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第105話 螭の巣、壊滅作戦 (主人公トキヒロ視点)


 闇螭を倒して更に1時間、螭の洞窟を下へ下へとおりる。

 途中に出てきた螭は風や火の螭が多く、レベルも一桁のものがほとんどだったためあれ以降レベルアップはしていない。

 今日のこれ以上のレベルアップはダメかと思ったとき、5つの方向へと洞窟が分かれる小空間へと出た。


 5つの洞窟のうち3つから敵性反応がある。

「3方向から敵意を感じるわ。気をつけて」

 香澄さんもエンパシーで螭を感じたようだ。


「真ん中の洞窟の反応が一番大きいみたい。

 見えたらすぐ鑑定して見るわ」

 カオリはそう言うと剣を中段に構えて真ん中の洞窟を向く。


「気をつけろ、左から2番目の洞窟の奴が先に来る」

「そっちはまかせて」

 俺の言葉に藍音さんが抜剣してカオリの左へ向かう。

「それじゃあ、私が右の奴ね」

 香澄さんも剣を抜き、一番右の洞窟へ相対する。


「2人とも、倒す前にサイコキネシスで固定できるか。レベル確認したい」

 俺の言葉に香澄さんと藍音さんが頷く。


 作戦が決まったと同時に藍音さんの担当の洞窟から青い螭が現れた。

 早速藍音さんがサイコキネシスで空中に個体する。

 俺が鑑定すると、レベルは9だった。


「そいつは鑑定が終わったからもういいぞ」

「それじゃあさっさと刻みましょう」

 俺の言葉に藍音さんが螭を難なく両断する。


「こっちも来たわよ」

 香澄さんの言葉に振り向くと、赤い螭が一番右の洞窟から現れる。

 早速鑑定するとこちらはレベル8のようだ。


「そいつも鑑定し終わった。後はまかせる」


「こっちも来たわ。

 えっ?

 レベル20!

