第20話 真夜中の異世界脱出 第一陣 (アイネ視点)
何とか次元を超えるテレポーテーションに成功した。
正直に言えば、位相操作はあまり使いたくない。
現在の科学文明で解明されていない宇宙定数に干渉する能力らしいので、何が起こるか分からない。
下手をすれば、自分に銃口を向けて引き金を引くようなことになるかも知れないのだ。
今回はたまたまうまく使えたが、他の用途で使うときはできる限り危険を軽減できるよう、配慮する必要がありそうだ。
私が考え込んでいると、香澄ちゃんが声をかけてきた。
「大丈夫、藍音ちゃん。
このまま生徒たちをエリアテレポートさたいんだけど…」
私は思考を切り替える。位相操作の危険性はしばらく考えないこととしよう。
「ええ、体力的にも魔力的にも問題ないわ。
ところで、香澄ちゃん。
生徒さんたちに私のことはなんて言うつもり?」
「そのまま正直にお友達の藍音ちゃんじゃダメ?」
「それだと、日本に帰ってから私たちの能力、特にESPが世間一般にばれることになるんじゃないかな…」
「そうだけど、これだけの生徒が召喚されてそれぞれに日本じゃあり得ない能力を持っちゃってるんだから、もう仕方なくない?
この世界はESPで説明できない魔法であふれかえっているわよ」
「そうだけど、召喚魔法見る限り用途が限定されている魔法が多いんじゃないかな。
使い勝手が悪くて応用が利かないような魔法が多いのなら、私たちがESPを使えることは伏せた方がいいと思うわ。
サイコキネシス一つとっても、応用が利きまくるから、他の能力に比べて以上に強いことがバレルとまずくない?」
「そう言われるとそうかも…
私の空間転移も使い勝手はかなり悪いし…
じゃあ、どうする?」
私は、数分のあいだ考え込んだ。
「私は良心的なこの世界の魔術師か祠祭で、送還魔法が使えるって設定で、召喚された人たちが気の毒で送り返すのに協力したという設定で行きましょう」
「具体的にはどうやるの」
「まず、このシーツを頭からかぶり、ローブのように見せかけ、こちらの世界の魔術師になりすますのよ。
そしてテレポートの前にもっともらしい呪文を唱えて、いかにも送還魔法を使っているように見せかけるの」
「うまく行くかな?」
「まともにやってバレルよりましよ。
それじゃあ早速やってみましょう」
私は手近な部屋からクレヤボヤンスで覗き、学生服やセーラー服が掛けてある部屋を探す。
それにしても、今時、黒の詰め襟の学ランとセーラー服とは随分古風な高校だ。
「確認取れたわよ。高校生らしいのが止まっている部屋が38室あったわ」
「それで全員よ。それじゃあ起きている生徒の部屋へ片っ端からテレポートしてちょうだい。
まずはこの部屋に10人ずくくらい集めて、送還していきましょう」
「分かったわ」
私は香澄ちゃんを伴い、起きている生徒の部屋に飛び、香澄ちゃんから重要な話があることを伝えてもらうと、再び香澄ちゃんの部屋へ生徒を連れてテレポートする。
10人集まったところで状況を説明し、日本へ送り返すことを告げると最初のグループはみんな喜んでいた。
早速最初の10人を元いた教室へ送り返すことにする。
香澄ちゃんと目で合図し、でたらめの詠唱を開始する。
呪文のモデルは前の召喚時の魔法大全の台詞を拝借するとしよう。
「それでははじめます。
真理の探究者たる我が名をもって命ずる。
万物の真理より彼の者たちの世界へとつながる道を示し、我が前方1メートルの空間にゲートを開き彼の者たちを彼の地へと誘いたまえ。
我が名はアイネリア。栄えあるアルタリアの祠祭なり。道よ開け!」
呪文に会わせ位相操作を発動し、この世界と日本の教室をつなぐ。
私たちの目の前には空間が揺らめき、やがて生徒たちが召喚されることとなった教室がぼんやりと見えてくる。
呪文の最後の台詞と同時に、私はエリアテレポートを発動し、生徒と香澄ちゃんを教室へ運んだ。
「うそ…、ホントに教室」
「やったー。帰ってきたんだ私たち…」
生徒たちは真っ暗な教室でとても嬉しそうだ。
思わず涙を流している者、私に礼を言う者、様々だが、香澄ちゃんが声をかけ落ち着かせる。
「みんな、一刻も早くお家に帰りたいと思うけど、他のみんなも連れてくるからもう少しまってね」
「はい、分かりました」
「先生、どうするんですか?」
生徒たちは香澄ちゃんのことを心配している。
「私はこの祠祭様と一旦あの世界にもどり、他のみんなを連れてくるわ」
「危なくないんですか?」
「大丈夫よ。こう見えても先生は強いんだから。
みんないい子にして待っていてね」
香澄ちゃんは生徒たちに待つよう指示すると、私に合図を送る。
私はもう一度ニセの呪文を唱え、香澄ちゃんと一緒に異世界の王宮へと戻った。




