019 黄花はどこだ(5)能力抑制呪文
妖刀の剣士と紅丸の戦いは、レベルが高かった。
剣道の試合を見たことがあるが、剣道とは別の次元の戦いだった。
剣道の試合は、面、胴、小手、突きが決まれば勝負は着く。
しかし、ふたりの戦いではお互いが防ぎ合うから効果が無かった。
妖刀の剣士
「滝流斬」
上から下に縦に走る剣撃が放たれた。
紅姫 紅丸
「地平斬」
左利きの紅丸が右から左に走る横の剣撃を放って、相殺した。
妖刀の剣士
「やるな。 これは、受けられるか?」
剣を黒いもやが覆った。
妖刀の剣士
「黒影間欠泉」
紅丸
「む? 分からない。
ぐはあ。」
紅丸の影の中から、剣撃が天に向かって放たれた。
月夜
「紅丸が苦戦しているね。」
黄庵
「月夜様は助太刀されないのですか?」
月夜
「ボクが入ったら、かえって邪魔だからね。」
黄庵
「そんな、じゃあ、わたしたちは終わりですか?」
月夜
「交渉するか?
妖刀の剣士様。 お聞きしてもよろしいですか?」
妖刀の剣士
「なんだ? 死に方に希望があるのか?」
月夜
「妖刀の剣士様と、うちの剣士紅丸の間は、階段に例えると何段くらいの差がありますか?
ひとつかふたつですか?」
妖刀の剣士
「そうだのう。
階段3つか4つの差はあるだろうな。
いや、赤髪の剣士、紅丸といったか、が持つ妖刀の力を吸い取ったから、妖刀のちからも我の方が強くなったな。」
月夜
「それでは、わたしが加勢しても問題ありませんか?」
妖刀の剣士
「つまり、囲碁で言うところの置き石※が欲しくなったか?
今からでは勝負がひっくり返ることも無い。
しばし、休みをやろう。
傷の手当てをしてやるがよい。」
※強いものが弱い者に与えるハンデ
月夜
「武士の情けに感謝します。」
妖刀の剣士
「よいよい、久しぶりに歯ごたえのある相手に出会って機嫌が良いからな。」
◇
月夜
「紅丸、気を悪くしないでね。
紅丸に負けてもらっては困るからね。
まずは、気力を回復するね。
【能力向上呪文 トゥート】」
紅丸の気迫が回復した。
紅丸
「すみません。 では、ふたたび。」
月夜
「まだだよ。
【体力回復呪文 トゥベルサ】」
紅丸の体力が回復した。
紅丸
「やり直しの機会を与えて頂き、ありがとうございます。」
イウラ《ガイド音声》
「ルウナ、聞こえますか?」
月夜 ルナ
「いいところへ来てくれてありがとう。
どうだろう。 これで紅丸は勝てるかな。」
イウラ《ガイド音声》
「足りないわね。
【妖刀斬 紅丸】は縮小化の寸前ね。」
月夜 ルナ
「じゃあ、魔力を補充するよ。
【能力向上呪文 トゥート】」
【妖刀斬 紅丸】に輝きが戻った。
イウラ《ガイド音声》
「まだ足りないわね。
相手が持つ妖刀は進化してしまったわ。
剣士の生命力を吸い取っているわ。
あの剣士はそれに気づいていないみたいね。
戦いの喜びで、興奮状態だから気付かないのよ。
このままでは、【妖刀斬 紅丸】でも負けてしまうわ。」
月夜 ルナ
「そうなの、すごい妖刀だね。」
イウラ《ガイド音声》
「あの妖刀は正気を失ってしまったから砕くしかないわ。
でも、生命力を吸い取っている限り、強くなり続けるわ。
だから、これ以上強くならないように、ルウナのちからでなんとかしないと。
がんばってね。 ブツン。」
イウラとの通信が切れた。
紅丸
「月夜様、だれと話しておられたのですか?」
月夜
「ボクの初めての友達だよ。
あともう1つ準備が必要だね。
紅丸の方の準備はいいかな。」
紅丸
「ええ、もう戦えます。」
月夜
「あの妖刀がこれ以上強くならないように能力を封じようと思う。
交渉するけれど、拒否されても割って入るからね。」
紅丸
「それは、卑怯では?」
月夜
「【妖刀斬 紅丸】とあの妖刀の差は今はまだ小さいよ。
でも、あと3分たてば、つまり、お湯を注いで食べる細長い食べ物ができるころには、【妖刀斬 紅丸】の3倍くらいの強さになってしまうからね。
そうなったら、勝てないよね。」
紅丸
「申し訳ない。」
紅丸は泣いていた。
月夜
「紅丸、泣かないで。
さらなる高みがあると分かったことを喜んで欲しい。
紅丸なら、たどり着けるよ。」
紅丸
「拙者を信じてくださるのか?」
月夜
「もちろんだよ。
黄庵さん、もう少し待っててもらうよ。」
黄庵
「よろしくお願いします。」
月夜
「ありがとう。
妖刀の剣士様。」
妖刀の剣士
「もう覚悟はできたか?
