実地研修
ポツンと一軒家の衛星写真、実際に地上から見る建物とは全然違って見えますよね(笑)
スタートダッシュの大量評価、ありがとうございます。とっても励みになります。頑張ります。
搭載艇、と。
教官役のベテラン騎士は言った。
王城の中央、王宮のそのまた奥に、王族のプライベート空間がある。いわゆる後宮だ。
王族警護の任を務める本物の近衛騎士しか足を踏み入れられない聖域。そこへ初めて連れて来られたスウェン・カスターたちは、予想外の物に出くわした。
綺麗に刈り込まれた芝生の上。横倒しの丸太みたいにそれは転がっていた。
高さは二階建ての家ほど。横幅は一番広いところで高さと同等。断面図にすれば、綺麗な円を描くだろう。
両端が細く引き伸ばされた円筒形とでも言うか、不思議な形をしてる。
装飾は見当たらない。鈍く光る灰色の外見は、木でも石でもない。陶器のように滑らかだ。
人工物である証拠に、入り口がぽっかりと開いていた.
短い通路の先の小さめな広間まで進んだ。
正面の壁は円形、脇は円筒形に曲線を描いている。床は長方形だ。家具らしき物は何も無い。
「百聞は一見に如かずと言うが、こればかりは体感しない事には信じられないだろう。王家の秘匿事項だ。気絶しても怪我をしないように、腰を下ろしておけ」
揶揄うような軽口に、内心ムッとしたのは仕方ないと思う。
近衛騎士に昇格する前は、近衛兵として貴族街と王城の警備を過不足なく務めていたんだ。気弱なご令嬢じゃあるまいし、そうそう気絶なんかするものか。
それでも指示は指示。いつでも立ち上がれる姿勢で身を低くした。
「ガラス窓から外を見たことは有るな」
何を当たり前のことを。
「王宮の入り口の大鏡は知っているな。外の景色を映して、広く見せる仕掛けだ」
それはまあ、職場ですから。
「では、床が抜けたと騒ぐなよ」
教官が言い終えるや否や、床が消えた。
見えたのは芝生。その上に浮いていた。
いや、足裏には床の感触がある。床がガラスのように透明なになったんだ。
正直驚いた。教官の念押しが無かったら、それこそ腰を抜かしていたかも知れない。
「安心しろ。床は元のままだ。ガラスのように割れたりしないぞ」
そう言われても。体が落下に備えて緊張するのを止められない。だいたい、なんで床が透明になるんだ。
「う、うわぁぁぁ」
誰かの声がした。僕の声かも知れない。
体が浮いた。違う、芝生が遠ざかったんだ。どんどん小さくなって、離れていく。
後宮の建物の壁が床に入って来た。それもすぐに小さくなって、今度は大量の屋根と塔の先端が加わる。
真上から見下ろした経験など、あるはずが無い。全く見覚えのない景色だが、大きさや位置関係から王城だと判断できる。
まるで地図を見てるみたいだ。
「少しは慣れたか。のんびりしていたら時間がいくらあっても足りない。通常の速度に切り替えるぞ」
つ、通常の速度って。
それからが凄かった。見る見るうちに王城が小さくなり、高位貴族の屋敷街、伯爵家が集まる貴族街、平民街、そして王都をぐるりと囲う城壁が見えた。
四方の城門から延びる街道と、その上を移動している無数の馬車がたちまち細い線になって、大地に溶けていく。
いつの間にやら体のこわばりが解けていた。
あまりに現実味が無さすぎて、自分の位置がどうでもよくなったというか。
それに、動いているのは床の景色だけ。浮遊感も移動している感覚も無い。目を閉じれば、床にじっと静止しているとしか思えない。
床の景色はますます小さくなり続けた。
王都が豆粒になり、主要都市が点になる。辺境の荒野の先に見えてきたのは、国境の山岳地帯か。
脳裏の地図と引き比べて、周辺国がすっぽり当てはまった後も、まだまだ遠ざかる。
そして………。
「天津箱舟は、星の海を航海し、天より大地に降り立った。これが、天津神の見ていた大地の姿だ」
眼下に有るのは、虚空に浮かぶ巨大な球体だった。
「元々この惑星、大地のことだが、ここには生命は無かった。ただし、手を加えれば、充分命をはぐくむ条件がそろっていた。この地に入植して根を下ろそうという一派と、もっと別の惑星を探そうという一派で意見が割れた。争いが起きたのは、ざっと五千年前だ」
御伽噺が、突然、現実味を帯びた瞬間だった。
塔載艇、慣性の法則を相殺する未来技術が使われています。恒星間移動ができる超技術、この話では失伝した古代技術と言うことになりますが。
SF、大好きです。伊達に銀英伝の同人作家やってた訳じゃありませんから(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。




