第25話 戦争の影響 (主人公視点)
「そうかい。
それじゃあ、話を聞いて、もしよかったら少しでもいいから手伝っておくれ」
受付のおばちゃんはそう言うと話し始める。
「実はこのラディーの村は西のエルンの街の穀倉地帯になっていて、街に小麦や野菜を供給している一大産地なのさ。
北に見える山と森からきれいな水が川になってここに流れ込むから、美味しい作物が取れるんだよ。
ただ、その山の麓に魔物の湧く洞窟があってね、放っておくと森から溢れた魔物や魔獣に作物や人がやられちまうんだ。
そこでエルンの街の領主様が街のギルドの支部をここに作って、冒険者を使って定期的に魔物の駆除をしていたんだが、戦争に行った方が金になるとかで、この村の冒険者がほとんどいなくなっちまって、最近農作物被害が増えてきたから、人に被害が及ばないうちに、街のギルドに応援要請を出したのが1週間前さ」
「なるほど、依頼は出したけど誰も来てくれなかったところに俺たちが来たというわけか」
「ああ、そういうことさ。
この辺りの魔物と魔獣はあまり金になる奴がいないんで人気が無いんだ。
そういうわけで報酬もたいした額はないんだが、Dランクならちょうど無理せず戦えるくらいの魔物だから何とかお願いできないかね…」
おばちゃんの説明でだいたいの状況は察したが、まだ不明な点がある。
本当に危険がないのかと、それほど弱い魔物なら何故元から絶たないのかと言うことだ。
「二つ質問がある。
出てくる魔物や魔獣の種類と、根源のダンジョンを叩かない理由を教えてくれ」
俺が尋ねるとおばちゃんは首をかしげる。
「魔獣の種類は緑色ゴブリンと無色スライム、角ウサギがほとんどさ。
ダンジョンってのは知らないね。なんだい?」
逆に質問で返された。
洞窟から出てくると言っていたが、ダンジョンではないのだろうか?
俺が聞くとおばちゃんから予想外の答えが返ってきた。
「ああ、洞窟のことをダンジョンって言ったのかい。
洞窟は洞窟さ。
中が迷宮になっているかどうかは分からないけど、ただの洞窟でそこから魔物や魔獣が出てくるんだよ。
中に入った冒険者がほとんどいないから内部はどうなっているか分からないね。
弱い魔物でも数で押し切られたら命が危ないからね。」
なんと、未探索のダンジョンかも知れない。
俺は本当に中に入った冒険者がいないのか確認すると、おばちゃんは少し考え込んで答えてくれた。
「パーティーの連中の制止を聞かず、中に入った命知らずの強者もいるにはいたらしいが、帰ってきた奴は知らないね。
それに、この国じゃあ似たような洞窟はいくつかあるが、他の所も中まで入った冒険者はいないと思うよ。
とりあえず、森に出てきた奴の数を減らして欲しいんだ」
俺はカオリを見てつぶやく。
「こんな所にも戦争の影響が出ていると言うことかな?
どうする?」
「Dランクでちょうどいいくらいの魔物なら、それほど時間もかからないんじゃないかしら。
ろくでもない為政者が始めた戦争の被害が一般の人の生活に影響してしまっていると言うことなら、私は寄り道してもいいと思うわ」
「分かった」
俺たちはラディーの村のギルド支部で依頼を引き受け、森の魔物の駆除にあたることにした。
「ありがとうよ。
ギルドカードはエルンの街のギルドと同じでいいよ。
他の街のギルドじゃ使えないけど、ここはエルンのギルドの支部だからね、同じカードで大丈夫さ」
俺たちはギルドカードをおばちゃんに渡す。
おばちゃんは受付が終わったカードをすぐに返してくれた。
「それじゃあ、気をつけていっといで。
あたしゃ、マルンって言うんだ。
普段はここから西に少し行った畑で野良仕事をしていることが多いから、もし受付に誰もいなかったら畑の方に来てあたしをよんどくれ。
そういえばあんたたち、休憩に酔ったって言ってたね。
出発前に紅茶でも出すから、飲んで行きな。
あたしのおごりだよ」
俺たちはマルンおばちゃんのご厚意に甘え、紅茶とパンケーキをいただいてから出発した。




