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第36話 思わぬ襲撃 (主人公視点)


 剣の軌道を修正して俺の背中をめがけて飛んでくるナイフをはじき飛ばす。

 カオリも俺の動きで異常に気がつき、回避行動を取ろうとするが、俺がはじき飛ばしたナイフがカオリに迫るもう一本のナイフに接触する軌道を飛んでいるのを確認すると、静かに剣を構えてナイフを投擲した相手を見据えた。


 キンッ


 高い金属音を立てて二本のナイフがぶつかり草むらへと消える。


 瞬間、ナイフが飛んできた方向から高速で接近する人影が見える。


 どうやら、倒れていた盗賊の一人のようだが、今まで出会ったこの世界の誰よりも早い。

 カオリに向かって接近していたその影は、カオリが剣を正眼に構え剣に魔力をまとわせるのを確認すると突然目標を俺に変えて斬りかかってきた。


 それは、王都から脱出する際に俺たちを包囲した城の兵士とは比べものにならないスピードとパワーだった。


 対する俺は、影を確認すると同時にスキルを入れ替え戦闘向きのものを揃えている。

「ステータス」

 小声でつぶやいてうまくスキルが選択できたか確認する。


 名前 霞寺カスミジ 時祐トキヒロ ジェフリー・ミスト

 適性 演者(そのとき意識した職業を完全に演じることができる)

    魔法剣士を演技中(魔力、力に補正)

 Level 2

 体力 14405×2Level+10%(スキル補正)

 力   9604×2Level+10%(適性補正)+10%(スキル補正)

 速度 13202×2Level+10%(スキル補正)

 魔力 67201×2Level+10%(適性補正)+10%(スキル補正)

 魔力適性 無色(全ての色彩が融合した色)

 スキル 言語理解(全ての言語を理解し、こちらの言語を相手に理解させる)

     複写(一度見たり体験したりしたスキルを複写することができる)

     収納(亜空間連続体に任意の物体を収納できる。亜空間連続体は全ての時間軸につながっているため、何年後だろうが入れた直後の状態で取り出せる)

     成長(複写中:経験に応じて全てが成長し、成長に伴いスキルも取得する)

     鑑定(複写中;対象の状態、価値、ステータスを調べる)

     魔法剣(複写中:剣に魔法をまとわせて攻撃できる。)

     身体強化(複写中;体力をレベルに応じて強化する。)

     力強化(複写中;力をレベルに応じて強化する。)

     魔力強化(複写中:魔力をレベルに応じて強化する。)

     速度強化(複写中:速度をレベルに応じて強化する。)

     浮遊(複写中:魔力を消費しレビテーションを発動できる。)

     念動(複写中:魔力を消費しサイコキネシスを発動できる。)

     再生(複写中:魔力を消費し怪我や欠損部分を再生する。)

     回復(複写中:魔力を消費し体力を回復する。)

     複写余力2


 既にこの世界の人間相手なら全く問題にならないほどのステータスなのだが、何かとてつもなく嫌な予感がし、できる手は全て打っておくことにしたのだが、それでも心のどこかに油断があった。


 影の男の一撃を正面から受け止めた俺は、自然体に構えて踏ん張っていなかった。

 俺は吹き飛ばされたのだ。


 空中を飛ばされる俺に、影の男は跳躍して斬りかかってくる。

 明らかに人間離れしている男の動きは、俺に召喚される直前の転生した世界での魔王との一騎打ちを彷彿とさせる。

 この男をなめてはいけない。

 本能が俺に警鐘を鳴らす。


 レビテーションを発動し、空中の姿勢を立て直した俺に、影の男はニヤリと口角を上げて二撃目を放ってくる。

 俺は剣に雷をまとわせると、男の斬撃を下から切り上げて左斜め上へと受け流した。


 瞬間、男は剣にまとわせた雷に撃たれビクリと大きく痙攣する。

 剣を落とさなかったのはさすがだが、着地の体勢はものの見事に崩れ、男は地面を転がった。


「カオリ、こいつ強いぞ!

