タマコとデート
「マヒルちゃんありがとうね。また遊ぼうね」
車の中で大きく手を振るリンちゃんに手を小さく振りかえして車を見送った。
コスプレ大会後、すぐに送ってもらうことになったのだが、リンちゃんが洗濯機に入れた服が着れるまで待つと八時を超えることが分かり、コスプレ衣装の中で比較的マシだったジャージを借りて、リンちゃんを元に戻して、自宅近くの公園まで送ってもらった。
送ってもらっている最中で衝撃な事実を知った。なんとリッカはまだ中学生だとマッチョマンことトオルが言っていた。同い年か年上だと思っていたが、中学生だったとは。中学生であの身長の高さは高すぎる。どう考えても年下には見えない。
現在の時刻夜の七時前、両親はもうすでに帰ってきているだろうけど心配するような連絡がない。
とりあえずスマホを確認するためにジャージのポケットをまさぐるが、ポケットの中にスマホが無い。
スマホが無いことに気づいた。西村のマンションに置いてきたのだろう。後でテレポートで回収すればいいか。
と軽く考えて男の姿に戻るために無人島へとテレポートをしようと人気のない場所に移動したとき、何者かが走るような足音が聞こえた。
その何者かと目が合った瞬間、急な方向転換して俺の下へ走り寄ってきた。
「マヒル!」
走り寄ってきた人物は大声で俺の名前を叫んだ。顔は暗くてよく見えないが、女性のようだ。
手を伸ばせば届く距離まで近づくと相手はいきなり俺の手頸を掴んできた。
さて相手は誰だろう。今日はいろいろあって正直疲れた。誰だろうと相手をしている元気はない。
相手が怒っているようなら怒りに任せて、収まるまでされるままでいいや。痛いのは嫌だけど、相手をするのも反応するのも億劫に感じる。殴られてもすぐに傷も治るから相手が気が済むまでやられるとしよう。
「マヒル!今日のヘルメスさんの約束はどうしたの?!」
ヘルメスさんの約束?はて?そんな約束をしていたか?
俺は顔をあげると丁度いいタイミングで車が通った。車のヘッドライトに照らされて相手の顔が分かった。
照らされた顔は鬼の形相のタマコだった。
相手がタマコだと分かったけど、今日タマコと何か約束をしていたか思考を巡らせた。
「あっ」
そういえばタマコとヘルメスさんの姿で会う約束をしていた。昨日の帰りと今日の出来事ですっかり忘れていた。
「そのあっは何よ?今日何回も電話をかけたのよ?そしてミキミに貴女の家を教えてもらって、行ったのに貴女はもうどこかに遊びに行ったって妹さんが」
マジで俺の家まで押しかけてきたのかよ。ヨルノのヤツ余計なことを言っていないといいけど。てか、ミキミもミキミだ。タマコに俺の家を教えるなんて次あった時に文句の一つや二つ言ってやる。
内心ヒヤヒヤしたが、タマコの様子を見る限り、俺が男だと気づいていないよ言うだ。
なんとか誤魔化そう。
「あーそうだね。ヘルメスさんは今日は暇のはずだけど、タマコの様子を見る限り合わなかったみたいだね?僕は今日タマコが会いたがっているって伝えたからヘルメスさんと遊んでいると思っていたけど。今日も気まぐれにどこかで人助けをしていたのだろう。あの人はそういう人だ。僕が今日ここに来てと言っても来る可能性は低いよ」
俺は真っ黒に染まった曇り空を遠くにあるかのように仰いだ。
「人助けで来れなかったって言うのね。もう、それはいいわ。ヘルメスさんとの連絡する手段はないかしら?例えばスマホの番号とかSNSとか知らない?」
「電話番号は知らないな。僕も連絡手段は知らないよ?あっ!SNSは見ると思う。例えば#ヘルメスさんってタグをつければ見てくれるんじゃないかな?返信は無いと思うけど」
タマコは「わかったわ。SNSで#ヘルメスさんってタグね」と言って行ってしまった。
あれで納得したのだろう。今日の夜中にSNSで#ヘルメスさんで検索しよう。
今日すっぽかしたみたいでタマコが可哀そうだ。
無人島にテレポートして男の姿に戻った。再び、家の近くにテレポートをして、玄関を潜った。
「ただいま」
玄関に入ると両親の靴がない。今日も残業のようで帰ってきていなかった。
家の中に入り、リビングに顔を出した。リビングにはテレビを見ながらコンビニ弁当を食べるヨルノがいた。
「お兄ちゃんやっと帰ってきた。お父さん達今日も残業だって、だから二人で好きな物を食べろってさ」
「残業の日のいつものことだろう。俺のは?」
「遅いから外で食べてくると思ってないよ?」
俺の分はないのか。後で買ってこよう。
「それよりさ、お兄ちゃんが出かけた後、お兄ちゃんの彼女さん?が来たよ」
「彼女?あータマコのことか?別にタマコとはそういう関係じゃない」
「その子タマコさんって言うの?っでその人がね。何回もインターフォンを鳴らしていたよ。それで私なんだろうなって出たら、凄く怒った様子で「マヒルはどこ?」って聞かれたんだけど、凄く怖くて「さっき出かけちゃった」って答えたらそのままお兄ちゃんを探し行っちゃったんだよ。彼女との約束をすっぽかしたの?」
「彼女じゃないって、約束は、まあ。そんなところだ。タマコの前で俺のことをお兄ちゃんと言ってないよな?」
「言ってないけど。向こうも私の話をほとんど聞いていないと思う」
ヨルノとタマコのやり取りを聞いて、ホッと胸を撫でおろした。




