第44話 武術大会前日 (主人公視点)
翌日は、武術大会の前日である。
俺たちの目的は、武術大会でスフォルトゲス伯爵チームを屠り、土螭の装備を悪用させないことにある。
自分の領地で善政を敷いているエルンスト伯爵の政敵であるスフォルトゲス伯爵は、自領の運営でも住民から苛烈な搾取を行うなど評判が悪く、こいつが中央でも権力を握れば、ただでさえ胡散臭いこの国の王族による統治が、更に悪い方向へ転がることは予想に難くない。
しかし、スフォルトゲス伯爵のチームと戦うには、まずは召喚仲間である勇者一行を倒さなければならない。
俺たちの正体がばれると、死んだはずの俺たちが生きていたことへの警戒や、俺たちの隠していた実力の露見など、どう考えてもいい目は出ないとおもわれる。
俺が心配していると、カオリが部屋を訪ねてきた。
朝食前の寝起きに女の子を部屋に入れるのに少し違和感を感じたが、ちょうど相談したいと思っていたこともあり、すぐに部屋に入ってもらう。
「朝早くからごめんなさい。
ヒロ、偽装はできるようになったんだよね」
カオリは早朝の訪問を詫びると、早速本題に入ってくる。
「ああ、ステータスを誤魔化すことはできていると思うけど、何か?」
「私の持っている偽装は見た目も偽装できるのよ。
瞳の色とか、肌や髪の色とかね。
さすがに身長や体型までは変えられないけど、とりあえず正体がばれにくくすることはできると思うの……
もしかしたらヒロもできるんじゃない?」
なんと、偽装にはそんな使い道もあったのかと驚いた。
俺の偽装はカオリから複写したものだ。
たぶんできるんじゃないかと思うが、いま一つやり方が分からない。
「ちょっとやってみてくれないか?
どうすればそのスキルが発動するのか見当がつかないのだが……」
「分かったわ」
カオリはそう言うと目を閉じて集中し始めた。
なんだか髪に魔力が集まっているように感じる。
しばらくするとカオリの髪の色は艶やかな金色に変わっていた。
「どう?
こんな感じよ」
そう言って開かれた目を見ると、瞳の色も碧眼へと変わっている。
「随分印象がかわるんだな」
俺は感心してつぶやく。
「そうね、髪と瞳の色でかなり印象が変わるわね。
あとは髪型かしら。
ちょっと待ってね」
そう言うとカオリは自分の肩まで伸びた髪をひとまとめにし、ポニーテールにかえる。
「もはや別人にしか見えないな……」
俺の感想に満足そうに頷きながら俺にもスキルを使ってみるように勧める。
「次はヒロの番ね。やってみて」
「分かった」
俺は早速、ステータスウインドウを開き偽装スキルを組み込むと、魔力を練って髪や瞳に纏わせていく。
「どうだ?」
カオリに確認すると親指を立てて答えてくれた。
「完璧ね」
今の俺は金髪碧眼で肌の色は銅褐色。
良く日焼けした黄色人種か黒色人種に見えるだろう。
これでアイマスクの仮面を付ければ完璧だろう。
俺たちは相談し、朝食のあとに仮面を購入しに町をぶらつくことにした。
町の目抜き道理で目を隠す仮面を探し、気に入ったデザインの物があったので早速カオリとペアで購入する。
今の俺たちは金髪碧眼褐色肌とお揃いであり、そこに同型色違いのアイマスクを着用している。
俺のマスクは黒に近い紺色で、カオリのマスクはくすんだ赤色だ。
試着して、お互いの出で立ちを相互に確認していると、外から大きな声と悲鳴が聞こえてきた。
俺たちは仮面を付けて偽装したまま、喧騒のただ中へ向かう。
「ちょっと、あんたたち分かってるの!
私たちは勇者様一行よ!!」
「はい、もちろん存じております。」
「この国を救うために来た勇者様から金を取ろうって言うの」
「そうは言われましても、私どもも商売でして、代金をいただかないと生活できませんので、なにとぞご容赦ください」
そこでは、露天の焼き鳥を持った4人の男女と、焼き鳥屋の主らしき人物が言い争っていた。
どうやら、勇者一行を名乗る4人が焼き鳥の代金を踏み倒そうとしているようである。
「あれは……
間違いないわ、クラスの派手ケバビッチーズと堅物正義オタク……」
4人組を見つめながらカオリがつぶやく。
どうやら一緒に召喚されたクラスの同級生らしい。
「カオリ、クラスメイトなのか?
それなら、あれが明日の俺たちの初戦の相手か……」
「そうよ。
派手な女子3人が、龍造寺 綺羅々(きらら)、鳳凰堂 把比保、新宮園 飛飛瑠、という名家のアバズレお嬢様で、唯一の男子が大塚 正義っていう正義感がいつも暴走しているオタク男子よ」
「それにしても、代金を踏み倒そうとするのが正義なのか?」
俺の言葉に少し考えてカオリが答える。
「たぶん、自分勝手な正義感が暴走していると思うの。
正義の味方の自分に無料で焼き鳥を提供しないことが悪で、タダ飯を食べさせてもらうことが正義だとでも思っているんでしょうね。
残りの女子3人は正義とはほど遠い価値観で生きているワガママ娘だから、正義も悪も関係なく代金は踏み倒すつもりよ」
こいつは困った物だ。
業を煮やした勇者一行は、今にも店主に暴力をふるいそうだ。
「偽装してるし、止めに入ってもばれないよな……」
「そうね、それにうまくすれば明日の展開に有利かも……」
俺のつぶやきにカオリが反応する。
「どういうことだ?」
俺が聞くと、カオリは口角を上げニヤリとした。
「勇者様一行は町中で喧嘩に巻きこまれ、大会を棄権と言うシナリオはどうかしら?」
「それは……、いいかもしれない」
俺はカオリの提案を受け入れた。
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