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第33話 ガトランへ (主人公視点)


 俺たちは魔星草の情報をくれた商人親子に礼を言い、翌朝早く南へ向けて出発した。


 ここ、エルンストから南南東の方向へ伸びる街道を道なりに進むとガトランとの国境にたどり着く。

 馬車で4~5日はかかるという道を、ステータスにものを言わせて疾走した俺たちは、その日の夕方には国境の検問へとたどり着いていた。


 東のイースランドとの国境は厳しいチェックがあるようだが、ここ、ガトラン共和国との国境は平和なものである。


 冒険者証を見せてガトランの草原で素材の採集をすることを伝えるとあっさりと通過することができた。



 ガトラン側の国境には商店と宿屋が何軒か集まった宿場があり、ここで当面必要な金子を両替しておく。


 単位は同じゼニーだそうだが、国境を越えたことで紙幣や貨幣のデザインが変わり、それぞれの国内ではその国の通貨しか流通していないということだ。


 両替の手数料は1パーセントとわずかなものだったが、ちりも積もればそれなりの金額となるので、当面の宿泊や食事で必要となりそうな分だけを両替する。

 ついでに魔星草の情報を聞いてみたが、両替所の職員は、あいにく詳しくはなかった。

 代わりに、道具屋の店主が何か知っているかも知れないという情報をもらい、宿場町にある雑貨店のような道具屋へ向かう。


「こんにちは。

 魔星草のマジックインクを探しているんですが、在庫ありませんか?」

 俺は、カウンターに座っている老婆へ声をかける。


「普通の魔法インクならあるけど、魔星草のはおいていないね。

 あれはよほど大きな魔法を使うときにしか使わないから受注生産だよ。

 あんたたち、冒険者のようだけど何に使うつもりだい?」


 老婆は訝しげに俺たちに問う。

「実は俺たち魔力量が人より多いみたいなんで、大規模な狩りに使える魔法陣を研究しているんです。

 普通のインクで試してみたんですが、二人の魔力をあわせるとインクが蒸発してしまって使えませんでした」


「その若さで、たった二人で魔法インクを蒸発させてしまったのかい!?

 たいした魔力量だねぇ……

 あれは普通の人間なら10人分の魔力を通しても大丈夫なんだけどね……」

 老婆は驚いた様子で、目が見開かれている。


「本当ですよ。ちょっとやってみましょうか?」

 カオリも俺の話にあわせてくれ、行商の親子から買い受けたインクとペンを鞄から取り出す。


「ああ、是非見てみたいものだね。

 場所はそこの石机を使っておくれ」


 カウンターの横に置かれたストーンテーブルは、いくつかの商品が乗せられていたので、とりあえず魔方陣が書けるように移動させる。


 カオリは石の机に直径30cmくらいの複雑な魔方陣を描いていく。

「劣化防止の魔方陣よ。商品の劣化を遅らせる効果があるの」

 こっそりこっちを向いて小声で教えてくれた。


 魔方陣が完成すると、二人で魔方陣の中心に手のひらを当てて魔力を注入する。

 本当は一人でも簡単に目的の魔力量は出せるのだが、さっき老婆に言った離しにあわせて、二人の共同作業にして見せた。


 魔方陣はものの数秒で俺たちの魔力量に耐えきれなくなり崩壊するように蒸発してしまう。


「あらまぁ、本当に消えちまったよ。

 すごいね、あんたたち。

 あんたたちになら魔星草のインクを作ってやってもいいよ。

 その代わり素材は持ち込みだよ。

 それと、魔星草のインクにあんたたちが魔力を流すところを見せておくれ。

 それができれば、インクの調合代は安くしといてあげるよ」


「お婆さんは調剤ができるんですか。

 是非お願いします」

 老婆の話にカオリが勢い込んで食いつく。


「インクの調剤は複雑でデリケートな作業なのよ。

 私がやってもいいけど、たぶん完成までに何度も材料をダメにすると思うから、プロにお願いできるならその方がいいのよ」

 いぶかしげな俺の視線に気がついたカオリが教えてくれた。


「採集に当たって魔星草の特徴を教えてくれませんか」

 俺が問うと、老婆はなんだそんなこともしらなかったのかと言いたげに説明してくれた。


「あの魔草は花が夜に光るんだよ。

 青、赤、黄、緑、橙、紫、白の7色の花があってそれぞれ得意な属性があるみたいなんだけど、全種類均等に入れると全ての魔力に対応できるすごいインクになる。

 けど、量が必要なら花が百輪はいるから、全種類となると七百も花を採取しないといけなくなる。

 夜に採取して、翌朝すぐに調剤をはじめないと性能が劣化する。

 しかも、魔星草が生える草原は夜ともなると結構強力な魔物がうろつくから、なかなか難しいところだね。

 昼間はよく似た他の花と見分けがつかないから、夜に採取するしかないしね。

 何でも星草という植物が魔力を帯びたものが魔星草で、昼間は星草と魔星草の区別がつかないらしいよ」


 なるほど、これは確かに難しい任務だ。

 もっとも時間停止のアイテムボックスで保管すればいいだけのような気もする。

「あの、アイテムボックスに保存しておいたら日持ちしませんか?」

「おや、あんたはアイテムボックスのスキルまで持っているのかい。

 それなら数が集まるまでゆっくり採取できると思うよ。

 けど、花はできるだけ潰さないように取ってきておくれ」

「分かりました」


 俺たちは魔星草を入れる大きな袋を老婆から買い、個数制限のアイテムボックスへ収納すると、夜の草原へと出発した。

 今日は徹夜で魔星草集めだ。

 宿を取る前に情報を仕入れることができてよかった。

 宿代を無駄にせずに済んだ。





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