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第104話 当面やることがなくなったので、螭でレベルを上げてみた (主人公トキヒロ視点)


 取りあえず、伯爵と王国軍の衝突は、短く見積もっても2週間程度は猶予がありそうだ。

 直線距離ではそこまでないが、エルハンストと王都の間にはかなり高い山脈があり、迂回するとゆうに5日はかかる。

 まして大規模な軍を動かせばその2倍以上の機関が必要だろう。


 伯爵はその時間を軍の準備に当て、俺達は土日限定で螭狩りだ。

 平日は、俺以外のメンバーが日本で仕事や学校に行くため、朝、螭の洞窟に送ってもらい、向かえに来てもらうパターンで、俺一人が螭を狩る。


 狩った螭はその日のうちにゲンガー武器店に持ち込むという方向で話がまとまった。


 今は土曜日の午後だが、日没まではまだ3時間ほど時間がある。

「早速、その螭ってのを見てみたいんだけど、案内お願いできる」

 藍音さんの言葉に俺は洞窟の位置をできる限り詳しく説明する。


 藍音さんはクレヤボヤンスで位置を確認しているようで、目を閉じて俺の言葉に聞き入っている。

 目印となるのは洞窟近くのラディーの村だが、この村自体が小さいので見落としやすい。

 俺は王都の西にあるエルンの街の位置から説明し、何とかラディーの村を確認してもらえた。

 ラディーの村がわかれば、近くの森を抜けたところが目的の螭のダンジョンだ。

 藍音さんが場所を確認するとすぐに、俺達はテレポートでダンジョン入り口へと移動した。


 そしてそこには、2週間振りに見る光螭が、ちょうど洞窟の奥から湧いてきたゴブリンを丸呑みにしていた。


 どうやらあいつは、俺たちを追って洞窟出口の結界に引っかかり、そのまま出口付近で餌をあさっているようだ。


「あれが螭……」

「かなり気持ちの悪いフォルムね……」

 初めて螭を見る香澄さんと藍音さんが螭の異様な形状に若干引いているようだ。


「ああ、あのふざけた容姿からは信じられないくらい魔法耐性も物理耐性も高い」

「ええ、特にあの光螭は苦手属性が今のところ不明で、私たちは撤退するしかなかったわ」

 俺とカオリの説明に香澄さんと藍音さんは頷くとなにやら相談を始めた。


「ねえ、香澄ちゃん。

 超能力もきかないのかしら」

「どうだろう。

 ちょっと試してもいいかな」

「何から試すの?」

「さしあたってサイコキネシスとかで動かせるかとか、ブラックホールで吸い込めるかとかかな」

「そうね。

 それなら私はパイロキネシスで燃やしたり凍らせたり出来るか試して見るわ」


 どうやら二人の相談は終わったようで、こちらに向き直る。

「トキヒロ君。

 取りあえずあのでかいのにESPが効くか試したいんだけど」

「ああ、やってみてくれ」

 香澄さんの言葉に俺は頷く。


「それじゃあもう少し近づいてやってみましょう」

 そう言うと藍音さんと香澄さんはすたすたと螭の正面まで歩を進める。

 俺達もすぐにその後を追う。


 螭は結界に阻まれて洞窟から出てこれないが、目の前に迫った香澄さん達を食べようとじたばた暴れて結界にぶつかっている。


「それじゃあまずは私から」

 藍音さんがそういった瞬間、螭は動きを封じられると真っ直ぐにピンと伸び、そのまま空中に浮いてひっくり返り、地面に激突する。


「どうやらサイコキネシスは問題なく効くみたいね」


 地面でひっくり返ったまま、じたばたしている螭だが、ダメージはあまり受けていないようだ。


「じゃあ、次は私がブラックホールで」

 香澄さんが言うやいなや、洞窟の結界内に小さな黒点が現れ、そのまま藍音さんのサイコキネシスによって固定されている螭の顔面へと近づく。


 それは異常な光景だった。

 あの巨大な螭の丸顔が、コンピュータグラフィックスの変形動画のように歪みながら伸び、徐々に黒点へと吸い込まれていく。

 螭の顔が黒点へと消えた瞬間に、ブラックホールも蒸発して消え、その瞬間、俺の全身に力がみなぎる。

「ヒロ、貴方もきた?」

「ああ、カオリもか……

 今確認したが、レベルが5になっている」

「あたしもよ」


 洞窟の入り口には螭の胴体が残っているだけだ。

 俺達の会話を聞いていた香澄さん達が不満の声を上げる。

「ええーーー、トキヒロ君と香織さんはレベルが上がったの!?

