第101話 未来の俺 (主人公トキヒロ視点)
「そうか、俺は寿命で死んでついにあのときに戻ったのだな……」
倒れている転生前の俺が呟く。
「どういうことだ?
何故俺を知っている?」
俺は倒れている俺に問いかける。
「懐かしいな……
そういえば俺もあのとき全く同じ言葉を言ったよ」
雪上に横たわったまま、昔の俺は質問に答えず、感慨深そうに俺を見る。
そして、しばしの沈黙の後に話し始めた。
「俺は未来のお前さ、ジェフリー」
未だに全く意味がわからないが、このとき藍音さんと香澄さんが話しに入ってくる。
「ねえ、香澄ちゃん。
これって私たちのときと似たようなケースじゃない」
「私もそう感じたわね。
けど私たちみたいに魂の多重化による強化は感じないわね」
「その通りだよ、藍音さん、香澄さん。
俺はこの世界で一旦死んだときに、ジェフリー・ミストとして輪廻転生した。
そして、この世界で生き返ったことで、ジェフリー・ミストとしての人生が幕を閉じた後の魂が、再び霞寺時祐にもどってきた。
あなた方の事情はジェフリーだったときに聞いているが、俺の場合は既にある輪廻に召喚による魂の重複がなされたわけではないから、魂自体は強化されていない。
それに肉体の強さも、この世界の普通の高校生だ。
もっともスキルなどは失ったわけじゃないから、魔力をそんなに使わないものなら今でも使用可能だ」
なんと、目覚めた過去の俺は、ジェフリーとしての俺の未来の姿、いやジェフリーとしての俺が死んだ後の姿だというのか……。
そうなると、いまここに横たわったまま会話している霞寺時祐は、これから起こることを知っていると言うことになるのだろうか。
俺は聞かざるを得ないこの問題を率直にぶつけてみる。
「そうするとお前は未来の俺で、これからどうなるかわかっていると言うことか」
「ああ、お前のこれからの人生がどうなるかは、将に俺がさっきまで体験していたことだ。
しかし、未来を知るのは良くない。
どこで時間の連鎖に歪みが生じるかわからない。
だから、俺が今から伝えることは、過去に俺がこの場で聞いたことだけにとどめさせてもらう。
それに、蘇生したばかりで体力が著しく落ちている。
俺の記憶が確かなら、俺は後5分ほどで再び意識を失うだろう」
雪上の俺はそう言うと俺の方を見てくる。
「わかった。
それでは話せることだけを教えてくれ」
俺の言葉に頷きながら、雪上の俺が言葉を紡ぐ。
「結論から言うと、レベルを100近くまで上げると空間転移で転生後の世界に帰るための魔力が確保できる」
「いや、これだけやってレベルが4までしか上がっていないんだが……」
「まあ、聞け。かつての俺が実践した道だ。
答えは螭の洞窟だ。
あの洞窟の奥に潜って高レベルの螭を倒し続ければそれほどの期間を経ずに目的のレベルに達する。
カオリの魔方陣用の魔石も螭から取れるが、こちらは結局試していない」
「待ってくれ。
現状入り口に光螭が張り付いていて、とても倒せそうにないんだが」
「それは藍音さん達とパーティーを組めば問題ない。
この話は彼女たちにも大きなメリットがある。
この世界のレベルは、年齢で上がりにくくなると勘違いされているが、実際は現状の強さに対して比例する形でレベルアップに必要な経験値が大きくなっているに過ぎない。
彼女たちの能力がレベル1でも最強クラスだから、なかなか上がっていないが、螭を倒し続ければ彼女たちもレベルアップする。
そしてレベルが一つでも上がれば、スキル『往年の力』がパッシブスキルからアクティブスキルに切り替えられるようになる」
「それは助かるわね、藍音ちゃん」
「ええ、うっかりものを壊すことが減りそうだわ」
藍音さんと香澄さんも頷きながら聞いている。
「めまいがしてきた……
悪いが、たぶんもうすぐ俺が意識を失う時間だ。
お前達はすぐにあの世界へもどるべきだろう。
それから、エルハンスト伯爵が今、危ないはずだ。
王家と魔族の動きに注意を……」
ここまで説明すると過去の俺は再び意識を失う。
脈を確認するが、死んではいない。どうやら眠っただけのようだ。
そのとき、雪原の向こうから人の声が聞こえてきた。
「おおーーーい、霞寺ーーー。
どこだーーー」
「時祐ーーーー、返事しろーーーー」
あれは、雪崩に巻き込まれた俺を探しに来た声だろう。
中に、当時の担任らしき声が混じっている。
「行きましょう。
私たちがここにいるのは説明に困るわ」
藍音さんの言葉に俺達は頷くと、雪上で眠る過去の俺を目立つところに移動して横たえ、過去の俺から距離を取る。
「いたぞ!!」
「おい、霞寺しっかりしろ!!」
捜索隊が眠っている俺を無事に発見したのを確認して、俺達はその場を藍音さんのテレポーテーションで引き上げたのだった。
ストックが尽きました。
次回更新未定です。
しばらくお待ちください。




