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海 ラスト

 いつの間にか南の海の中のような透き通った空間の中で女の人が泣いている。いやその女の人は人間であるのか分からない。身体の一部がガラスのように透き通っているし、頭部にはカラフルなサンゴが生えていた。サンゴが頭から生えている時点で人間じゃない。

 そんな彼女は苔むした岩の塊を抱えて泣いている。

 俺はそれが何なのかわからない。俺はさっきまで何をしていたっけ?


 岩の塊から意志のようなもの感じた時、女の人は俺の存在に気づいたようだ。

 今いる場所さえわからないのに目の前には明らかに人間ではない存在を前にどうするにもできない。

 風が身体を吹き抜けるのと同じ感覚、波の揺らぎを感じる。ここはまるで海の底だ。この場所では視界は使えるが、遠くへ行こうがすべて同じ場所に見えた。

 俺は何故この場所にいるのか分からないが、逃げることはできなさそうだ。彼女が敵意村れた瞬間俺はここで終わりな気がする。スーパーアルティメット団に救出されるまでどれだけ時間を稼げるか。彼女にいい印象を与える為に田中さんに作ってもらった弁当を差し出そう。

 念力で四次元空間から取り出した弁当を彼女の元へ届けるが、彼女は弁当を一瞥するだけで興味はないようだ。

 ここの住民である彼女は岩の塊と話している素振りをしているが、俺に危害を加えそうにないがいつ心変わりするのか分からない。

 彼女を観察しても現状はどうにもならないし、俺をチラチラ見ているようだが目立った動きはないが、少しは俺に興味を持ってくれているらしい。


 諦めずにあたり視界で探索をしていると目の前まで来ていた。彼女の左手に岩の塊に、右手にはサンゴと水の塊がふわふわと浮かんでいた。

 どういう訳か彼女は岩の塊とサンゴの塊を差し出してきた。


「それは何ですか?」


 差し出された2つの塊を指して問いかけてみたが、彼女は答えなかった。俺を見る目はとても悲しみにあふれていて今にも泣き出しそうな表情を彼女はしていた。

 それをどうしろと言うのだ。片方は彼女にとって大切な物だったはずなのにどういう心変わりで差し出しているのかよくわからない。

 状況をよくわかっていない俺は、何も言わない彼女から二つの塊を受け取った瞬間、二つの塊を食べたくて仕方なくなった。いや、ここで食べなくちゃいけないという感情ともいうべき衝動に駆られた。見た目は確かに食べ物ではないのはわかっているのに食べたくて食べたくてしょうがなかった。食べたら歯が欠けるのが分かっているのに食べたい。食べたら身体の中がぐちゃぐちゃになりそうな塊なのに食べたい。見ているだけで口の中が涎があふれてくる。

 我慢ができなくて最初に岩の塊を口の方へ運び歯を立てると歯に響く固い感触を感じると岩の塊が消えた。うまみとか食べ応えが無いのに凄く満たされた気持ちになった。次にサンゴの塊も口へ運ぶと同じように満たされた感じが身体中から走り抜けた。

 そして身体から力が抜けて俺は海の中のような透き通った空間の中に落ちた。


 次に目覚めた時は一室のベッドの中だった。部屋の中を見回すと棚と一輪の花を生けた花瓶しかない。たぶん、スーパーアルティメット団の施設の中だろう。異様なほど広い気がするが、複数の患者の相部屋みたいな感じだろう。ベッドが一つしかないのは変だと思うけども。

 身体を起こして、着ている服を捲って視界で身体を観察する。

 食べ物とは言えない物を口にしてしまったから変化があると思ったが、特に異変はなかった。

 膨らんだ胸に傷一つない肌。うん。あの女の人みたいに身体の一部が透き通ったり、頭にサンゴが生えてないな。

 あの場所はいったい何だったのだろうか?幻には思えなかったし、感触がはっきりとしていたから夢でもない。スーパーアルティメット団の不思議空間の一部でも思えない。

 あれが夢であれ、考えても無駄だろう。身体に異常がないからきっと忘れていても問題ないだろうし、体験したことを誰かに話しても笑われるか、正気を疑われるだけだから心の奥にしまっておこう。


 チャイム音が部屋の中に響いた。部屋の中はベッドと花瓶ぐらいしかないので木霊するように響いた。


「マヒルちゃん。お見舞いに来ました」

「マヒルちゃん!」

「リンちゃんにリッカか。ここはどこなの?」


 部屋の中へリンちゃんとリッカが入ってきた。

 スーパーアルティメット団のメンバーである彼女達にこの場所について聞いてみた。


「えっ?あっ!マヒルちゃんって寮に来るのが初めてなんですね」

「ここが寮?」


 ここがスーパーアルティメット団の寮の部屋らしい。

 ベッドが一つしかないとはいえ殺風景な部屋とは思った。この部屋よりもミキミ達が泊まった二階まである部屋の方がマシと口から出そうになったのをこらえた。

 俺はこの一室しか見てないからあの部屋よりも凄いかもしれないな。

 ベッド以外は家具とか揃えなくちゃいけないのか。まあ、ここに来るのは数える程度しか無いだろうからベッド一つで十分か。


「うん、そうだよ。マヒルちゃんの部屋何も無いね」

「ここに来たのが初めてだからね。家具とかないのは仕方がないよ。僕達ってまだ海の街から出られていないの?」


 ふと俺はまだ雨が降り続けている街から出られていないのを確認するためにリッカに問いかけた。


「えっと?全員があの街から避難していますよ?」


 俺の問いに疑問系で回答したリッカの話によるとあの街は雨が止んでから少しずつ波に飲まれて海の中に沈んだらしい。街は海の底で簡単に行けなくなったらしい。

 スーパーアルティメット団は急いで不思議空間のゲートを波に飲まれない場所に移転させたらしい。そうしないとゲートが波の中に飲まれたら、不思議空間内に海水が入ってくるそうだ。

 俺が寝ている間にそんなことが起きていたとはびっくりだ。

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