させて、詠唱できないようにのどを潰しておいたわ。

 とどめに雷撃で感電させて意識を刈り取っておいたから、通電した筋肉や内臓にもダメージを残せたと思うわ」

「俺の方も肋骨と利き腕を折っておいた。

 明日の出場はできないだろう」

 俺たちが小声で確認していると、静まりかえっていた広場は歓声に包まれる。


「すげーっぞ、勇者を物ともしない!」

「勇者以上の英雄だ」


 目立つのは本意ではないが、偽装した上にマスクまで付けているのだから、正体がばれることはないだろう。


 俺は勇者の腰につけている革袋から銀貨を2枚ほど抜き取ると焼き鳥屋の店主へ渡す。

「これで足りるか?」

「はい、十分です。というかもらいすぎです。

 ありがとうございました。

 しかし、あなた方はこんなことをして大丈夫なのですか?」


 店主は俺たちの心配をしてくれているが、俺は何でもないという風に答える。


「俺たちは通りがかりの冒険者だ。

 素顔もアイマスクでばれていないからどうと言うことはない。

 それよりこいつらをこのまま転がしておくわけにもいかないだろう。

 誰か荷車を貸してくれないか。俺たちでこの件は処理しておく」


 顛末を見ていた近所の男が、リアカーに似た荷車を貸してくれ、俺たちは迷惑な4人組を町の衛兵の営舎へと運搬し、町中で無銭飲食をしようとした暴漢として引き渡した。


 これで奴らは、のどが治って説明できるまでは格子付きの特別室から出てくることはないだろう。


 俺たちは荷車を返すと別の形のマスクを購入し、宿へと戻った。

 とりあえず、明日の試合は今日と少し違う偽装をして出場することにしようと思う。







 ご愛読ありがとうございます。

 タイプミス、変換ミス、人名取り違えなどに気がつかれた方は連絡お願いします。


 次話からしばらく、主人公視点を離れようとおもいます。

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