 倒した私は上がらなかったのにずるいよ。

 藍音ちゃんはどう?」

「私も上がってないよ」


 どうやら香澄さんも藍音さんもレベルは上がらなかったようだ。

「それは香澄さん達が強すぎるからだと思う」

「そうですね。

 日本で会った未来のヒロも、強いとレベルが上がりにくいと言っていたから、香澄先生達の強さだと、今の螭一匹では上がらないと言うことでしょうね」


「うう……

 今度こそ上がると思っていたのに……」

「まあまあ、香澄ちゃん。

 洞窟の奥に行けばもっとたくさんいるだろうか、バンバン倒してレベル上げしてみようよ」

 藍音さんは俺達のレベルが上がったのを見て、自分たちもすぐに上がると判断したようだが、素の力が大きく違うのだから、そう簡単にはレベルアップしないような気がする。

 しかし俺はそのことを口にすることはない。ここは二人のモチベーションを維持するためにも黙っておくことにした。




 洞窟に入ってどんどん進んで行くと、分岐のある三叉路で大きな敵性反応を捕らえる。

「大きいのがいるな」

「ええ、入り口にいた奴と同じくらいのサイズね」

「こっちに向かってきているみたいだから、ちょっと待つか」

 俺はカオリと相談して、螭が向こうから接近してくるのを待つ。

 藍音さんと香澄さんにも待機をしてもらう。


 果たして洞窟の奥から現れたのは、真っ黒な外見の巨大な螭だった。

 早速鑑定する。


 名前 闇螭やみみずち

 適性 妖怪(この世の理から外れた存在。)

 Level 15

 体力 3211 × 15Level

 力  2155 × 15Level

 速度 1002 × 15Level

 魔力 4934 × 15Level

 魔力適性 黒色(闇属性)

 スキル 穴掘り

     噛みつき

     消化液

     暗黒砲

     再生力大


 なんと、入り口にいた光螭の真逆属性で強さやレベルは光螭とほぼ互角の闇螭だった。

「これは、光螭と同じで属性攻撃は効かなさそうね」

 カオリがぼそりと言う。


「それなら、私がパイロキネシスを試して見るね」

 藍音さんはそういうと同時に、闇螭の真っ黒な顔はビクリとなり、にやついた表情が苦悶のものへと変わる。

 苦しさにもがき始めた闇螭はところ構わずぶつかり始め、洞窟が壊れそうな勢いだ。


「取りあえず結界でも張るか」

 俺は職業を結界師に変え、闇螭を結界に封じようとするが、それでもおかまいなしに闇螭は暴れ回る。


「私が固定するわね」

 香澄さんがサイコキネシスを発動すると、闇螭は動きを封じられピンと伸びた。

 いや、香澄さんのサイコキネシスでピンと引っ張られた状態で固定されたのだ。

 しかし、その表情だけは苦しげにゆがんでいく。

 やがて闇螭の胴体から煙が出始め風船のように膨らんでいく。


 パンッ!


 乾いた大きな音と同時に、闇螭は内側からはじけて爆発した。


「あははっ…………、

 体液が全部水蒸気になって爆発したみたいね」

 藍音さんが少し表情を引きつらせながらいう。


 結界を張っておいて良かった。

 辺りは闇螭の残骸でひどいことになってしまっている。

 もし結界がなければ、あの細切れ状態の闇螭を全員頭から浴びていただろう。


 そんなことを考えていると再びレベルアップの感覚に包まれる。

 早速確認すると、一気にレベル7まで上がっていた。

 さっきの光螭では1つしか上がらなかったのに、今度はいきなり2レベルアップだ。

「ヒロ、レベルが一度に二段階上がったわ。

 あなたは?」

 どうやらカオリもレベル7に達したようだ。

「ああ、俺もだ……

 一体何が違ったんだろうな。

 光螭と闇螭の強さは同じくらいだったはずだ」


 俺達が話しているのを聞いた藍音さん達が会話には言ってくる。

「二人ともまたレベルアップしたのね。

 しかも一気に2つも……」

 香澄さんがうらやましそうだ。

「さっきとの違いと言えば、倒したときに使った能力ね。

 光螭はブラックホールに頭を吸い込んで倒したけど、今のは内部から爆発させたからその違いでしょうね」

 藍音さんの言う倒し方の違いについて考えを巡らせる。


「それはつまり、ブラックホールに吸い込んだ頭の部分の経験値がもらえていないと言うことだろうか」

 俺の言葉に藍音さんが頷く。

「多分そうね。

 経験値に必要な何かが、ブラックホールに吸い込まれてもらえなかったと考えるとつじつまが合うわ」


「なるほど……」

 ブラックホールは経験値の元すら吸い込んで離さないのかと感心する。

「そういうことなら、これからブラックホールは極力使わない方向で倒しましょう」

「効率よくレベルアップするにはその方がいいわね」

 香澄さんの提案に藍音さんが同意する。


 それにしても今までさんざんやっても上がらなかったレベルが、今日だけで一気に3レベル分上がったことになる。

 これは予想以上に、強い螭を倒すことが目的のレベルに到達する早道だと言うことだろう。

 俺達はこの日の洞窟探検をもう少し延長することにした。








次回の更新予定が決まりました。

105話 2月20日(火)17時登校予定です。


昨日新作を投下してみました。

とても下らない話ですがよかったらのぞいてみてください。

https://book1.adouzi.eu.org/n7853eo/


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