 油断するな!!」

「分かったわ!」

 俺は着地しながらカオリにも警戒を促す。


 影の男はのそりと立ち上がると俺たちの方をにらみ、右手の剣をだらりと下へ向け、こちらには左手を突き出すように向けてきた。


「来るぞ!」

 俺が叫んで右に回避するのと、男の手のひらから赤黒い炎の渦が解き放たれるのがほとんど同時だった。


 俺は姿勢を低くし男の左手側から斬りかかるが、男は惚けたように両目を見開き前方を見つめている。

 一瞬男の視線の方向を確認すると、先ほど男が放った獄炎がそのまま男の方へとはじき返され、その炎を追うように光の魔力を剣にまとわせた勇者カオリが真っ直ぐに突っ込んできているのが見えた。


 俺は更に加速し、影の男の斜め前を通り抜け、その刹那に横なぎの一撃を男の腹に食らわせる。

 次の瞬間、カオリのスキルによって反射された炎に男は焼かれ、カオリの光の剣が右から袈裟懸けに男を両断した。


 あまりの剣速に炎が消し飛び、影の男は消し炭になることは免れたが、次の瞬間、先ほどの俺の一撃によって上半身と下半身が二つに分かれ、カオリの一撃によって縦にも切り裂かれ、4つの肉塊となって地面へと崩れた。


 しかし驚くべき事に、この男の左上半身につながった首はまだ絶命しておらず、しゃべることができたのだ。

「驚いた。まさか魔王軍将軍のこの俺が、たかが人間にここまでやられるとは……

 次に会ったときにこの借りは返させてもらうぞ!」


 そう言うと男の首がつながった左上半身はかき消すように消えてなくなった。


「空間転移系の瞬間移動のようね」

 カオリがぽつりと言う。


「ああ、それに魔王軍の将軍と言っていた。

 どうやらこの世界にも魔族の影が存在するようだな」


「ええ、調べてみた方がいいかもしれないわね。

 私たちが安全に元の世界に帰還するためにも……」



 俺たちはとりあえずまだ意識がある盗賊に尋問してみたが、仲間の一人に魔族が紛れ込んでいたのを知っている者は居なかった。






「あらためて、ありがとうございます。

 あのときは名乗ることがありませんでしたが、私は行商をしているルパートと申します」

「娘のラーニャです」


 行商人の親子が自己紹介をしてくる。

 俺たちも簡単に名を告げる。

「冒険者のトキヒロです」

「同じく冒険者のカオリです」


「ところで、ルパートさん。

 この辺りに魔族が出ることはよくあるんですか」

 俺の問いにルパートさんは即答する。

「いえ、聞いたことがありません。

 私が知る限り、魔族はずっと西の大陸にいて、150年ほど前に攻め込んできたのが、最後の魔族戦争だと思います。

 そのときはいくつかの国が勇者召喚を行い、何とか魔族を撃退したと聞いています」


 なるほど。

 ここで勇者召喚とつながるわけだ。

 そもそも勇者はあの魔族の連中と戦うために召喚された訳か。

 それを魔族との戦争がなくなった現在は人間同士の戦争に使っている。

 ひどい話だ。


「ところで、お二人の魔星草探しは順調ですか?」


 俺が考え込んでいると、ルパートさんが声をかけてきた。

「いえ、かなり集まったのですが紫と白の二色の魔星草がなかなか見つかりません」

「特に、白い花は7日間も探してまだ一本も見つかっていないんです」


 俺とカオリが答えると、不思議そうにルパートさんは俺たちの足下を見つめる。

「そうですか……

 でもトキヒロさんの靴ヒモに引っかかっている魔星草の花は白いように見えるんですが……」

「「えっ」」

 ルパートさんの言葉に俺とカオリの声が重なり、視線が俺の靴へと集まる。


 そこには確かに白い魔星草が一輪、靴紐に絡みつき、淡い白光を発していた。







また予定外のキャラを出してしまいました。

着地点が見えない作品は書いていてどっちに転がるか分からなくなりますね。

とりあえず少しずつ話を進めていこうと思います。

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