062 ノワール世界への落下
翌朝、ボクたちは朝食を美味しくいただいてから、モンテマニー公爵にもらった家と店の様子を見に行った。 不審者が忍び込んだ形跡もなく安心した。
青兵衛
「店の営業をする間がないことが、寂しいですね。」
紅丸
「とは言うが、ときどき売り上げの計算をしているように見えるが?」
青兵衛
「店に出て固定客を相手にする方が儲かるのですよ。 それに比べたら、10分の1くらいですね。」
黄庵
「わたしも最近は患者を治す機会が減って、落ち着かないわ。 どこかが苦しんでいるひとがいるかもしれない。 もし、わたしが医者としての看板を掲げて、ひとつの所に留まっていれば助かった命があったかもと使命感に押しつぶされそうよ。」
紅丸
「もし、黄庵にしか治せない患者がいたときは、天が黄庵を呼ぶはずだ。 真面目過ぎて体調を崩したら、いざというときに救える患者を救えなくなるぞ。」
黄庵
「そうよね、おかげで気が楽になったわ。 紅丸、ありがとう。」
ルナは静かだった。
紅丸
「ルナ様、どうされましたか?」
ルナ
「今回は、誰も来なかった。 錦野町長のときは、あんなにも多くの軍勢が来たのに、どうしてだろう。」
青兵衛
「相手側にとって、熱血教師の価値は低いのかもしれませんね。」
紅丸
「もしくは、勝てないと悟ったのかもしれません。」
ルナ
「よろいの騎士と美しいドレスが来れば、紅丸たちと張り合えたはずだ。 あのとき、彼らの武器は遠くに飛び去っていたのだから、正統な使い手がいても、おかしくない。」
黄庵
「考えても仕方ありませんわ。 そのときが来たら心配しませんか?」
ルナ
「そうだね。 そうするしかないか。」
ルナがそう言い終わるか終わらないかのタイミングで、ルナの姿が消えた。
ルナの足元では、丸い光の模様が輝いていたが、一瞬で消えた。
紅丸
「ルナ様?」
黄庵
「ルナさん?」
青兵衛
「ルナ?」
◇
少し戻って、Wider侯爵領の様子
フレグランス
「熱血教師と取り巻き連中がモンテマニーに捕まった話は、本当だったようね。」
ワイダー
「そうだな。 朝まで待っても戻らないから確定だな。」
フレグランス
「よろいの騎士、美しいドレスと聖職者の帽子を向かわせて、助け出しましょう。」
ワイダー
「いや、しなくていい。」
フレグランス
「どうしてですか?」
ワイダー
「熱血教師には、ワシとわが友が煮え湯を飲まされたからな。 助けてやる義理はない。」
フレグランス
「そうですか? でも、ルナとかいう小娘は目障りですわ。」
ワイダー
「その通りだな。 ワシの目に映る机の上というか、この世界には目障りなものは、なにも置きたくない。
フレグランス、不要なものはゴミ箱に叩きこもう。
ノワール世界に、ルナを叩き落せ。」
フレグランス
「ええ、賛成します。
ワタシたちを不愉快にさせたのだから、ルナの自業自得ですわね。」
フレグランスは椅子から立ち上がって、ノワール世界への転移開始レバーをONの方向に上げた。
フレグランス
「ノワール世界に落ちろ! ゴミが。 わたしより美しくて若い娘は存在自体が罪よ。」
という訳で、ルナの足元に光る魔法陣があらわれたのだった。
◇
紅丸たちは、ルナが神様からもらった家の中に移動していた。
神様からの指令が表示される画面の前にいた。
黄庵
「たしか、ルナさんから習った操作方法は、こうだったわ。」
紅丸
「黄庵、頼むぞ。」
青兵衛
「そろばんよりも、大変そうですね。」
黄庵
「二人とも、この機会に操作方法を覚えておいてね。
よし、これで合っているようね。」
画面表示
「以下のメッセージを送信しました。
神様、ルナが立っていた床に丸い模様が光ったら、ルナが消えました。
どこに探しに行けば良いか教えてください。」
紅丸、黄庵、青兵衛は、静かに待つしかなかった。
◇
天界にあるイウラの部屋
愛と美の女神 イウラ ノータは、新しい美形キャラを考えていた。
イウラ
「うーん、顔のデザインは、こんな感じよね。 胸の大きさは限界に近いし、腰を細くし過ぎると健康を維持できないし・・・」
イウラは、突然、腕輪をはめた左手を上にあげた。
イウラ
「イター、い、痛い。 これはルナにプレゼントした家の通信機からね。 こんなに乱暴に扱うなんて注意しなきゃ。」
イウラは通信機の前に行って、通信を開始した。
イウラ
「ルウナ? なにやっているの? そんなに叩いたら、こわれてしまうわ。」
画面に映った紅丸、黄庵、青兵衛の姿を見て、ルナがいないことに気付いた。
イウラ
「ルナがいないわね。 わたしの姿を見せるわけにはいかないから、
【はい、聞こえています】
と大きく表示しましょうか?」
黄庵
「ルナの神様ですか?
聞こえますか?
わたしたちは、ルナの仲間の紅姫、黄花、青紫です。」
イウラ
「【はい、聞こえています】を点滅しましょう。」
黄庵
「短いお手紙に書いた通り、ルナさんが消えました。」
イウラ
「メッセージのことね、どれどれ?
ルナが消えた? 送信時刻は、5分前ね。
かくれんぼする年齢でもないと思うんだけれどな。
あれ? おかしい。 この世界のどこにもいない?
この短い文章では分からないわ。
本来なら、直接話したらダメなんだけれど・・・」
イウラは、マイクをONにした。
イウラ
「くわしい状況を教えてください。」
黄庵
「神様、お返事ありがとうございます。 実はですね。」
イウラ
「黄花、あなたの【聴診丸】を黄花の額に当ててください。 もう片方を、今、丸く光っている輪の中に入れてください。」
黄庵
「こうでしょうか?」
イウラ
「これは、転移魔法陣。 どの世界に落とされたか調べます。 教えてくれてありがとう。」
通信が切られてしまった。
紅丸
「この声が、ルナ様が話されている神様の声なのか? なんとなく、黄花の声に似ている気がする。」
青兵衛
「声だけでなく、口調も似ている気がしますね。」
黄庵
「わたしと同じだとしたら、あせってくれた様子だから、危機感は伝わったはずね。 わたしたちは待つしかないわ。」
紅丸
「それでも、心当たりを探す方が良くないか?」
青兵衛
「転移魔法陣が物語に登場するものなら、ワタシたちが行ける場所ではないはずです。」
黄庵
「そうね、行ける場所だったら、どこどこに行きなさいと言うはずだわ。」
紅丸
「わたしたちに出来ることはないのか?」
黄庵
「いつ呼び出されてもいいように、身支度を整えて待ちましょう。」
つづく




