最終話 (第109話) エピローグ ~そして時は廻りはじめる~
(カスミ視点)
最終的に私たちのレベルが10に達する頃合いで、トキヒロ君のレベルが100を越え、彼は自分の世界に帰ることが叶った。
心なしか、関谷さんが泣きそうだったのが印象深い。
ここまで来るのに半年ほどかかり、日本は夏休みを迎えていた。
高校3年生の夏は忙しい。
夏休み期間中にもかかわらず、進学に向けて平日はおろか土日さえも補習補習で鍛え抜かれる。
もちろんそれを指導する私たち教員にも休みはない。
そんな忙しさに紛れて、私は異世界召喚騒動がだんだんと過去のものになっているのを感じていた。
そして……、
そんな喧騒の中の8月のある暑い日、私は教頭先生から応接室へと行くように呼び出されたのである。
(関谷香織視点)
結局、あの召喚騒動は私にとって何だったのだろう。
以前に巻き込まれた後味の悪い召喚事件に比べると、悪は滅びて異世界は自己再生の行程に入った状況というそれなりの結果だ。
香澄先生達と一緒にヒロを手伝った螭の洞窟の探索も終わり、ヒロが自分の世界に転移して帰ってしまったときには、知らず知らずのうちに涙がこぼれていた。他の人に見られなかったか心配だ。
初めて対等に話せる同世代の異性。
それだけではないような気がする。
私にとってヒロはどういう人だったのだろうか。
結局今となっても、自分でもよくわからない。
「もしかして、惚れてたのかな……」
私は誰にいうともなしに呟きながら、学校への道を歩く。
今日は夏休みが終わり、2学期の始業日なのだ。
と言っても三年生の夏は補習三昧で、昨日も登校していたのだが……
一緒に異世界に召喚されたクラスメート達とも夏休み中毎日のように顔を合わせていた。
特に仲のいい人がいるわけではないが、彼らが異世界での能力にどう向き合っているのか、どう周りと調和をさせようとするのか、この半年、異世界体験の先達者としてことあるごとに相談に乗ってきたためそれなりの仲にはなっている。
ビッチーズは真の私の能力がわかり、クラスではおとなしくしている。
もっとも香澄先生にも頭が上がらないようで、最近は服装もまともに近づきつつあるのだが……。
唯一空気を読まない勇者、大塚正義はまだ諦めきれていないようで、時折体育館裏の目立たない場所で魔法やスキルの練習をしているようだ。
久しぶりに早い時間に入る教室は、早めに登校していたクラスメート達が既に何人か夏休みの思い出に花を咲かせている。毎日のように補習があった3年の夏に、一体どこで羽を伸ばしたのだろう。
徐々に人が増えて、やがて始業のチャイムが鳴ると、相も変わらず年より若く見える香澄先生がクラスへ入っていた。
「みんな、おはよう!」
「「「「「おはようございます」」」」」
「今日は、このクラスに新しい仲間が加わることになりました」
元気に挨拶を交わした後、香澄先生の一言にクラスがざわめく。
三年生の二学期に転校生とは珍しい限りだ。
「それじゃあ、入ってきて」
香澄先生の言葉で入ってきたのは、すらりとした男子生徒だった。
私はこの男子生徒を、どこかで見たような気がした。
いや、見た目はかすかにどこかであったかなと言う程度だが、その雰囲気はどこか懐かしい感じがする。
「それじゃあ、自己紹介してちょうだい」
香澄先生の言葉に頷くと、男子生徒は落ち着いた様子で黒板に名前を書き始めた。
私はその文字を見て目を見開く。
「九州から転校してきた霞寺時祐といいます。
3年のこの時期に珍しいとは思いますが、卒業までよろしくお願いします」
そう言って頭を下げた霞寺君と、彼が顔を上げたところで目が合った。
霞寺君の顔が思わずほほえむ。
私も知らず知らず微笑みを返していた。
「それじゃあ、霞寺君の席は関谷さんの隣ね」
「はい」
返事をした転校生が鞄を持って私の方へ歩いてくる。
そして、席に着くそのとき、小さな声で私だけにわかるように声をかけてきた。
「カオリ、またよろしく頼む」
「ええ、こちらこそよろしくねヒロ」
私たちの会話は、香澄先生の朝の連絡に紛れて周囲に伝わることはなかった。
【完】
【執筆後記】
胎児転生から切り離した部分に、新主人公「トキヒロ」を立てて連載開始した本作ですが、本話をもって一応の終了となります。
執筆中に出てきた魔王軍や隣国との戦争などももっと話数をさこうかとも考えたのですが、本作はあくまでも王国が行った召喚に巻き込まれたトキヒロの帰還をゴールと定めた作品でしたので、霞寺時祐がジェフリー・ミストの未来の姿で登場した時点で、それ以上の異世界での活躍は蛇足と判断し、王国での顛末は出来るだけ簡潔にまとめさせていただく形としました。
カオリとトキヒロの関係ですが、なかなか上手く深めることが出来ずに、最後の別れのシーンでのみカオリが涙を流すという描写にとどめました。
これは、裏設定として、ジェフリーには魔王討伐時の仲間に心を寄せていた女性がいたということと、霞寺時祐が蘇生した後に、同級生として関谷香織との仲が進展するという可能性を残すためのものでした。
ジェフリーが帰還したときに両親に彼の死を報告に来ていた、アーチャーのサーシャがその人です。
前作組の藍音と香澄は本作でも大暴れしてしまいましたが、元々は胎児転生現代編異世界召喚の章みたいな形で、藍音が王国の野望を切り伏せるという話を考えていたせいもあります。
胎児転生の初期プロットで執筆できていない部分は、これをもって現代編星間戦争の章だけとなったのですが、これについては未来世界でローミラールと派手にやり合わせたため、今のところ執筆する予定はありません。
仮に執筆するとしても、一つの連載作品とするほどの量は無いので、本作のように別主人公を立てた作品にするか、短編にするかだと思います。
ただ、本作で藍音の能力が更にぶっ壊れた最強設定となってしまったので、この状態で星間戦争してもライバルと言える相手がいない可能性が高いかなと思っています。
今の藍音なら宇宙そのものを破壊することも可能でしょう。
いずれにしても、切り離した部分を組み立て尚した短期連載と思っていた作品が、あわや本編に迫るという話数まで伸びてしまい、プロットが完成せずに執筆を開始することの無謀さを痛感しています。
最後になりましたが、ここまでご愛読いただいた読者の方には心からお礼申し上げます。
ありがとうございました。
またいつか、別の作品でお会い出来るのを楽しみにしています。
【追記】
現在連載している2作品のうち、最新作は、あまりにも傾向が違うため胎児転生の雰囲気を好まれる方には合わないかも知れません。
変身ヒーローはこちらの更新を優先したため、現在更新が止まっています。すいません。
その内再開します。
胎児転生より前に書き始めて公開していない『リーピート勇者』はプロットが固まらずに未だ連載開始できていません。
その内、公開したいと思います。