続きを始めてもいいか?」
月夜
「その前に1つ。
誠に勝手なことを言いますが、あなたの妖刀は強すぎます。
だから、これ以上、強くならないように、妖刀のちからを抑え込ませてもらいます。」
妖刀の剣士
「できるものなら、やってみよ。
いくぞ、紅丸。」
月夜
「紅丸、構えて。
妖刀の力は、ボクが封じるから、安心してね。
剣士の生命力を吸い取る妖刀よ。
そのちから、すべて収めよ。
【能力抑制呪文 ベルマイラ】」
膨れ上がろうとする妖刀の力を、月夜の魔力が封じ込めた。
妖刀の力は、先ほどの90%ほどに抑え込まれた。
紅丸
「これなら、なんとかなる。
頼むぞ、【妖刀斬 紅丸】。」
月夜
「紅丸! 勝って! ぜったいに勝って!」
紅丸は、こころを鎮めて、【妖刀斬 紅丸】にちからを注ぎ込んだ。
紅丸
「樹齢剣」
紅丸の背後に、背丈の10倍は大きい木が見えた。 樹齢1000年くらいだろうか?
緑色の斬撃が、妖刀の剣士の妖刀にひびを入れて、こなごなに砕いた。
妖刀の剣士
「見事だ。 だが、つぎは負けんぞ。」
月夜
「次なんて、ないよ。
自分の手や腕を見てごらん。」
妖刀の剣士
「こ、これは、いったい。
拙者の身体がまるで老人のようではないか?」
月夜
「紅丸に勝とうとして、無茶をしすぎたんだよ。
あなたが紅丸より強かった理由は、生命力を妖刀に貢いだ結果だからね。」
妖刀の剣士
「まやかしの強さだったのか。
せめて、拙者の名を覚えておいてくれないか、拙者の名は・・・」
妖刀の剣士は、老衰で眠りについた。
紅丸
「またしても、妖刀の被害者を救えなかった。」
遠くから悲鳴が聞こえた。
高利貸し
「ひいい。」
土手医者
「お、おゆるしを。」
悪代官
「取引をせぬか、今夜の襲撃はなかったことにしてやろう。
わしの手の者になれば、悪いようにはせぬぞ。」
黄庵
「なぜ、わたしをさらったのですか?」
高利貸し
「商売の邪魔だったからだ。」
土手医者
「黄庵様の医術に嫉妬しただけです。」
悪代官
「これからは、わたしの庇護下においてやるから、甘い汁を吸わせてやるぞ。」
黄庵
「医術は、仁術の2でも、算術の3でもありません。
その中央にあるべき、2.5術です。」
悪代官
「ああ、その方のいう通りだ。 この通り、あやまる。」
黄庵
「面倒くさいから、謝っておけ! ですか?
わたしは、馬でも鹿でもありませんよ。
月夜様、お願いします。」
月夜
「紅丸、お疲れのところ悪いけれど、この3名だけは許すわけには行かない。
だから、もうひと働きしてもらうよ。」
紅丸
「御意、何なりとお申し付けください。」
月夜
「成敗!」
紅丸は、目に留まらない速さで、高利貸し、土手医者、悪代官の首をはねた。
月夜
「ご苦労様でした。 紅丸。」
紅丸
「もったいないお言葉。」
月夜
「黄庵さん、紅丸。
そろそろ、ほかの剣士も目覚めそうだよ。
この場を離れよう。」
紅丸
「黄庵殿、肩を貸します。
いっしょに来てください。」
黄庵
「月夜様、紅丸様、よろしくお願いします。」
3人は、夜の闇にまぎれて、その町を去ったのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
「続きが気になるー!」と思っていただけたら、
【ブックマーク】や、↓ の【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価】など、
応援よろしくお願いいたします。




