テロ6
テレポートで体育館の屋根に移動する。
空はすでにオレンジかかっている。あと少しで太陽が沈んだら、夜になるからこの街の状況を何とかしないとな。でも今日の夜はいつも通りの夜になるだろう。あることをすれば、何一つ変わらない日常的な夜に。
さてと、体育館の上に来たのはいいけど、どうした物か。見たところ面白いことは何も起こっていない。
強いて言えば怪我人がいることくらいかな。
体育館の中を説明すると、武装している生徒や教師はいる。その状況は人を襲う姿には見えない。出入り口付近に三から五人くらいの人数で銃器を手に外を見張っている。中には警察官の姿もある。体育館の倉庫にも銃を持っている人はいるけど、その近くには数人の女生徒が怪我人の手当をしている。
体育館の広い空間を生かして周囲から避難してきた人達が詰め込まれている。
今まで見てきた青年や少年達は問答無用で人を撃ち殺していたが、体育館にいる銃を手にしている人達は避難してきた人達を守っているように見える。きっとテロを起こしている人達とは別な人達で、銃器はテロを起こしている人達から奪ったものだろう。
肩を寄せ合って避難している人達の中にミキミとルカの姿があった。
特に面白みがない。
「ミキミ達の無事なところを確認できたし、別なところに行こうかな?」
学校から去る前にテレポートで体育館の倉庫に行く。
俺が急に現れたせいで体育館の倉庫の中は騒ぎが起こった。学習しないのは俺の悪いところだな。
「なんだ!」
「いつの間に!」
「みんなしゃがめ!」
倉庫内で唯一銃を持っていた男性が俺に向けて発砲した。俺は慢心していたから銃口から出た銃弾は見事に俺の腹部に命中して貫通した。発砲音で理解して痛みを感じ取った瞬間に撃たれた傷口を治療した。
俺もいきなり撃たれると思っていなかったが、体育館内でテレポートするよりはマシだろう。たぶん入口を守っていた人達からの的にされていただろう。それで出た流れ弾で何人か死んでいただろうから倉庫にテレポートをして正解だった。
また撃たれると困るので銃を取り上げ、銃を四次元空間にしまう。
さてと怪我人の治療を始めようかな。
怪我人は床に敷いた体操マットの上に寝かされて簡易的な止血しかしてない。しかも包帯代わりに衣服を破いた布で傷口を覆っている。このままだと数時間苦しんだ末に死ぬだろう。街がこの状況だから近くの病院も機能してないかもしれない。
体操マットに寝かされた人達は銃で撃たれた者やブービートラップで四肢を失った者がいて、どの人も死んでいておかしくないほどの状態だった。
能力を使って一人一人触れて治療していく。全員の治療を終えたころに新たな怪我人が運び込まれた。
怪我人を運んできた人達は俺の姿を見て怪我人を落としたけど。
怪我人は右太ももから下がなくなっていた。怪我人が落ちきる前に念力で引き寄せて、欠損箇所に触れて治療した。
俺の治療する姿を見ていた周囲の人達は信じられない物を見るかのように黙って俺の作業を見守ってくれた。邪魔されなかったので作業はスムーズに終わった。
おや?今治した人はさっき保健室で寝かせてきた人の内の一人だ。せっかく治してやったのにすぐに怪我をしたのか。
とりあえずここでやるべきことは済んだ。立ち去る前に体育館にある銃を全部没収しといた。
もう疲れてきたから安心安全な無人島にテレポートをした。
無人島にテレポートしたら、フルフェイスのヘルメットを脱ぎ四次元空間にしまう。最近、アウトドア用品店で買ったビーチチェアに身体を委ねる。いつも通りの姿に戻って海に沈む太陽を見ながら物思いにふける。
「ふう、疲れた。意外と楽しめたな。だけど」
学生の憧れであるテロ事件に巻き込まれる体験をできて満足した。けれどその代償に多くの人が亡くなった。テロ事件を起こした犯人の少年達と俺は無関係だけど、もっと多くの人を救えたはずだ。
根本的に俺とは関係ない。むしろ俺も被害者側だ。今日の状況で手の届く範囲で人を助けた。
誰も俺のことは責めないだろう。むしろ褒められるだろう。
ふと、不自然に設置された人工物に目を向ける。それは一昨日ばかしキャンプをしようと組み立てに失敗したテントの残骸で、片づけがめんどくさくて放置状態のオブジェである。
数個のコンテナしか無かった以前の無人島は違い、人工物が増えて有人島みたいな感じになっている。それは海の事件でスーパーアルティメット団から支払われたバイト代(?)で買った物を無人島に置き始めた。テントのオブジェもそのバイト代で買った物の一つである。いつか海風で痛む前に四次元空間にしまわないといけないのであるが、四次元空間に入れる気が起きない。気が向いたら片づけるつもりでいる。
そして見晴らしいい場所に置いた大き目な倉庫を改造して小屋みたいにしたのを家具を設置したり、窓を作って海を一望できるにしてある。
それら以外にもバイト代でいろいろ買って四次元空間にしまってあるが、そんなのはどうでもいい。
四次元空間から家の冷蔵庫から取り出したプリンを取り出して食べ始める。
夕焼け色に染まる海を眺めながら食べるプリンは少し寂しい気がした。
プリンを食べながら考えて決めた。
食べ終えたプリンが入っていた容器を四次元空間にしまって、筆箱と祝福の願書を取り出した。
筆箱から取り出したシャーペンで祝福の願書のページに願いを書いた。
書いた内容は「今日の記憶はそのままで、今日も何一つ変わらないいつも通りの一日だった」と。
テロ事件に巻き込まれた記憶は忘れたくないからそう書いたけど、テロ事件が起きた街は酷いあれようで普通の人として暮らすのは住みにくそうだったので、祝福の願書にそう書いた。そして祝福の願書を無くさないように四次元空間にしまった。
だから今日も変わらない日常を過ごしていた。テロ事件が起こらなかった日常に。
疲れた体をテレポートで自宅のベッドに移動して眠りについた。




