第103話 王国軍を迎え撃て (主人公トキヒロ視点)
「申し開きの場くらいはあると思っていたが、私が甘かった。王都につくなりいきなり幽閉された。
今の王家に正常な判断力はない」
カーク・エルハンスト伯爵が吐き捨てるように言う。
俺達は伯爵邸の私的な会議室へと場所を移動して、今後について話し合いを始めている。
参加者は俺達4人と伯爵に伯爵邸の執事長、伯爵軍の将軍、内務担当の文官長の合計8人だ。
伯爵はこちらを向くと、改めて礼を述べてくる。
「それにしても君たちには感謝の言葉をいくら重ねても感謝しきれない。
あのままではそう遠くない未来に私は命を失っていただろう。
ありがとう」
「いえ、元はと言えば私たちをかくまったことで王家に付けいる口実を与えてしまったようなものです」
藍音さんの言葉に伯爵は首を横に振りながら答える。
「いや、きっかけはそうであっても、王家は虎視眈々と目の上のたんこぶである私を排除しようとしていた。
遅かれ早かれ、私は王家によって断罪されていただろう」
「それで、伯爵はこれからどうしますか」
香澄さんが俺も聞きたかったことを聞いてくれた。
「ああ、今の王家に真を尽くす必要はないと判断した。
エルハンスト伯爵領は独立を宣言することになるだろう」
「準備は大丈夫なのか」
俺の問いに伯爵は肯首する。
「ああ、今の王国軍は隣国との戦争に大半の兵力をさいている。
我が領軍をもってすれば、残りの王国軍が全部攻めてきても対抗できるだろう」
「では、戦争を中断して全兵力をこちらに向けてきた場合はどうだ?」
「それは流石に苦しいと思うが、すぐにそのような事態になることはないだろう。
我が領には君たちの持ち込んだ螭の鱗の装備がある。
ゲンガーに出来るだけ量産してもらう予定だ。
時間があれば、たとえ戦争を終結させて全兵力で我が領に攻め寄せても、装備の差でしのげると踏んでいる」
「それなら、俺達も材料の調達くらいは協力させてくれ」
俺の言葉にエルハンスト伯爵は頷きながら答える。
「ああ、助かる。
流石に無関係な君たちに、内戦とも言える我が国の状況に協力してもらうのは気が引けるが、素材の面で協力してもらえるなら、こんな嬉しいことはないよ」
「あの王家と軍には恨みのある人もいますから、一部なら私たちが対応してもいいですよ」
香澄さんが言っているのは俺達の召喚に関わった人物のことだろう。
「そうだな……
基本的には我々だけで何とかしたいが、万一の時はお願いするよ。
奴らにこのエルハンストの街を蹂躙させるわけにはいかないからな」
「了解した。
そのときは遠慮なく言ってくれ」
俺の返事に残りのメンバーも頷く。
「では、早速非常事態を街に宣言して戦時対応に移行しよう。
バルドス将軍、スローン文官長、すぐに必要な手配をせよ」
「はっ、了解しました」「了解です」
将軍と文官長は伯爵の命を受けて席を立つ。
「それでは私も準備にかかろう。
今日から忙しくなるぞ」
そう言うと伯爵も席を立つ。
あわせて俺達も立ち上がる。
「そういうことなら、俺達も早速素材を集めてこよう」
「螭の洞窟ね」
カオリの言葉に俺は頷く。
「ああ、早速だが藍音さんのテレポートで移動して螭をかたづけよう。
それが、俺の帰還にもつながるようだしな」
「そうか、早速君たちも行動してくれるか。
感謝する」
伯爵の言葉を受けて俺達は暇を告げ、一旦ベヒモス沼の拠点へ移動した。
ちょっと短かったので、次話を明日の朝投稿します。




