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第38話 武術大会に申し込もう (主人公視点)


 俺たちがゲンガーさんからトーナメントの出場方法や登録の仕方を聞いていると、店に来客があった。


「いよっ、ゲンさん!

 何かいい武器は入ったかい?」


 気さくな様子で店の扉をくぐりながら入ってきたのは、長身で身なりのよい貴族然とした中年男性だった。


「カッちゃんか。

 残念ながらさっきまではあったんだが買い占められちまったよ。

 しかも、よりによってあのスフォルトゲスの奴にだ」

 ゲンガーさんはすまなさそうにカッちゃんと呼んだ貴族に答える。


「そいつは残念だな。

 次はいつ入荷予定だ?」


「それが、武術トーナメント出場の10人分を5日後までに予約されちまって、その後になっちまうからかなり遅くなるよ」

 ゲンガーさんは本当に申し訳なさそうだ。


「スフォルトゲスの奴がそんなに欲しがると言うことはかなりの武器なのか!?」 

 カッちゃんと呼ばれた貴族は、少々の驚きを言葉に含ませて尋ねてくる。


「ああ、凄腕の冒険者が仕留めた魔物の素材でできた剣と盾だ。

 堅さもすごいが、魔法もほとんど効かない優れものだ」


「それはすごいな。

 俺たちのチームにも是非欲しいが、素材は足りるのか?」


「それは大丈夫だ。

 巨大な魔物の鱗を使うが、十分過ぎるほど素材はある。

 しかし問題は納期だな。

 スフォルトゲスに5日後に渡す分を先に作ってからだと、急いでも大会の前日くらいになってしまう。

 それにスフォルトゲスの奴、他の奴に売ったら何かしてきそうなことを言っていたぐらいだからな……」


「そうか……

 その剣と盾で訓練する時間がほとんどないのは痛いが、最低でも同じ武器で戦えるのなら、その条件で致し方ないという所だな。

 スフォルトゲスの営業妨害はこちらで何とかする。

 なんとか、うちのチームの分も作っておいてくれ」


「ああ、分かった。

 ところでトキヒロたちはどうする。

 お前たちの持ち込んだ素材だ。武器や防具はいらないのか?」


 突然話を振られて、俺は一瞬カオリと顔を見合わせ、視線をゲンガーさんに戻すと答える。

「ええ、大丈夫です。

 俺たちが使っている剣はそれぞれかなりのものですし、あの武器や防具には雷属性という弱点もありますから」


 俺が使っている剣は、召喚される前に魔王を切った剣であり、伝説の業物だ。

 カオリの剣も、マジックバックに入れていた勇者時代の剣のようで、すさまじい力を秘めているそうである。

 両方とも強力な魔法を付加させても壊れる心配はない丈夫な剣なのだ。

 素の状態では土螭つちみずちの鱗にははじかれたが、雷属性さえ剣にまとわせれば問題なく切断できる。


 そのとき、ゲンガーさんに答えた内容を聞いた、カッちゃんと呼ばれている貴族が聞いてきた。

「ほう、君たちは見たところ冒険者のようだが、二人とも雷の属性なのか。

 雷属性は威力が高い魔法を放てる一方、複数を相手にする場合は炎や風の魔法に劣る癖の強い魔法だ。

 命を大事に戦いたまえ」


 俺たちのことを心配してアドバイスしてくれているようだ。


「いや、カッちゃん。

 この二人は……」

 貴族の男性の言葉を聞いてゲンガーさんが俺たちの扱える魔法について説明しそうになったが、あまり広めない方がいいと思っている俺たちに配慮してか、言葉を途中で切って俺たちの方を見てくる。


「ゲンガーさん。この方とは随分親しそうですが、信用できる方なのですか?

 俺たちのことを秘密にしてくれる方なら、ゲンガーさんのご友人でもあるようですし、ある程度は話していただいてもかまいません」

 俺はカオリと視線で意志を確認すると、ゲンガーさんの話の続きを聞きたそうにしている貴族の男性とゲンガーさんを交互に見ながら言う。


「だ、そうだ。カッちゃん。

 秘密は守れるか?」

ゲンガーさんが聞くとカッちゃんと呼ばれた男は即座に返答した。

「もちろん、エルンスト伯爵家の名誉にかけて、君たちの不利になるようなことはことはしないと誓おう。

 申し遅れたが、私はカーク・エルンストという。

 この地を任されている領主だ。

 幼少の頃から屋敷を抜け出して遊び回り、ゲンさんとはその頃からの幼なじみさ」


 なんとカッちゃんはこの街の領主様だった。


 王都ではろくでもない王族や兵士ばかりだったが、カークさんは気安い性格のようでとても印象がいい。

 俺たちはゲンガーさんに向かって頷く。


「どうやら、二人の了解も取れたようだから教えよう。

 この二人は複数属性の魔法をかなりの高位力で扱うこともできる冒険者なのさ」


 ゲンガーさんの言葉に、エルンスト伯爵は目を大きく見開く。

「それは、驚いた。

 それに魔族というわけでもなさそうだし、もしかして君たちは、近頃うちの国のバカ王族が大量に召喚したという異世界人なのではないか?

 いや、答えたくなければ答えなくていいが、複数の魔法を使える人間は、基本的にこの大陸にはいないからな……」


 気安くしていてもさすがは貴族と言うことだろう。

 エルンスト伯爵はあっさりと俺たちの秘密の一つにたどり着いた。


 ゆっくりと頷く俺たちを見て、今度はゲンガーさんとマーサさんの目が大きく見開かれる番だった。


「なんと、勇者召喚の犠牲者だったのかい。

 もしかして元の世界に帰る方法を探して、王都から出てきているのか?」


「ええ、それも一つの理由です」

「それ以上に、突然召喚魔法で呼び出されて戦争の道具にされることに納得できなかったというのが大きいのですが」

 俺の言葉をカオリが引き継ぐ。


 俺たちの返答を聞いて、エルンスト伯爵がすまなそうに口を開いた。

「この国の貴族の一人として君たちに詫びる。

 本当に申し訳なかった。

 平和に暮らしていたであろう君たちを、自分の欲望のために召喚した王家の暴走を止めることができない自分が歯がゆいよ」


 伯爵は両手を強く握りしめている。


「あなたのせいではありませんよ、伯爵。

 俺たちは前の世界でも理不尽なものと戦ってきました。

 この世界を短い間ですが見てきて、だんだんいい人とそうでない人がいることも見えてきています。

 特に今心配しているのは、俺たちが持ち込んだ魔物の素材のせいで、今度の武術大会をスフォルトゲス一派が有利に勝ち進み、善政を敷いているあなたの領地の名誉が損なわれることなのです」

「できれば、私たちを真っ先にスフォルトゲスのチームとぶつけてください。

 必ず倒して、彼らの活躍を許しません。

 私たちはその後、棄権するか不自然に見えないように敗退すればいいと考えています」


 俺とカオリは伯爵の目を見つめながら言葉をつづった。


「わかった。

 トーナメントの組み合わせは、大会が盛り上がるように考えながら我が伯爵家が毎回決めている。

 今度の大会で、君たちは昨年準優勝のスフォルトゲスチームと1回戦で当たるように調整しよう」


「「ありがとうございます」」

 俺とカオリの声がかぶった。


 これで、土螭つちみずちの武器防具のせいで番狂わせが起こることは防げただろう。


 その後、俺たちは伯爵の案内で、大会参加の受付所まで移動し、無事に参加申し込みを終えたのである。






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