015 黄花はどこだ(1)ギルドの依頼
紅姫は、月夜ルナにつきあわされて、ギルドの掲示板の前に居た。
紅姫
「依頼料が安い割には、面倒くさい作業が多いですね。」
月夜 ルナ
「ギルドでの初仕事というのは、薬草集めとか、雑魚モンスターを狩るもんだよ。
こういうのがいいんじゃないか?」
紅姫
「そうは思いませんが。」
月夜
「じゃあ、べにひ、いや、紅丸は、どういう仕事がいいっていうのさ?」
月夜は、紅姫と呼ぼうとしたが、言いなおした。
外では、紅丸と呼んで欲しいと言われていたからだ。
たしかに、べにひ、紅丸は男性の格好をしている。
そして、ひと目があるところでは、剣の紅丸は普通の剣の振りをして黙っている。
紅丸 男装した紅姫
「そりゃあ、もちろん、大型魔獣を狩っていたぞ。
この剣とわたしの剣の腕があれば余裕だからな。」
月夜
「それはレベルが上がってからだよね。
覚醒イベントの後でいいよ。」
紅丸 男装紅姫
「イベントとは、なにですか?」
月夜
「出来事とか、事件のことだよ。」
紅丸
「修行の課題を達成することでしょうか?」
月夜
「そう、それだよ。
それにしても、薬草集めもないし、雑魚モンスター狩りも依頼が無いなあ。」
ギルドの受付嬢
「月夜様、いらっしゃっていたのですね。
薬草集めは、3つ先の村に名医が来られたから無くなりましたよ。
雑魚モンスターは、凄腕の剣士が片づけられましたよ。
大型魔獣を倒しすぎて、ついには、雑魚モンスターまで倒されたそうです。」
ボクは、紅丸の方を見た。
紅丸は天井を見て、自分とは関係ないふりをしていた。
どう見ても、紅丸のことだよね。
まあ、見逃してやるか?
月夜
「そうなんですね。
初心者向けの依頼を探しているのですが、ありませんか?」
ギルドの受付嬢
「月夜様もお連れの剣士様も初心者には見えませんよ。」
月夜
「そういう依頼をするのが、成功する冒険者の第一歩ですからね。」
ギルドの受付嬢
「よくわかりませんが。
月夜様にぜひお願いしたい仕事があるのですが・・・」
月夜
「大変そうだから、わたしには無理そうです。」
ボクは受付嬢のしらーっとした視線に気付かないふりをした。
それなのに・・・
紅丸
「こまったことがあるなら、聞かせてくれ。
俺に出来ることなら良いのだが・・・」
ギルドの受付嬢
「剣士様、名はなんとおっしゃいますか?」
紅丸
「紅丸です。」
ギルドの受付嬢
「山奥に熊が出て困っているという依頼があるのです。」
月夜
「山奥だから当たり前でしょ。」
紅丸
「月夜様、おまかせください。
切って捨てますよ。」
ギルドの受付嬢
「お願いします。
月夜様、紅丸様。」
月夜
「条件があるよ。
山の上半分は熊の住処だ。
民家がある山の麓まで降りてきた熊は倒すけれど、山の上半分まで逃げた熊は倒さないよ。
このことを契約書にして署名してもらう。」
ギルドの受付嬢
「わたしでは、「はい」とも「いいえ」とも言えません。
ギルドマスターを呼んできます。
少々《しょうしょう》お待ちください。」
◇
ギルドマスター
「契約書は、これでよろしいですか?」
月夜
「ああ、ありがとう。
では、行ってきます。
行くぞ! 紅丸。」
紅丸
「はい。」
◇
依頼があった山の麓についた。
熊は紅丸の気迫に圧されて、逃げていった。
依頼人
「追い払ってもらっただけでは、剣士様がいなくなったら戻ってきます。
倒して頂かなくては困ります。」
月夜
「1頭だけでも倒せたら、この依頼は成功したとしてサインをもらうからな。
この約束を守らないなら、帰らせてもらうよ。
危険な熊と戦っていたら、命がいくつあっても足りないからね。」
依頼人
「ぜったいに倒してくださいね。」
月夜
「約束は守るのか?」
依頼人
「守ります。」
ボクは、指切りげんまんをした。
◇
翌朝もクマが出た。
依頼人の前で、紅丸に斬り倒してもらった。
討伐証拠のために、クマの首を持って帰ることにした。
依頼人
「ありがとうございました。
認めの署名をしました。」
月夜
「ありがとう。
帰るよ。 紅丸。」
紅丸
「どうですか?
