タマコの口約束
「マヒルちゃん大丈夫だった?事故の夜に森の中で迷子になって怪我とかしていない」
雪崩るように俺に体重を預けるミキミは両手を俺の頬にあてて、顔を覗き込む。口と口が触れそうなほど近いミキミの顔には心配そうに俺を見つめている。
「僕は大丈夫だ。散々メールとかSNSとかで言ったろ。運よく森を抜けた僕はバイクのお姉さんに警察所まで送ってもらったんだ」
一週間ほど前に遠足の帰りのバスが土砂崩れに巻き込まれたことをまだミキミは引きづっている。俺は巻き込まれた夜にいろいろあってストーカー西野率いるバイク集団に保護されてあれやこれやでミナとアイちゃんと銭湯に入ったが、ミナ達の一件はミキミには話し手いない。
この一週間の間、一日も欠かさずに電話をしてきたミキミだが、俺にとって凄く迷惑だったが、俺を心配したことだったので文句は言っていない。俺にとって暇つぶしにもなったからな。ただ無人島へ遊びに行っている時にかかってきた時は無視したけど。その後はスゲー電話がかかってきた。
一週間の間、ミキミは学校から自宅待機と言われて大人しく自宅に籠っていたから寂しかったのだろう。このくらいのスキンシップも我慢しておこう。
「本当に心配したんだよ。マヒルちゃんがいなくなったあの夜も心配したの。それに警察署で保護した女の子が消えたって騒ぎになって聞いたよ」
「それはだな。腹が減って朝ラーに行っていたんだ。そのまま帰ってだな」
俺がミナ達から逃げた後、ミキミ達がいる場所にヘルメスさんの姿で現れた時に警察署ではそんな騒動があったようだ。そんなことは知らずに俺は男の姿に戻ってクラスメイト達と一緒に捜索隊に保護されて病院に運ばれた。
その後の警察署はどうなったかは俺は知らない。西野達がどうにかしたと思うが、俺を銭湯へ連れてきたのも西野の仲間のミナ達だしな。
「でもお互い怪我もなく無事でよかったね」
「そうだな。それとスマホありがとな」
「ううん、たまたま拾っただけだよ」
それからミキミと何気ない話をした。この一週間何があったとか。いろいろ話した。
話している内に学校へと到着した。
「ありがとうございました」
「田中さん帰りもお願いね」
「わかったわ。ミキミちゃん学校頑張ってね」
車から降りて校舎に向かう。
校門には事故から一週間も経ったのに取材陣が一角を陣取っている。通る生徒にインタビューしていたが、ほとんどの生徒が声をかけられても素通りだ。
「三日前からテレビ局の人達がいるみたい」
「だな。僕達も無視して中に入ろう。あれはテレビ局じゃなくて雑誌とかの取材の人だと思うよ」
「う、うん」
俺はミキミを引き連れて取材陣が陣取る一角を他の生徒と同じように通り過ぎる。
「ちょっと君、この学校の一年生だね。話を聞かせてくれないかな?」
「君達、一週間前の事故について話を」
「事故が起きた当時の状況を説明してほしいのですがよろしいでしょうか」
立ちはだかる記者達を前にスルーを決める。気持ちは記者達の波をかき分けて進むアイドルのマネージャーだ。
「通りまーすので退いてください。僕達はインタビューされる気はないので」
しつこい記者の波をかき分けてようやく校舎にたどり着いた。
何人かの生徒は記者の波に飲まれて質問攻めを受けていた。中には好きでインタビューを受けている生徒もいた。そいつは自分の承認欲求を満たしたいのだろう。
「グイグイきてすごかったよね」
「まったくだ。学校もやめさせればいいのにね」
「でもあの人達は仕事でしているだけなんじゃ」
学校側も大人の都合ってヤツで記者達を追い返せないのだろうけど、校門でスタンバイされているとマジで邪魔だ。
「ミキミは優しいな。そんなんじゃいつか誰かに利用されちゃってひどい目にあうよ」
「お!マヒルちゃんにミキミちゃんおはよ、ちょっとタマコ急にどうしたの?」
お人好しなミキミに親身に助言をしているとルカとタマコと廊下でバッタリ出会った。
タマコが光の速さの如く俺に詰め寄ってきた。
「マヒルちゃん!遊園地の約束はいつでしょうか?!」
「ゆ、遊園地の約束?」
鼻息を荒くさせるタマコの迫力にビビりながらも聞き返したが、いつものタマコと違う戸惑ったが、今しがた一つ心あたりを思い出した。
確か、スマホばかり弄るタマコと約束したのだったな。ヘルメスさんと合わせてやるって。タマコはあれでよく信じたよね。
次の日の朝方、森の奥でヘルメスさんの姿で現れた時に俺とヘルメスさんは友達って言ってしまったが、いいだろう。
そういえば、この一週間のタマコとやり取りはヘルメスさんは?って聞かれていたっけ。まともに答えていなかった。あれは約束はまだって聞いていたのか。
このまま先に延ばしてタマコからしつこくメールや電話が来ると思うから早めに片づけておこう。
「ってごめん、あの約束ね。ちょっと予定が合わかったみたいでね。今週の土曜日の午後が開いているって言っていたよ」
「そう。向こうの都合がいい時でいい。私は言われた予定に合わせる。今週の土曜日の午後ね。絶対その日は開けとくからそう伝えて」
今週の土曜日は実質的にタマコとデートすることになった。




