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第34話 ガトラン草原にて (主人公視点)


 魔星草の採集に来て早3時間。

 道具屋の老婆から聞いた場所はこの辺り一帯だと思われるが、目的の魔星草はまだ一本も採集できていない。

 花の時期もちょうど今頃が最盛期だと言うことなのに、ここまで見つからないものだろうか。

 光るのなら簡単に見つかりそうなものである。


「無いわねえ……」

「ああ、ないな……」


 もう何度このやりとりを繰り返しただろうか。

 俺とカオリは高速で夜の草原を駆けながら、ひたすら光る花を探している。


 グルルルッ


 低いうなり声を上げて、魔獣とおぼしき熊のような生き物が暗闇から飛び出してくるが、問題なく仕留めていく。今夜5頭目の獲物である。

 どうせ大量の魔石が必要になるので、薬草探しのついでに魔物から魔石をいただこうとは思っていたが、これでは魔石は集まっても肝心の魔星草が見つからない。


「何か、根本的な間違いをしているんじゃないかしら……」

 熊をさばきながらカオリがぽつりとつぶやく。


「間違い?」

 独り言とも取れるカオリのつぶやきに、俺が反応する。


「ああ、聞こえちゃった?

 たいしたことじゃないんだけど、私たちがこれだけ広範囲に探し回っても、夜に光る花が見当たらないって頃は、何か致命的な情報不足があるかも知れないって思ったの」


「致命的な情報不足って?」

 俺が聞き返す。


「そうね……

 例えば、場所を聞き間違えたとか、花の時期を間違えたとか、咲く時間帯が限られているとか…」


「うーん、どうだろう。

 道具屋のお婆さんの話ではこの辺りの今の時期になら、かなりの数があるはずだってことだったと思うけど……」


 俺たちは熊を血抜きしている間、二人で座って考え込んでしまった。


 向かい合って座っていた俺たちだったが、その時カオリの肩越しに淡く赤色に光るものが見えた気がした。

「んっ?

 あれ何だ?」

 ぽつりとつぶやく俺の声に反応して、俺の視線の先を読み取ったカオリも後ろを振り向く。


「何か地面付近で光っているみたいね。

 行って見ましょう」


 俺たちは膝丈ほどの草が生い茂る草原をかき分けて、地面付近の光の元を探す。

 そこには、スミレに似た小さな赤い花が、淡い光を発して可憐に咲いていた。

「これかな?」

「そうね…。

 他に光っている花がない以上、これでしょうね」


 その花は、野生種のスミレに似た小さい草本類で、花弁は5枚あり、それがあたかも五芒星の魔方陣のように光を放っている。

 花の直径は1cmもあるのだろうか。


「見つからなかったはずね……

 こんなに小さければ、草をかき分けないと見えないわ」

「ああ、もう少ししっかり話を聞いてから探しに来るべきだったな。

 しかし、もう分かった。これからは草をかき分けながら視線を低くして探していこう」

「分かったわ」

 俺は、カオリと打ち合わせすると、地面ぎりぎりに咲いている魔星草を必死に探す。


 コツさえ分かれば発見も用意かと思われたが、元々たくさんある花ではないようで、草をかき分けながらの作業は思いの外はかどらない。

 時折襲いかかってくる魔物も邪魔になり、結局この日は赤い花15輪、緑の花3輪、黄色い花2輪、紫の花1輪の計20輪が見つかっただけだった。

 各色を100輪ずつ、合計700輪の目標には遠く及ばない。


 とりあえず道具屋で買った袋に花を詰め込むと、時間停止効果のあるアイテムボックスに保存した。




 翌朝、俺たちは道具屋のお婆さんを訪ね、採取した花が、本当に魔星草かどうかを見てもらった。


「あんたたち、たいしたものだね。

 あの見つけにくい魔星草を一晩で20輪も集めるなんてすごいよ。

 どうするね?これを使って早速魔法インクを調合するかい?

 これだけ赤い魔星草が多ければ、火魔法関係の魔方陣はかなりいいものができると思うよ」


 道具屋のマーサさんは楽しげに提案してくるが、俺たちの目標はあくまでも万能タイプの魔法インクだ。

「ありがとうございます。

 せっかくの申し出ではありますが、俺たちは全ての花の色を均等に混ぜて魔法インクにしたいので、これはしばらくアイテムボックスで保管します。

 コツも分かってきたので、今晩からはもっとペースを上げて集めます。

 それほど時間はかからないと思います。」

 俺たちは礼を述べて道具屋を出ると、夜まで休める宿屋を探して町へ出た。


 冒険者の中には主に夜活動する人もいるので、日中に休める宿も冒険者ギルドの近くにいくつかあると言うことだった。


 適当に当たりをつけてギルドのはす向かいにある大きめの宿のドアを叩く。


「いらっしゃいませ」

 宿のクロークから若い女性の声がする。


 見ると、女性と言うにはいささか幼すぎる、年の頃なら10歳前後の少女がいた。


「すまないが夜まで休める部屋はあるか?

 一人部屋を二部屋だ」

「はい、あと30分ほど待っていただければ、只今清掃中の部屋が空きます。

 それでよろしいでしょうか?」


 俺の問によどみなく少女が答える。

 俺はカオリと相談し、この宿で部屋が空くのを待つことにする。

「ああ、それでいい。

 待つあいだに食事は取れるか?」


「はい、朝食の準備はできています。

 そのドアの向こうが食堂になっています。

 料金は、夕方までの休憩が5000ゼニー、朝食が1000ゼニー、お二人でしめて12000ゼニーになります」


 幼く見えるのに、計算は速いようだ。

 俺たちは二人分の料金を払うと朝食を取り、夕方まで休むことにした。







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