わたしの剣の腕は?」
月夜
「見事だよ。
素敵だったよ。
もう誰も見てないな。
紅丸、その首を貸してね。
カバンに入れるから。
ギルドに着く前に返すからね。
それよりも、山に登ろう。」
紅丸
「寄り道ですか?」
月夜
「確かめたいことがあるんだ。」
◇
山の上半分を越えたところまで、大きなビニールハウスがあった。
月夜
「やっぱりか。 ここまでクマのなわばりを取ったら、エサが無くて、山の麓まで降りてきても仕方ないよ。」
ボクは、山の上半分の境界線を示すために、落ちていた枝で地面に線を引いた。
紅丸
「この線は?」
月夜
「この線より上にある透明な布に、切れ目を入れてくれるかな?」
紅丸
「なんのためですか?」
月夜
「山の上半分は、クマの住処だ。
登山を楽しむための通り道は人間側にもらうとしても、取りすぎは良くないからね。
クマが山の下半分に行く必要が無いように手を打っておきたい。」
紅丸
「クマが人の食べ物の味を覚えたら良くないのではないですか?」
月夜
「人の肉の味を覚えさせるよりはマシだよ。」
紅丸
「おっしゃる通りですね。」
紅丸はボクが言ったとおりにしてくれた。
月夜
「クマは鼻がいいから、紅丸があけた穴から食べ物の匂いに気付いて、透明な布の中の作物を食べるだろう。
そうすれば、ふもとまで降りて来ないだろう。」
紅丸
「そうなりそうですか?」
月夜
「もういちど、ふもとを見に行くよ。
悪いけれど、紅丸には、もう1頭のクマを倒してもらうよ。」
紅丸
「それは問題ないですが、どうしてですか?」
月夜
「仲間のクマを2頭くらい倒せば、クマも来なくなるだろう。
そして、山の途中に食べ物があれば、山のふもとまで降りようとは考えなくなるだろう。
飴と鞭の両方を覚えさせて、人里に迷惑をかけないようにさせたいんだ。」
紅丸
「理に適っていますね。」
月夜
「ただし、周囲に人がいないことを確かめてね。
紅丸が簡単に倒したら、大変なことになるからね。」
紅丸
「大変なこととは、なにですか?」
月夜
「そんなに簡単に倒せるなら、全部のクマを倒してくれ!
とか、
楽な仕事なんだから、そんなにお金を取るな!
とかかな?」
紅丸
「な、それは、おかしいでござる。
わたしの剣技は厳しい修行の果てに得た苦労と努力の賜物でござる。」
月夜
「他人の能力を買いたたくために、下げ落とす輩は多いからね。
相手にするよりも、見た人たちに大差ないなと誤解させた方が話が早いからね。
だからね、紅丸。
紅丸が怪我をする必要はないけれど、簡単に倒しすぎたら駄目だ。
おなかが減りすぎて仕方なかったことは分かっているよ。
でも、世の中には相場というものがある。
上と下の真ん中くらいの腕前しか見せないようにして、クマを倒してね。
ボクがなにも言わなかったら、瞬殺で一刀両断してしまうだろう。」
紅丸
「おっしゃる通りです。
ただし、敵は苦しまないように、ひと思いに倒したいのです。」
月夜
「それは分かっているよ。
でも、ぎりぎり倒せましたという演技をする余裕があるはずだよ。」
紅丸
「では、わたしが怪我をしないように、
見物人が苦労したと思えるように
加減しますね。」
月夜
「わかってくれて、ありがとう。
紅丸。」
紅丸
「お安い御用です。」
◇
ボクと紅丸が山の麓に着いたとき、クマが1頭いたので紅丸に倒してもらった。
月夜
「ボクが映画監督だったら、
「カーット、素晴らしい演技だよ。」
と、拍手を送るところだよ。」
紅丸
「えいがかんとくが、なんのことか分かりませんが、ご満足いただけて良かったです。」
ボクは誰も見ていないことを確認してから、討伐証明となるクマの頭2つを紅丸に返した。
紅丸は、クマを2人で倒したことにしてくれたから、ボクも報奨金を半分もらうことが出来た。
月夜
「ありがとう。 紅丸。
うれしいよ。」
紅丸
「わたしの刀への魔力補給代と思ってください。
月夜様の魔力の価値を考えたら、気持ちばかりの金額ですが、ご容赦ください。」
月夜
「その気持ちがうれしいよ。」
ボクたちは、食材を買ってから家に戻ったのだった。
月夜、紅丸
「「ママ、ただいまー」」
いまでは見慣れた扉があらわれて、ボクたちは家の中に入ったのだった。
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