海34
シンが手招きするようにこちらにハンドサイン的な物を送ってきた。
仲間で安全だからこっちに来いといっているのだろう。
「シンがこっちに来いって言っているみたいだよ?」
「向こうが安全と判断したのだろう。行こう」
アヤが先に行って、俺はその後ろに続く。
「例の新入りが怪我を治してくれるから大丈夫だ」
「アヤの後ろにいる奴か?」
「そうだ。寺で人形に襲われたシンの怪我もアイツが治してくれた」
怪我をした人達は地べたに寝かされて、体に雨が当らないようにかろうじて無事だった人達が傘を翳していた。その中で一人だけ、イチローと仲がいいのか情報交換をしていた。シンは怪我をした人達の身体を調べていた。
「この傷口から見て刃が長いもので切られたのか?」
「ああ、俺達は墓地の方へ調査していたんだが、どこからか骸骨の侍みたいな奴が現れて一瞬のうちにこんなありさまだ。全員運がいいことに命の護符を使わずにすんだ。代償無しとは死にたくはない」
怪我をした人の服を捲りながらシンはそんなことを言う。そんな一人事に近い問いかけに傘を翳した一人が答えた。
言われてみれば寝かされている人以外にも所々刃物に切られた傷や服が見られる。酷い人は片手が肘から先が無い人もいる。手荒くやられたようで疲弊しているようだ。
話しの中に出てきた墓地にいる骸骨の侍はとても強いようだ。六人もいるスーパーアルティメット団の集団を敗走させれるなんてすごい。
「仲間だったでしょ?まっいいけど。全員治すけどいい?」
「ああ、始めてくれ」
嫌味を込めてシンに文句でも言おうとしたが、怪我人の前でそんなことを言うのは無粋な真似と感じて言い止めた。一度六人全員の怪我を治すのかシンに確認して、シンが頷いたのでまずは寝かされている二人から治療を始めた。
怪我の確認の為にシンを真似て服を捲ってみた。一人目は腹を一の字ように真横に切られている。二人目は右肩から左腰に掛けて斜めに切られている。応急処置はしているが、本当なら血がドバドバ出ているはずがこんな見た目なのに今は血が出ていない。体売りの女で活動している中で学んで多少どのくらいの怪我や傷で血がどのくらい血が出るのか分かっているけど、きっと残りの四人の中の誰かの能力なのだろう。
傷口に触れて切られた箇所を閉じて治療していく。一分もかからない内に二人の傷を治してやった。サービスとして大量に出血しただろうか血も増やしてやった。体売りの女として何回もやってきたからこの作業も手慣れた。
「オーケー。完了っと。今度はそっちの片手が無い人。こっちに来て」
「俺か?」
俺の能力を見て関心している片手が無い人を手招きして俺の方へ近寄らせる。
手が届く距離まできたら、無い方の肘に触れて新たな腕を生やす。二の腕に紐が巻き付いていた。切断された先から血が出ないようにするために結んでいた紐だろう。新しく生えた腕に血がいかなくなるから解いておこう。
きつく結ばれていたが、念力で紐を引きちぎって地面に捨てた。
そんな作業を数十秒で終わった。
「次」
「早えぇ」
残りの三人も連続で治療していく。
新たに生やした腕を見てそいつは引いているのか驚いているのかよくわからない反応をしていた。
残りはそんなに怪我はしてなかった。ただのかすり傷程度だったので撫でるように治した。
寝かしていた二人はまだ起きないが、誰かが運ぶだろう。
「全部終わった。戻ろう」
「わかった。男連中は寝ているヤツを運んでやれ」
ようやく戻れる流れになった。後はゲートと呼ばれる空間の靄を潜れば不思議空間内で少し移動すれば休むことができる。
と数分前の俺はそう思っていた。
ゲートを潜ったところまでは作戦通りだった。その流れで治療してもまだ目覚めないメンバーを医療関係の部屋に運ばれるのを見送るところは付き合いでついて行った。それでミキミ達がいる部屋がマンションへ行こうとしたら止められて報告会に参加させられた。
早く部屋に戻って休みたいのに。
俺達以外にも戻って来ていた班がいたようでいる班だけで報告会が行われると思ったが、全班が戻るまで待機と言うことで一時間も別室で待たされた。報告はシンだけで十分だと思うのだがな。
腹いせに別室に用意してあったお菓子を全部食べてやろうと思ったよ。でも全部は食べ切れなかったから食べると見せかけて四次元空間の中にいれたよ。
アヤとヨウも手を伸ばして食べていたけど。
「そういえばさ。これを寺から持ってきたけど?どうしたらいいだろう?誰かに渡したらいいのかな?」
「っひぇ!」
「おまっ。いつの間に。てか、持ってきたのかよ」
待っている間本当に暇だったので四次元空間から寺から持ちだした人形を取り出した。
人形を見た瞬間ヨウは面白い悲鳴を上げて、イチローは困ったヤツめと言いたそうに突っ込んできた。
観察するために床に置いた。視界で動く姿は見たが、ここで動くかどうか確かめたかった。寺で誰かが念力みたいな力で人形を動かしていた可能性もあるから、ここは不思議空間で俺の視界では覗けない部屋があるから誰かが操っているのなら外部からの操作できないはずだ。
「これはサンプルになりそうだな」
シンがそんなことを口にしながら人形を持ち上げて興味深そうに観察し始めた。




