第19話 異世界脱出予行演習 (カスミ視点)
「それじゃあ早速試してみましょう」
「分かった。まずはクレヤボヤンスで、この世界から日本が見えるか確かめるね」
私が提案すると、すぐに藍音ちゃんは目をつぶって集中する。
1分ほどたったが、変化なし…
なにせ異世界だ。かなり苦労している。
「大丈夫、藍音ちゃん」
「うーん、やっぱり次元の壁みたいなものがあるのかな。
普通に見ようとしても方向そのものがどっちを見ればいいか分からないから見えないみたい。
クレヤボヤンスで見えないと言うことはテレポートもできないと言うことだと思うわ」
「次元の壁ってどんな感じ?」
「うーん…
3次元空間とは別の軸というか…
前召喚されたときに会ったアンドロイドのゴードンさんが5番目の次元軸まで解明したけど、まだ、5番目の軸に沿った移動はできないって言っていたじゃない。
ゴードンさんの話だと5番目の軸は、パラレルワールドって言うのかな…
そこへ移動する感じだと思う…」
藍音ちゃんはしばらく考え込むとぽつりと言った。
「ステータス…」
どうやら自分のステータス画面を開いて見ているようだ。
しばらく考え込んでいたが、何か思いついたらしく、私と視線を合わせてゆっくりと話し始めた。
「一つ可能性を見つけたの…
危ないかも知れないけど試す価値はあると思う…」
「どんなこと?教えて」
「新しく覚えたスキルの位相操作を併用してみる方法よ。
位相操作は次元の存在をずらすスキルだから、現存空間から次元をずらし、そこを中継してもう一度次元をずらせば、次元の壁の向こう側が見えるかも知れない…」
「うまく地球の空間につながるの?」
「分からないけど、召喚魔方陣で超えられたと言うことは比較的近い次元に存在している可能性もあるから、見つかるまでやってみるわ」
そう言うと藍音ちゃんはまた目をつぶって集中をはじめる。
「それじゃあお願い。頼むわよ」
私には見守ることしかできない。
私は、藍音ちゃんの隣に立ち横から見つめていると、藍音ちゃんの前の空間が揺らめいたように見え、更にその揺らめきの先に別の景色が映りはじめる。
いくつものぼんやりとした景色が切り替わって行く中、何か見覚えがあるような建物が見えたと思ったところで、景色の切り替わりが止まった。
「見つけた…
たぶんここよ。都庁みたいな建物が見える…」
「やったわね。後はテレポートできるかだけね」
「そうね、香澄ちゃん覚悟はいい。
何が起こるか分からないわよ…」
「大丈夫よ。
いざとなったら空間転移で逃げるから早速やってみて」
「わかった。
いくよ」
藍音ちゃんの言葉が終わると同時に世界が揺らめき、私は藍音ちゃんと一緒に自分の部屋へ戻ってきていた。
「やったね、成功だわ」
「ええ、かなり集中力がいるけど魔力的には十分足りているみたいね」
「あとは、私のクラスの生徒と一緒に超えられるかどうかだけだわ」
「ちょっと待って、魔力量を確認するから。
ステータス…」
藍音ちゃんは残存魔力量を調べているようだ。
「指数表示でわかりにくいわね…
これって棒グラフみたいな表示にはできないのかしら…」
そう言うと自分のステータス画面に集中したようだ。
「できた。
使用量と残存量が分かるように棒グラフ表示に切り替えできたわ」
「それで、どんな感じなの…」
「少し減っているみたいね。
元の量がとても多いからほとんど減っていないように見えるけど、たとえ1%減ったとしても、普通の魔力量の人ならとても補いきれないような魔力の量のはずだから、正直どれくらいの魔力消費があったのかこれじゃあ分からないわ」
「生徒40人とテレポートできそう?」
「たぶん問題ないわ。
決行はいつ?」
「早いほうがいいわよね。
生徒の保護者の方も心配しているはずだから、今から生徒たちの部屋をまわって説得しましょう」
私たちは再び次元を超えて私があてがわれた王城の部屋へと移動した。
地球時間で午後11時、早い子は眠っているかも知れないが気にしている場合ではない。 荒野へと旅だった関谷さんをのぞく38人の生徒を一人一人まわって説明するのだ。
藍音ちゃんには迷惑をかけるがここは頼りにさせてもらうしかない。
おそらく同じ並びにあるであろう生徒の部屋を一つずつ透視してもらい、私と藍音ちゃんは監視がいないことを確認してから一部屋ずつテレポートで訪問することにした。




