第39話 武術大会まで暇になりました (主人公視点)
「武術大会まであと10日、前日にはこの街に戻るとして、それまでは魔石集めをすると言うことでいい?」
カオリの問いかけに俺はすぐに同意する。
「ああ、俺もそれがいいと思っていたところだ。
魔族の討伐に西へ行くのは時間が足りないから、ラディー村の洞窟に少し潜ろうと思うんだが、どうだろう」
「私もそれがいいと思う」
「それじゃあ早速移動しよう」
「待って。
その前に買うものがあるんじゃない?」
俺の提案にカオリが異議を唱える。
「買うもの?
今のところ足りないものはないと思うが……」
俺は心当たりがなく、カオリの顔をのぞき込む。
「そう?
私だったら大きな袋か、箱を買うわよ」
「大きな袋か箱……
そうか、俺の収納に個数を減らして入れるためには確かに必要だ!
気がつかなかったよ、ありがとう」
俺の収納スキルは収納数がレベル依存、収納量が魔力依存で、魔力的には問題ないが、レベル2の現状、2個しか収納できない。
つまり、洞窟探検で取れた魔石や素材を、そのままでは収納しきれないということになる。
そこで必要になるのが、大きな袋や箱だ。
俺は一旦ゲンガーさんの店に戻り、袋か箱で大きなものが手に入らないか聞いてみた。
「うーん、この街で手に入る一番大きな袋というと、馬車のカバーだろうな…」
ゲンガーさんはマーサさんとしばらく話し合っていたが、結論として場所のカバーとして使われる大きな袋状の布がもっと大きいだろうと言うことになったようだ。
俺は早速馬車などの販売も行っている大手商会を紹介してもらい、店で特大の馬車カバーを5枚ほど手に入れる。
現状では収納限界は2個までだが、ラディーの洞窟でのレベルアップも期待しての購入である。
店員は馬車も持たずにカバーだけ購入する俺たちを不思議そうに見ていたが、愛想はいい。お客様は神様である。
1枚20万ゼニーもする特大カバーは、俺たちが捕った土螭を余裕で3体は収納できそうなサイズである。
箱にしなかったのは、洞窟での取り扱いやすさを考慮した結果である。
俺は袋をできるだけ小さくたたみ、1枚の袋に他の4枚を入れて1個の荷物にすると、スキル収納で取り込んだ。
俺たちは商会を出ると、簡単に打ち合わせをし、エルンストの町を後にする。
時刻はまだ昼前だ。
全力で走れば3時のおやつ前にはラディーの村に着けるだろう。
俺たちは人気がなくなるまでは自重して走っていたが、町から離れると徐々にスピードを上げ、競うようにラディー村を目指した。
数時間も走るとラディー村が見えてくる。
農作業中の村人に目撃される怖れがあるので、徐々にスピードを落とし、畑のあぜ道を駆け抜けてショートカットしながら、村を目指した。
一応、冒険者ギルドに届けてから洞窟に向かうつもりだ。
村の入り口近くのマルンさんの畑を確認するが、ギルドの受付も兼任しているマルンさんは見当たらない。
ギルドの方にいるのだろうか。
時刻は夕方にはまだ早い時間帯ではある。
ギルドの扉をくぐると、受付には疲れ切ったような様子のマルンさんがいた。
「こんにちは、マルンさん」
「こんにちは、八日ぶりですね」
俺とカオリが声をかけると、ゆっくりと視線を上げたマルンさんが俺たちを確認する。
「あ、あんたたちは洞窟の魔物を倒した……
いいところに帰ってきてくれた!
今、この村はちょと大変な状態なんだよ。是非あんたたちの化け物をも倒す力を貸しておくれ」
椅子から立ち上がりカウンターから身を乗り出すようにして早口でまくし立て窮状を訴えるマルンさんの様子に、俺はなにやら嫌な予感がした。
「何があったんですか、マルンさん」
俺が問うと、マルンさんは待っていたとばかりに説明しはじめる。
「8日前にあんたたちが魔物をかなり間引いてくれたから、普通ならこれで一月は安定するんだよ。
けど何故か3日前から、前にも増して魔物が増えてきたのさ。
悪いけどまた力を貸しとくれ。
できれば今度は、この辺りの魔物を狩り尽くすぐらいの勢いで頼むよ」
俺はカオリを視線で確認し口を開く。
「俺たちはちょっと理由があって魔石を集めようとしています。
ここに来たのも、魔物の洞窟にもう一度潜って、魔物を倒して魔石集めをするためなのです。
そのついででよければ、ゴブリンなんかも始末しておきましょう」
「そうかい、それは助かるよ。
できるだけたくさんフィールドに出ている奴も退治しておくれ。
例によって他の冒険者はこんな小さな村にはなかなか来てくれないのさ」
マルンさんは少し安堵の表情を見せ、ドカリと受付の椅子に座り込んだ。
洞窟に向かってフィールドに出ると、確かに前回討伐したときより魔物の数が多い。
カオリに探知系の魔法を使ってもらい確認すると、数えるのが面倒なくらいの規模で弱い魔物があたりに散在しており、洞窟に近づくほど密度が上がっているという。
俺たちは剣と魔法を駆使しながら、できる限りの魔物を駆逐する。
ゴブリンの魔石は正直集めるのも面倒なので、今回は倒すことに専念して放置し、一刻も早く洞窟を目指す。
洞窟の入り口につくとちょうど大量のゴブリンが洞窟から飛び出してくるところだった。
そしてその背後からは、忘れることができない笑い仮面のような白い巨大な顔がのぞいている。
俺は素早く鑑定を発動する。
名前 螭
適性 妖怪(この世の理から外れた存在。)
Level 9
体力 2282 × 9Level
力 1322 × 9Level
速度 665 × 9Level
魔力 3501 × 9Level
魔力適性 青色(水属性)
スキル 穴掘り
噛みつき
消化液
大津波
再生力大
なんと、土螭ではなく、ただの螭だった。
属性も水になっている。
レベルも土螭より微妙に高い。
どうやら増えた魔物はこの螭に追われて洞窟からあふれ出てきたようだ。
「カオリ、鑑定したか?
似ているが違う種類だ。」
「ええ、確認したわ。
弱点も土螭と違うのかしら」
「分からないが、全属性を試せばいいだけさ。
それより、奴は洞窟から出れないみたいだ。
とりあえず洞窟前のゴブリンと角ウサギを一掃するぞ」
「分かった」
俺とカオリは風魔法を発動し、風の刃で洞窟前の魔物を一掃しながら、魔法をくぐり抜けた個体は剣で処分していった。