 今までで最高レベルの光螭よ」

 カオリは中央の洞窟から出てきた一際大きな白い螭と相対しながら叫ぶ。


「加勢する」

 俺は瞬間で抜剣してカオリの右隣に立つ。


 こいつは魔法耐性に加えて普通の斬撃はほとんど効果がないことがわかっているが、藍音さん特性の刀は通用する可能性がある。

 藍音さんと香澄さんの太刀筋は西洋剣の叩きつけるようなものではなく、日本刀の動き、引き切る感じだ。

 俺やカオリの剣は形状が西洋の諸刃の直剣で、本来は前者のような使い方をするべきだが、ここは敢えて後者のような剣使いを試みる。


 そりが全く無い直剣ではなかなか難しい動きだが、俺は光螭の巨大な顔に、上段から引き切る動きを加えて一撃をたたき込む。


 結果は、今まで全く傷つかなかった螭の額を割ることが出来た。

 しかし、浅い。

『ぎゅおおおおーーーーーん』

 奇怪な鳴き声を上げる光螭を横目に、カオリへ指示を出す。

「カオリ、剣を引く感じでたたき込め。

 完全ではないがいくらか太刀が通る」

「わかった。やってみる」


 俺が螭を牽制する中、カオリが俺の切ったところと全く同じところに一太刀浴びせる。

 寸分違わぬその斬撃に、螭の額が大きく割れ、内容物と思われる不気味な臓器が傷口から溢れる。あれは螭の脳髄なのだろうか。

『ぎゅおおおおーーーーーんんん』


 未だに致命傷に至っていないのか螭は激しく暴れるが、俺達のつけた傷によって顔面に大きなひびが入っているのが確認できる。


「もう少しだ。攻撃を続けるぞ」

 言うやいなや、ジャンプ一番、俺はカオリが深めた傷口に渾身の一撃を見舞う。

 更にその直後に、カオリが全く同じ軌跡の剣戟を加える。

『ぎゅぎゅっ…………ぎゅぎゃぁぁぁがぁぁぁぁーー』


 螭は顔面を二つに割られて断末魔の咆哮を残して力尽きた。

 瞬間、俺達にレベルアップの感覚が訪れる。

 俺達はレベル9に至った。

 しかし、目標となるレベル3桁はまだまだ遠い。



「そっちも終わったようね」

 それぞれの洞窟の螭を倒した藍音さんと香澄さんが合流した。



「さて、それでどの洞窟へ進む」

 香澄さんの言葉に俺とカオリは迷わず光螭が出てきた真ん中の洞窟を指指す。

「こっちだ。

 この洞窟から出てきた奴が一番高レベルだった。

 効率よくレベルを上げるために、レベルの高い螭を狙いたい」

 俺の言葉に他のメンバーが頷く。


「それじゃあクレヤボヤンスで少し先まで遠視してみましょう」

 藍音さんは俺が指指す洞窟へ意識を集中する。


「どうだ」

 俺の言葉に藍音さんは見えている状況を伝える。

「途中100メートル置きくらいにいくつか分岐があるわね。太い方の洞窟を追ってみたけど、8回目の分岐の先に大きな空洞があって、そこにたくさんの螭が確認できるわ」

「なるほど。

 そこが螭の巣と言うことか。

 レベルアップのためにも叩いておきたいな」

「けど、かなりの数よ。

 大丈夫?」

 俺の言葉に藍音さんが心配する。


「いざとなったらテレポートでの脱出を頼む。

 どのみちもっとレベルを上げる必要があるんだ。

 避けては通れないさ」

「わかったわ」


 俺の言葉に他のメンバーが頷くのを確認し、俺達4人は洞窟の奥へと歩みを進める。

 途中、3度ほど螭に出くわしたが、危なげなくたたき切り、俺達は巨大な空洞に出た。

 洞窟はヒカリゴケでぼうっと明るいのだが、この洞窟は直径100メートル以上あるようで、光が十分に届いていない。


「ちょっと明るくするわよ。ラージライト」

 カオリが光魔法を発動し、空洞の中央に光源を発生させた。


 瞬間、その異様な光景が俺達の眼前に広がる。

 今俺達がいるのは楕円球の巨大な空洞の中腹だ。奥行きは300メートル以上あるのではなかろうか。

 足下は急勾配の崖になっている。


 空洞の天井にはいくつか縦穴が空いており、そこから時折、ゴブリンや角ウサギなどおなじみの魔物が落下してくる。


 そして圧巻なのは床に当たる部分だ。

 そこには床一面に隙間なく色とりどりの螭が敷き詰められていた。

 螭達は天井から落ちてくる獲物を我先に争ってむさぼり食っている。


 中には獲物を奪い合う争いで傷ついた仲間を共食いしようとしているやからもいる。


 獲物の絶対数が少ないため、この空間から脱出を試みる個体もいるようで、壁面をよじ登りながら横穴に入って行く螭も見受けられる。


 ちょうど俺達の真下に、中型の螭がこちらを目指して登ってくるのも見える。

 一体でも不気味な螭を数え切れないほど目の当たりにして、女性陣から声が漏れる。

「うわぁ……

 気持ち悪い……」

「そうね」

「鳥肌がたちそう」

 香澄さんの漏らした感想に女性陣はみな同意する。


「ヒロ、いくら何でもあの中に飛び込めば私たちも無事では済まないと思うわよ」

 カオリが引きつった表情でこちらを見ながら言う。


「全く同意見だ。各個撃破が望ましいが、これだけの空間だと降りたが最後四方八方から取り囲まれるな」


 俺達の言葉を受けて香澄さんが提案する。

「それなら、私にまかせて。

 あんなの巨大ブラックホールで一発よ」

 言うが早いか目の前に黒い球状の空間を出現させた香澄さんを藍音さんが全力で止めた。

「ちょっと待って、香澄ちゃん。

 ここであれを全部吸い込むブラックホールを作っちゃダメよ。

 洞窟が間違いなく崩壊するわ。

 それに、ブラックホールに吸い込んだ螭の経験値が入らないことは、最初に倒した入り口の光螭で実証済みよ。

 ここは時間がかかっても各個撃破しかないわよ」


「うっ、そうかな……

 けど、あの中に降りるの……」

 香澄さんが嫌そうに下を見る。


 こちらを目指していた螭の巨大な顔面と視線があってしまったようで、食料を発見した螭は登るスピードを一層早めた。


 あっという間に俺達の立つ横穴の高さに到達した螭は、巨大な顔面に不気味な微笑みを貼り付けながら大きく口を開け突撃してくる。

 瞬間、香澄さんの謎剣によって綺麗に顔面を両断され、そのまま下へ落下した。

 下では致命傷を受けた仲間を食料としか認識していない連中が、その遺体に群がる。


「取りあえず数を減らしましょう。

 何かいい案はある」

 藍音さんの言葉に一同沈黙する。


「基本的に魔法が効かない個体が多いからな。

 大規模殲滅魔法でも効果があるかわからない」

「けど、香澄先生達の超能力は問題なく効いていたわよね」

「そうだな」

 カオリの言葉に頷きながら香澄さんと藍音さんを見る。


「確かにそうなんだけど、ブラックホールじゃ経験値が減るし、パイロキネシスだと、一匹一匹にかかる時間がけっこう大変なのよね」

 藍音さんの言葉に再び場は沈黙する。


「他のESPで螭を倒せそうなのはないんですか」

 カオリの言葉に藍音さんと香澄さんが考え込む。

「そうね、倒せるかどうかはわからないけど、サイコキネシスで固定したり持ち上げたりは出来たわね」

「それを応用できないかな……」

 藍音さんの言葉に香澄さんが何か思いついたようだ。

「応用?

 応用ってどんな感じで?」

「例えばサイコキネシスで持ち上げて、螭どうしをぶつけるとか」

「出来ると思うけど、剣で切った方が早くない」


 2人の会話を聞いていて、一つのアイデアがひらめいた。

「それなら、サイコキネシスで持ち上げて一列に並べ、順番に俺達の方へ引っ張ってきて、片っ端から切り捨てれば早いんじゃないか」

 俺の言葉に話していた2人がこちらを向く。


「なるほど、それいけるかも……

 香澄ちゃん、崖の際際きわきわに立って、剣を水平に構えて」

 藍音さんの言葉に、香澄さんが移動して剣を構える。

「こう?」

「そうそう。

 それで、剣をもう少し角度つけて、そうね、30°くらいかな……

 うん、いい感じ……

 それじゃあ腰落として踏ん張っていてね」

「了解」


 そこまで言うと藍音さんはサイコキネシスで次々に螭を持ち上げ、真っ直ぐに伸ばして一列に並べ、香澄さんが構える剣に螭の額が当たるように制御して、どんどんぶつける。


 高速で剣へとぶつけられる螭は、綺麗に頭から二等分されて二枚におろされていく。

 すぐに10匹の螭は処理された。

「これは早そうね。

 それじゃあ、私と香澄ちゃんが螭を持ち上げて運ぶ役、トキヒロ君と香織さんは剣を構えて螭を二枚におろす役でいいかしら」

「了解」「わかりました」

 俺とカオリの返事を聞いて満足げに頷く藍音さんに促され、香澄さんと位置を交代する。

 剣を構えたところでふと疑問に思ったことを口にする。

「俺達の直剣であんなに上手く捌けるのか?」

 それを聞いていた藍音さん達はすぐに自分たちの剣を差し出す。

「それならもちろん、私たちの剣を貸すわよ」


 俺達はそれぞれ藍音さんと香澄さんの剣を受け取り配置につく。

「2人とも、螭が当たるときはかなりの衝撃だから、剣を落とさないようにしてね」

「わかった」「わかりました香澄先生」

 香澄さんのアドバイスに、俺は腰をしっかりと落とし両手に力を込めて剣を固定する。


「それじゃあ、香澄ちゃんは香織さんの剣に螭をぶつけてね

 私はトキヒロ君の剣に持って行くから」

「了解よ。

 取りあえず10匹ずついきましょう」


 そこから後は流れ作業だった。

 俺とカオリが構える剣に、不気味な声を上げながら螭達が吸い込まれるようにやってきて二枚におろされていく。

 10匹おろすのに20秒、10秒の休憩を挟んで繰り返す。

 1分辺り40匹が俺とカオリによって二枚におろされ、一時間もすると生きている螭はいなくなった。


「あははっ……

 一体何匹いたのかな香澄ちゃん」

「途中から数えるの辞めたからわからないよ」

「まあ、かかった時間から考えると2500匹くらいかな」


 香澄さんと藍音さんの会話を聞きながら、俺はふと気になってステータスを確認する。

「なっ、レベル31……」

 俺の言葉に他の3人の視線がこちらに集まる。

「えっ、ホント?それじゃあもしかして私たちも?」

 香澄さんはそう呟くと空中の一点を凝視する。

 どうやら自分のステータスを確認しているようだ。

「やった。上がった……」

「ホントですか、おめでとうございます。香澄先生。

 それでいくらなんですか」

「レベル3よ」

 香織の言葉に香澄さんはポツリと答えた。


 俺達がレベル30を越えるまでの経験値でも、香澄さんと藍音さんはレベルが2つしか上がらなかったと言うことだ。

 何にしても、今日一日で今までの苦労が嘘のようにレベルが上がった。

 しかし、これからは高レベルになったため、これ以上のレベルアップには時間がかかっていくことだろうと思っていると、カオリが何かを見つけたようだ。

「ちょっと、ヒロ、あの反対側の壁の下の方を見て、何かいるみたい」


 カオリの言葉にみんなが注目する。

「いってみましょう」

 言うやいなや、藍音さんがレビテーションで空中に飛び出す。




 そこには更に奥に続く洞窟を、その入り口で頭が引っかかってこちらに出てこられない巨大な螭がいた。

 どうやら、螭の巣はこれで終わりではないようだ。


 香澄さんは、洞窟の入り口に顔を押しつけて何とかこちらに通ろうとする巨大螭に、さくっと剣を突き立てる。

 レベルアップで三倍になった香澄さんの腕力は、易々と螭の額に剣を埋め込んだ。

『ぎゃおおおおううううおおぉぉぉーーー』

 螭は断末魔の叫び声を上げる。


「今日はここまでにしましょうか……」

 藍音さんの言葉に俺達はうなづき、素材として何体かの螭を選ぶとテレポートで洞窟を後にするのだった。








22日から3日ほど札幌に気分転換のスキーに行ってきます。

更新は予約投降で行います。

次回 106話は2月22日(木)17時更新予定です。


札幌の美味しいB級グルメとかご存じの方、情報下さい。


先週土曜日に新作を投下しました。

とても下らない話ですがよかったらご意見をお聞かせください。

https://book1.adouzi.eu.org/n7853eo/

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